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カインの使者  作者: 天野 了
『カインの使者』第二部 [ 世界複合編 ]
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カインの使者 第二部 第16章「性愛の代償と生贄」

エステルに会う前、マーナと志門はマーナの自室へ立ち寄った。そこでマーナは独白するように今の自分の心境を志門に伝えた。志門を乞うマーナ。志門は苦渋の決断の末、彼女の思いを受け入れる。

サンヘドリンの政務執行局の長官室では残された者が最終的な合議を行い、その結論を出そうとしていた。途中で加わるマーナと志門だったがミカは志門の気持に異変が在ることに気付く。


合議は終り、遂にネフェリーム・バリアントの調査(検査)が始まろうとしていた。



第二部 第16章「性愛の代償と生贄」



マーナと志門はエステルの所へ行く前にある部屋に飛んだ。




ワンルームの小さな部屋でただの空間だった。志門はこの部屋が何の部屋かマーナに尋ねた。


「ここは…エステルさんに会いに行くんじゃなかったんですか?」


マーナは部屋に霊子感応遮蔽フィールドを展開させた。


「……?」


「ここは私の部屋だ。長い間使ってなかったが……」

「お姉さんの部屋、何で?」と志門は聞いた。


マーナは床に椅子とベッドを作らせ志門を座らせて部屋の照明を暗くした。壁の発光は弱くなり地上で言うところの照明のナツメ球ほどの暗さになった。



マーナは志門の隣に座ると頭を抱えて次のように言った。



「私は正直疲れている…せっかく地上で来人(志門の父親)の傍でゆっくり暮らせると思っていたのに…今はどうだ、カインの行末を託されている。セイルの都市民、約五千の重圧が……もう投げ出したい…志門に私の気持が分かるか…」



マーナの独白のような言葉を聴いた志門は少なからず驚いた。彼の知るマーナは前の世界も今も中心的な存在で、この様な弱々しいイメージではなかった。同時に自分のマーナに対する思慮が浅かったことを恥じた。



「お姉さん…自分の中のお姉さんは、いつも前向きで悩む前に行動する人だった……でも、今、自分は気が付いたよ…ずっと、その悩みや重圧を自分の横に積み重ねていたって…」



志門はマーナの手を自分の手で優しく包んだ。



「今の自分に何か出来る事はありますか…」


マーナは志門の手を払うように、今度は自分の両手を志門の首に回して泣き出した。


「エェッ⁉」と驚く志門。



(お姉さんが泣くところなんて…今まで見なかった)



「志門、今お前が出来る事でお願いがある…」

「言って、お姉さん。自分が出来る事なら…」


マーナは目に涙を溜め志門も彼女と目を合わせる。暫く大きな間が空いた。





「私と寝てくれ」ポツリとマーナは呟いた。





志門は衝撃を受けた。

(ミカにバレたら殺される…)


「ミカの事だな…不安は伝わって来ている。ミカに伝わらないように霊子感応の遮蔽フィールドは張っておいた……後は志門の気持ち次第だ…」



志門は自分の気持ちを確かめた。


(もし、性交までしてしまえば…自分の良心は……だけど、お姉さんもこのまま放って置けない。お姉さんも地上で暮らしていたから、自分の口でそれを言う事がどんなに恥ずかしいか知っているはずだ…それでもお姉さんは…僕に)



志門は黙って頷いた。そしてお互い左手首のブレスレットにボディースーツを収納させるとブレスレットを外し椅子の上に置いた。



一糸まとわぬ姿で向き合った二人は互いを確認するとベッドへ進んだ。




      ◆




サンヘドリンの政務執行局の長官室では始とネフェリーム・バリアント、そしてマーナ、志門以外が集まり合議が成されていた。


アクエラはケルブとセラフィムの最高評議会の議長に前議長のエルメラを就任させた事、そして収監を解いた後、通常通りの議事運営を行うよう告げた事を報告した。



これを聞いたエステルは溜飲が下がる思いでアクエラを称賛した。


「良くぞ、そこまでやってくれた。クライシストのチーフテンの職責の傍らで上手く評議会を纏めてくれた事に感謝する。これで一先ず、都市民の混乱は抑えられた」



ロタは周りを見てマーナが居ないのを確認した後、プレアデス特使と合議した内容を伝えた。


「マーナに居て欲しかったが…話しを進めよう。協議の結果だが、カインの剣は絶対に動かしてはいけない。これはネフェリーム・バリアントの調査前の結論になるが…もし我々の持つカインの剣とアベルのそれが刃を交えたとするなら、その先に在るのは世界線の消滅だ。前の世界のように “無のパラレルサイト” つまり、完全な無の状態からカインの剣の力の解放なら、空間の広がり(時空間)の生成は問題ないが現有時空間でそれをやれば現有時空間の枠組み自体が崩壊する――というものだ」


