カインの使者 第二部 第22章「終わりを告げる者」
アベルの軌道プラットフォームへ転送された志門は動力室へ潜入する。
人工生体脳の機能を止める事に成功し、カインの剣の同位体を回収しようとした際、何者かの声を頭の中で聴く事になる。同位体と共にループストライカーへ転送帰還した志門は、どのようにして同位体を手にしたか、その理由をマーナたちに語る。
カインの都市セイルでは霊子世界移行の準備が整いつつあった。アクエラは始とネフェリーム・バリアントの元を訪れ、彼女を戦闘に利用しようとした事を告白し謝罪する。
第二部 第22章「終わりを告げる者」
同位体を操作していたと思しき者は入口の歩哨の者へ軽く敬礼した後、立ち去ろうとしていた。
(今だっ、エアロックが空いている内に…)
中へ入ろうとしたその時、その者と視線が合った感じがした。しかし――志門はエアロックが閉まる前に動力室へ入り、直後にエアロックは閉鎖された。
(確かに目が合った…気付かれたのか…)
志門は少しの間、動かなかったが異常は起きなかったため動力室を見回すと、先に入っていたと思われるカプセルが開放された状態で部屋の中央に在った。その横には一回り大きなカプセルの中に倍力装置と思われる人工生体脳が溶液の中で浮かんでいた。それはおドロしい感じで非常に気味の悪い物だった。志門はこれを見て地上の科学とカインの科学の違いを実感せずには居られなかった。
人工生体脳が納められたカプセルから太いケーブルが伸びており、それを辿って行くと四角い台座の中のガラス越しに剣の様なものがあり、それは鞘に収まった状態だった。形はカインの物に似ていたが表面には見たことも無い、カインとは違う文字が記されていた。
(これが同位体か……)
志門は計画通りに人工生体脳のカプセルに進むと、カプセル内溶液の循環経路を探した。特に迷うでもなく溶液交換用のチャンバーを見つけた。志門はその前後に付いている止水バルブを閉じるとチャンバーを開け、アクエラから渡された装薬を細長い円筒形の物(注射筒)から取り出し、チャンバー内へ投入した。
蓋を閉めた後、チャンバーの前後にある止水バルブを開放すると装薬は流れに乗ってカプセル内へ吸い込まれて行った。
(装薬が溶液に溶け込んで人工生体脳へ浸透するまで少し時間が掛かるな…)
そう思った志門は床に腰を落とし暫くの間待った後で円筒形の物を操作し、操作パネルを自分の手元に展開させた。装薬は上手く生体脳へ浸透している…
(操作プロンプト……機能停止…これでいい…)
本当に機能が停止しているかどうかは同位体の回収まで分からない為、志門は更に時間を置いた。その間も部屋に誰か入って来ないか、と緊張は途切れることは無かった。
(同位体の回収を実施する…)
志門は立ち上がり、ガラス越しに同位体が収められている台座の前に立つとスキャンデーターを基に開閉ボタンを探す……それは台座の角に在ったがボタンはアクリルのカバーが掛けられていた。
(これは…緊急開放ボタンか?開くと警報信号か何かが発信されるのか…どうする〈汗〉)
その時、後ろで誰かが呟いたような気がした。いや、直接頭の中に入って来た。
《 それが欲しいの… ? 》
◆
ループストライカーの中で私たちは志門の回収信号が届くのを待っていた。
「遅いな…志門は何をしているんだ」とElle・シャナは言った。マニュアル通りにやれば信号を出してもいい時間だった。
「何かのトラブルか…もう少し待とう」とマーナはElle・シャナに言った。
暫く沈黙の後、マーナは船の私に呼び掛けた。
「ミカ…彼を許してやれよ」
{ ………… }
「あれは事故だった……アクエラがそう伝えてくれと…言っていた。人は間違いを犯す…私も…」とマーナ。
{私も…?}
私がマーナに聞こうとする前にElle・シャナが叫んだ。
「来たっ!志門からの信号だ、こちらへ回収する」
程なくして同位体を抱えた志門が現れた。マーナは志門の所へ駆け寄り同位体を受け取ると志門を労った。
「無事でよかった、よく頑張ったな!」マーナは言ったが志門は浮かない顔をしていた。
