カインの使者 第二部 第15章「其々の思い」
アクエラはエステルにネフェリーム・バリアントの薬剤による生体操作を打ち明ける。それを非難するエステルだったが彼女の冷静な説明に暗黙する。
一方、ロタとプレアデス特使は近い将来の未来線と消滅の回避について話し合うが、その複雑さにカインの技術局と最高法廷・政務執行局との合議が必要である事を悟る。
ミカとElle・シャナは久しぶりに解放され、都市の広場で地上の生活の話をし出す。話はエスカレートしミカと志門のの性生活に及んだ。
調査の開始を待つ始とネフェリ―ム・バリアント。始は彼女の悲痛な表情から、その重圧を自身がどう受け止められるのかを悩む…
第二部 第15章「其々の思い」
「アクエラ、女は我々の祖先だぞ!礼儀も無くただの武器として使おうというのか⁉」とエステルはアクエラを非難した。
アクエラは冷静に答えた。
「もちろん女の同意を得るよう努力はします。しかし、今、カインが置かれている状況は厳しいものである事は長官もご存知だと思います。既に今回ループストライカーは攻撃を受け、プレアデス船は大破しました。アベルの軌道プラットフォームは月と地球を挟んで静止軌道に滞空したままです。こちら(ループストライカー)の観測ではこのプラットフォーム内にカインの剣と弱い重力変動を二カ所検知しています。これが、もし時空機の反応ならセイルには時間が残されていません」
エステルはアクエラの説明を聞き暫く黙った。
「……よかろう。但し、女には絶対無理強いはするな、同意を得るのだ。地面に頭を付けても!」
「分かりました!」
アクエラが長官室を出ようとした時、エステルは声を掛けた。
「アクエラ、お前は本来ここ(サンヘドリン)に在るべき者だ……」
アクエラはエステルの方を振り向くと何も言わず退室した。
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プレアデス特使とロタは別の部屋で主要な未来線について話し合っていた。
「問題なのは消滅に導くものが何であるか、とその引き金になる事象です。それは絶対に回避しなければならない」とロタは特使に言った。
特使はロタに答えた。
「それは言うまでも無くカインの剣で戦う事です。お互いに刃を交えれば、また時空間が損傷し別の世界を生成するか…最悪、現次元は私たち高次も含めて崩壊してしまうでしょう。これが現世界線消滅の意味です」
「クライシストの調査では確かにカインの剣がパラレルサイトの生成の原因とも言われている……いずれにしてもカインの剣を動かす事は危険、という事ですね。特使」とロタ。
特使は人差し指を立てて次のように言った。
「もう一つはあなた方の時空間操作です。アベル…地上の者が時空間操作を行った形跡が確認されています。これは未来線、また過去線を複雑にしている要因でもあります。私たちはその修復のために何度も動きました。残念な事ですが地上の者にはその認識はありません」
「フゥ~ッ…」ロタは大きなため息を吐いた。
「これはもう、技術屋と政務屋も併せて合議しなければ難しいな…」
ロタは頭に手を当てると天井を仰いだ。
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アクエラは評議会員を収監している部屋に護衛の憲兵二人を伴って訪れた。
大きな部屋で評議員たちは椅子で身体を広げダレた様子だった。
評議員たちはアクエラに気が付くと様々な暴言を吐きかけた。特に議長のメトセラは血走った目でアクエラに詰め寄ったが護衛の者がそれを阻んだ。
「この謀反者共がぁーっ!」と喚くメトセラ。
アクエラはフンッと言った感じで彼女を無視すると大勢の評議員に大きな声で呼び掛けた。
「この中に前議長、エルメラは居られるか‼」
その声を聴き、隅の方で一人の者が腰を上げた。
「私だ。何か?」
「貴女には議長を務めて頂きたい。勿論、それには此処に居る評議員の過半数の採決が必要になる。この選出に当り、私はカインの現状について説明する。それを判断材料にして欲しい…」
「貴様ぁーっ、いったい何様じゃぁあーっ!」と喚くメトセラをエルメラは制止して言った。
「聴こうではないか、メトセラ。我々を収監しなければならなかった理由を…私たちはカインの意思決定の最高機関だ。頭に血を上らせる者はその資格は無い!」
エルメラの言葉にメトセラはウッという感じで奥歯を噛んだ。