ロタはアクエラの方を向いて技術的補足を促した。


「現状ではまだ調査が進んでいないので、今から言う事は飽くまで推論と思ってくれ。ミカの報告だと現状ではカインの剣の霊子波動は0値だ。要するに今のところカインの剣は武器適性を持っていない…これはネフェリーム・バリアントの状態と同期している、という事が出来る」



ロタはエステルに告げた。


「技術的な課題は恐らく解消は出来ると私は思っている。が、問題なのはアベル側が保有しているカインの剣…語弊があったが同質の物が存在する。ここからが政治の話だ、アベルとどう向き合うのか。これは政務執行局の仕事になる」


エステルは答えた。

「その答えはケルブとセラフィム(最高評議会)で出さなければならない。幸いその準備はアクエラが整えてくれた。余り時間は無いが答えが出れば直ちに動く」



特使が進み出て告げた。

「この世界の行末は、あなた方人間に託されています。くれぐれも争いにならないようにして下さい」


その場にいる全員が頷いた。




粗、話が終りかけたところでマーナと志門が部屋に現れた。



「マーナ、何をしていた。合議は終わったぞ、お前らしくない!」とエステルがマーナを詰めた。


一緒に付いていた志門はチラッと私の方を見た。


その視線を感じた私は志門の気持が非常に不安定、言い方を変えると自責の念の様なものが伝わって来た。

「志門、貴方、何か有ったの?」



「いや……何でもない、何でも……」


志門は疲れとも焦りとも言えない表情で前を向いたまま答えた。



「遅れてすまない、自室で休んでいたら寝入ってしまった…」とマーナはエステルに答えた。


「まあ、お前は帰って来てから殆ど休んでないからな。あと少しでネフェリーム・バリアントの調査を始める。皆、しっかり頼む!」



そう言うとエステルは皆を残し長官室から出た。





   ********





その頃、隔離された部屋で始とネフェリ―はずっと何も話さなかった。ただ、抱き合ったまま……



始は此処が自分の家なら、どんなに色々な事を話せただろうと思った。


(自分と彼女はまるで……実験室のモルモットみたいだ。一刻も早くここから出たい、自由になりたい)



時間は進み、遂に彼女の調査(検査)の時間になった。機を置かずマーナたちが部屋に入って来た。中に居たアクエラは特殊な細長い円筒形の器具に色の違う錠剤の様なものを幾つか装填した。


「それは…彼女に何をするんだ⁉」と始は言った。


アクエラはそれを腰に装着しながら答えた。

「心配するな、鎮静剤の様なものだ。今すぐは使わない…」


部屋の空間にはモニターが展開され私とElle・シャナが二人とカインの剣の波動とパラメーターの監視に着く。少し遅れて数人の者が大きなカプセルに入ったカインの剣を運び込むと部屋を出た。



「試験体はこれで揃ったな…」とロタは言った。



次にアクエラはネフェリーにだけではなく始にも被服ボディースーツを脱ぐよう指示した。


「何で自分も脱ぐんだ?」と始は訝しがった。


「君たち二人とカインの剣のエネルギーパラメーターを正確に測定するためだ。君たちの感情も計測要素の中に入っている…」とマーナは二人に言った。


「彼女にだけ裸で居させる訳にはいかないだろう」と志門は始に言った。


始はネフェリ―と顔を合わせると互いに無言で了解し合った。



裸でベッドの横たわる二人――準備は整った。


ロタは調査(検査)の前に簡単な祈りの義を執り行った。それが終わると、特使(プレアデス)は二人の前に立ち、懇願した。


「始さん、ネフェリーさん。お二人の力でどうか、私たちの未来を守って下さい」


始は特使の言っている意味がよく分からなかったが次のように答えた。


「自分たちに出来る事なら…」




少し離れて見ていた志門はこの様子を宗教的な生贄のように感じていた。




(犠牲……かつて僕とミカが新しい世界を創った時の礎になったように……)










この物語は破廉恥な内容を含んでいます。その点、ご了承ください。

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