カインの使者 第二部 第24章「攻防と旅立ち」
都市セイルが霊子世界へ向け移行しようとしたその時、アベルの軌道プラットフォームは二機の時空機を発進させる。プレアデス船は防御を試みるもフィールドは破られ船は破壊されてしまう。脱出したミカたちは時空機の動きがおかしな事に気付く。アベルの時空機はセイルに攻撃を試みるが失敗に終わり、その空域を離脱して行った。
セイルの霊子界への移行を見守るミカと志門……
第二部 第24章「攻防と旅立ち」
プレアデス船へ転送された志門とミカは遥か下方のセイルを見た。
巨大なクリスタルドームの中央に皆の居るドームが見えた。
特使は二人に言った。
「まだ終わりではありません。地上の時空機が間もなく来るでしょう、備えて下さい」
「まだ…まだ来るんですか⁉」志門は言葉が詰まる様に言った。
私は地上の時空機からセイルを護れるか特使に聞いた。
「セイルの霊子界移行に合わせて高次時空には防御フィールドを展開しています。恐らく現時空の物理攻撃になるでしょう…大丈夫、防げます…」
そう言うと特使は空間に黒い球形状の天球画面を展開させた。
私は志門にセイルの移行を見届けるように言うと振り返り、その画面を確認した。画面中央には月が映り、その反対側に軌道プラットフォームが滞空していた。
「特使、この船に兵装は有りますか?」と私は特使に聞くと特使は下を向き厳しい表情をした。
「この船はエネルギー体です、その一部を使うことは出来ますが…出来れば使いたくないのです…」
「どうしてっ!?」と私は聞き返す。もう時間の無いこの時だからこそ何とかしてほしいと思ったからだ。
「現時空間での戦闘なら、この船の能力で確実に地上の時空機は破壊出来ます。しかし、銀河連合の憲章で物理的破壊行為は禁止されているのです」と特使は答えた。
「こんな時にっ⁉ この前、もう一隻がアベルの軌道プラットフォームへ体当たりしたじゃないですか!船を失っているんですよ⁉」私は両手を広げて釈明を求めた。
「向うが霊子エネルギーを使っていたので足止めする為には、あの方法しかなかったんです。確かに船は失いましたが、それは私の一部が欠損したに過ぎません。落ち着いてください、ミカさん。私たちプレアデスは集合意識体です、船も含めて。人間のように個体が死ぬ、という概念ではないのです!」と特使はやや興奮気味に返した。
そんなやり取りの中、天球画面に映し出されているアベルの軌道プラットフォームから二つの輝点が出たのを私と特使は確認した。それは非常に速いスピードで接近していた。しかし、それはプレアデスが高次時空に防御フィールドを展開しているため、本来の時空機としての能力を発揮出来ていない証拠だった。
「特使、船の光子エネルギーで防御フィールドを展開して下さい、早く‼」と私は特使に向かって叫んだ。
プレアデス船はアベルの時空機の進行上に防御フィールドを展開した。が、次に時空機から発せられた光線がそれを簡単に貫き、船を貫通した。大きな爆発や衝撃が有った訳ではない、私と特使の目の前を閃光が貫いた。閃光が貫通した部分は黒くなり、それは広がった。
「荷電兵器⁉」と私が叫ぶと特使は私に避難するよう促した。特使は私と志門の所へ走ると船を分離させた。船の三分の一が私たちを包み込むと本船から分離した。
何本もの光線がプレアデス船を貫き、さっき居たはずの本船は輝きを失い消滅した。
「やられてるじゃないですかっ!」と私は特使へ叫ぶ。そして横に居た志門はガタガタと震えた。
「まさか、あんなものがっ――⁉ あの兵器は私たちと相性が悪いっ!指向性の超重力場を使っている」と特使は叫び顔を歪めた。
アベルの時空機はプレアデス船が消滅したのを見届けるとセイルのドームへ矛先を向けた。
「ダメだっ、やられてしまう!」と志門は大きな声で叫ぶ。
アベルの時空機は縦に二機が連なってセイルに進もうとしたが動きがおかしい…直線に突進する訳ではなく、何度もジグザクに複雑な機動をした。それは、まるで先頭の機体が後方に付く時空機の進行の邪魔をしているように見えた。
「どういう事だ、これはっ?」と私。
「こちらに向けて、何か感応波が出ています!」と特使は動き回る時空機の様子を見ながら叫ぶ。
“《 今のうちに逃げて、早くっ‼ 》”
志門はフッと気が付いたように特使の方を向いて言った。
「あの機体には彼が乗っている。今、彼の声が聞こえた!」
特使は志門の方を見ると、えっ!、という顔をした。
時空機が複雑な機動を行っている中、下方に見えるセイルに変化があった。ドーム全体が輝き出し、その輝度は秒を追うごとに増して行った。
志門はその様子を注視した。
「始まったっ! 移行を開始したんだ」
時空機は尚も激しく動き回り、後方に付けていた機体が立ち塞がる先頭の機体の僅かな隙をついてセイルへ向けて光線を発した。しかし、その光線はドームを貫くことなく直上で大きく拡散した。
「あの超重力場を退けたっ‼ これこそが霊子の力です!」特使はそれを見、賞賛するように叫んだ。
輝きを増すドームの上空で複雑な機動をしていた時空機は突然その動きを止め、両機が並んで対峙したと思われた後、その場から飛び去った。
私はドッと噴出した額の汗を手の甲で拭い、フゥ~ッと大きな息を吐くと振り返ってセイルの方を見た。
輝きが最高潮になったセイルは次の瞬間、音も無く消えた。重力音さえなかった。そして、セイルが在ったであろう場所には黒い巨大なクレーターだけが残った。
「消えた……行ったのかっ⁉」と志門。私はアベルの再攻撃がない事を特使に確認してもらうと、船をクレーターの月面近くまで降下するようお願いした。
そこには、ただ闇と真空の静寂が広がっているだけだった。
「何の痕跡も残っていない……」と私は呟いた。
「皆……無事に行ってくれたのかな……」志門は、つい今しがた起こった事が夢でもあるかのように、ただ月面を眺めそう言った。
特使は二人に言った。
「きっと上手く行ったと思います……これで私たちも役目を終えました……私は本星に帰りますが、その前にあなた方を地上へ送ります
船は月面から離れ、大きく迂回するように地球を目指した。