私はそんな志門を見ながら、すぐさまループストライカーを反転させセイルを目指した。
志門はElle・シャナに此処で同位体を調べるようにお願いした。
「此処でか?」とElle・シャナが聞くと志門は頷いた。
「これは…同位体の操作員が譲ってくれた」
私はそれを聴き船を止めた。
{現空域で…このままセイルには戻れない。そいつ(同位体)には仕掛けがあるかも知れない!}
「意味が分からないが、とにかくチェックしてみる」とElle・シャナは言うと同位体の構成と波動を調べた。
「…同位体には細工は無い…霊子波動はプラス側にチョッとだ」とElle・シャナは報告した。
それを聞いた私は再び船を動かした。
「志門、一体何があった⁉」とマーナは志門に尋ねた。
「操作員は…普通の人間じゃなかった…説明するのは時間が掛かるけど、ハッキリ言える事は、この同位体は彼から譲ってもらったんです」と志門は力のない声でマーナに返した。
「そいつと何か話したか、何を言ったんだ⁉」とマーナ。
「話したんじゃない…頭に直接言葉を送って来たんです。彼は台座を開けて?同位体を僕に預けました。彼が僕に送った最後の言葉は… “これで終わりになります” でした」
「意味が分からないが……反逆者か? ともかく必要な物は手に入った。ミカ、急いでくれ」
マーナは私に指示し、私はループストライカーを光速で月へ向かわせた。
*********
セイルでは都市民がドーム内に集まっており其々が始とネフェリーム・バリアントの行為に個人の波動を合わせるよう準備を行っていた。
ロタは特殊な振動数を発生させる音響機器を調整していた。それを見に来たアクエラは彼女に進捗具合を聞いた。
「ロタ、どうだ。進んでいるのか?」その言葉を聞いてロタは振り返った。
「アクエラお前、身体はもう良いのか⁉」とロタはアクエラが身体の動きがまだ十分に回復していないのを見て心配した。
「大丈夫だ、まだ体の中にナノマシンが少し残っているが…」とアクエラは答えた。
「ここはあと少しで終わる、アクエラは始たちを見て来てくれ」
ロタがそう言うとアクエラは少し離れた半球状のドームへ向かった。ロタは彼女の後姿を見たが、その後ろ姿はぎこちなさ以上に、何か胸を締め付けられるようなものを感じた。
「……其々が…負うもの……罪と罰……か」ロタはポツリと呟いた。
アクエラはドーム中央に在る部屋の入口の外から中へ入って良いか中に居る始に聞いた。
「大丈夫、入って下さい」と始の声が聞こえたのでアクエラは壁を抜けた。
部屋には貫頭衣の様なものを着た始とネフェリーム・バリアントが居た。
始は身体の自由が利かないアクエラを見て走り寄り身体を支えた。
「大丈夫ですか、その体は…?」と始は聞いた。
「いや、チョッとした事故だ…君たちにお礼と謝罪を言いに来たんだ」
そう言うとアクエラは近くの椅子へ腰を落した。
ネフェリーはアクエラに言った。
「礼など要らない、私がお前たち(カインの末裔)を外敵から護るのは先祖として当然の務めだ。その事を始から解らせられた。人の血が流れる事も無い、誰かが死ぬ訳でもない」
「……私は貴女に謝らなければならない」とアクエラは呟くように言う…
「謝られるような事は思い付かないが…?」とネフェリーは返した。
「貴女がもし我々の…私たちの要求を断ったら、私は貴女が今見ている私のように身体の自由と更に心を奪うつもりだった……そしてアベルと闘わせるつもりでした…許して欲しい……」
「アクエラ、とか言ったな……私も始と会った時に自分の犯した罪を……そのようにして神に告白した」そう言うとネフェリーはアクエラに近づき腰を屈めてアクエラの肩に自分の手を置いた。
「共に神に許しを乞おう…此処に置いてくれた『神』に…きっと良くなる」
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セイルに帰還した私はループストライカーを定位置に降着させた。
全員船から降りると、一旦サンヘドリンへ飛んだ。