アクエラは長い時間をかけ、今までの事象と今後カインに起こるであろう事を評議員たちに語って行った。
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都市の広場で政務執行局への非難を繰り返し、騒めき立っている人だかりの中、私とElle・シャナは少し離れた場所で長い時間寛いでいた。
Elle・シャナとは地上の生活や子供の事など色々話し合った。地上の生活を知らない彼女にはとても新鮮な話だったようだ。
「ほら、私の子供。名前は果南って言うの。カワイイでしょう♥」
私は空間に投影したオプティカルスククリーンに生体記憶認識でカナンの画像を映し出し、それを指さして言った。
「うわぁ~っ、何て言ったらいいんだろう⁉♥ 表現できないけど心が和らぐな。人間の生体から作る成員はこんなに小さいんだな…私たちは出来た時から、今の大きさと余り変わらないからな」
「Elle・シャナも欲しい?」と私。
「欲しい、欲しいよっ!」とElle・シャナは叫んだ。
「じゃあ、地上帰還者に選ばれないとね。セイルに男性は居ないから」と私。
「そうだな、相談してみるか…。それよりどうやったら子供というものが出来るんだ?ミカの生体記憶でいいから見せてくれ!」
「えっ、それはチョッと…」私は顔が熱くなった。
「私はミカのパートナーだ。それは知る必要が有る!」とElle・シャナは私に迫った。
(そうか…プライベートって事を知らないんだった)と私は陰で思った。
私はElle・シャナの強い要望に見せるかどうか暫く悩んだが、スクリーンが他の者の目に入らないよう半球状の遮蔽シールドを作り、自分たちを覆った。
私は自分の生体記憶を引き出し――子供を作っているところを彼女に見せた。
それは四年前、志門の実家の彼の部屋で行った事だった。私は部屋の明かりを消し、自分の衣類を脱いだ後、彼の衣類を優しく脱がせた。そして朝までお互いを捉え続けた。
「ミカの上に志門が…体を揺らしているぞ!…ミカの表情……何か苦しさとも恍惚とも言えない表情が……志門の器官?がミカの中に入って行く……何か体液を出した⁈」
私は必死に恥ずかしさを堪えながらElle・シャナに説明した。
「彼の…体液が私の中に出される事によって私の生体構成情報と彼のそれが複合…新しい構成情報として私の身体の中で構築を始めた…訳だ。それが…子供と言う奴だ…ウゥ…」
Elle・シャナは尚もモニターに映し出される私の表情を見入って叫んだ。
「ミカが犯され(侵食)されている‼」
私は恥ずかしさが限界に達し、モニターとシールドを閉じた。その後、両手で顔を覆い地面に伏した。
「恥ずかしい! 恥ずかしい! 死ぬほど恥ずかしい‼」
Elle・シャナはポカンとした顔で、そんな私を眺めたていたがフッと周りを見回した。
「あれ~っ?あれだけ居た人だかりが居なくなってる…」
◆
マーナと志門、始とネフェリ―は用意された部屋で調査の開始時間を待っていた。
ネフェリ―は椅子に身体を横にし、四肢を投げ出すような感じで上を見ていた。その焦点は何処を見ているのか分からない虚ろなものだった。
マーナはミカの船内での報告に基ずきネフェリ―に尋ねた。
「お聞きしたい事がある。貴女はカインの剣の力をどこまで制御できるのか?」
「……聞いてどうするのだ」とネフェリ―はぶっきらぼうに答えた。
彼女を見ていた志門は思った。
(すごく綺麗な女性だけど…この人、本当に凄い能力を持っているのかな?)
始はマーナに言った。
「マーナさん、彼女は疲れています。本当なら僕自身、家に帰りたいと思っています。彼女なら尚更そう思っているに違いありません。急に訳の分からない所へ引っ張り出されたのだから…」
「分かった…」とマーナは答えると部屋の空間にモニターを展開させアーカイブから画像を引っ張って来た。
画像や動画とともにその説明が直接頭の中に入って来た。
「我々カインの歴史です。そのままで良いので聞き流して下さい」とマーナは少し言葉を整えて彼女に伝えた。
「始、私はエステルに会って来る、志門も来てくれ。彼女を頼む」そう言うとマーナは部屋から消えた。
マーナと志門が消えるとネフェリ―は仰け反った半身を起こし、椅子伝いに始に腰を寄せると彼の首に両手を回した。
「始、私はもう…争いに巻き込まれたくない」
ネフェリ―の顔には悲痛な表情がにじみ出ていた。
始は何も言わず、ただ彼女の背中に手を回し引き寄せた。
(自分は彼女のために何が出来るのだろうか……)




