カインの使者 第二部 第14章「再びセイルへ」
月の都市セイルへ帰還したループストライカー。マーナたちはサンヘドリンのエステルとの再会を果たす。各人の休息を取らせるエステルだったがアクエラを一人残し、ネフェリーム・バリアントの調査に必要な器材の中身について問いただす。
第二部 第14章「再びセイルへ」
ループストライカーの私は月の都市セイルを目指して飛んだ。
{セイルまで3ホーラ(時間)、距離368万ファーロング(ファロン)…マーナ、超光速なら一気に月まで行けるのに何でこんな遅い速度で?}
「アクエラがネフェリーを調べている。それが終るまで直ぐに帰るな、という事だ……アベルの軌道プラットフォームの動きに注意しろ」
{了解、現在アベルのプラットフォームは地上から55万ファーロング(ファロン)、月を挟んで静止軌道に着いている}
「近づき過ぎるとまた追われる事になる。恐らくだが、こちらのカインの剣と共鳴している。ミカ、アベルのプラットフォームのエネルギー状態は?」
{カインの剣以外は特に強く示される部分はありませんが重力変動が僅かに……プラットフォーム内の二カ所で確認できます}
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隔離室の中でアクエラ、ロタ、Elle・シャナ、特使、始はネフェリーム・バリアントを調べていた。彼女は特に暴れる様子でもなかったが明らかに不快な表情を浮かべていた。
「ごめん、ネフェリィ…もう少しだから」と始は彼女に言った。
「このボディースーツは…我々の物とは違うな…」とアクエラは彼女が纏っているボディースーツを見て言った。
Elle・シャナは壁に映し出されている彼女とその被服のエネルギーパラメーターを注視していた。
「完全に生体と同期している…ただ、これが被服としてだけの機能か、我々の物ように生体に必要な物を供給回収しているかどうかは……」
ロタはネフェリ―に食べ物を口にするか尋ねた。彼女は?という感じで次のように言った。
「勿論だ、お前たちはお腹が空かないのか?」
ロタはうむっという感じでアクエラの方を向いた。
「彼女は食物を経口摂取している。その辺りは地上と同じだ。彼女の被服は我々のような生体を維持する機能は備わっていない」
始は過去にあった彼女の被服の事を話した。
「これは彼女の装甲です。以前、そう言ってました」
「霊鉄で出来ているのか……女、いやネフェリ―、それを脱いでくれるか」とアクエラは彼女に言った。
「仕方ないな…脱納!」と、彼女が言うとその被服は左上腕のリングに生き物のように動き収まった。
彼女の肢体が露わになると始は慌てて目を逸らした。
非常に筋肉質で均整の取れた美しい彼女の身体を見た全員は驚いた。
「まるで戦士だな!」とロタは叫んだ。
彼女は当然、と言った感じで次のように言った。
「当然だ、私はセンテリオン(センチュリオン:百人隊長)だ」
Elle・シャナはアクエラの方を向いて注意した。
「我々と同じ物を着せるのはちょっと待て…彼女の霊子波動はカインの剣と同期していてとても強い。恐らく我々の物だと持たない、彼女の被服は恐らくセットで作り出されたものだ。剣とも波動が同期している」
暫く様子を見ていた特使が口を開いた。
「元々、霊子世界にいた私たちは太古に物質の姿で人間に接触しました。その時、私たちと人間の間に出来たハイブリッドが彼女です。彼女のように通常の人間と変わらない者もいましたが、中には…多くは巨人でした。私たちが彼等に伝えた技術の中に霊子世界の技術も在ったのです」
「今のあなた方は何故その技術を使えないのか」とロタは特使に尋ねた。
「私たちは現次元と霊子世界の往来は拒絶されています。これは私たちが高次元へ幽閉された証拠……あなた方が言うところの ""創造の淵源"《ヤーワァ:ヤハウェ》から与えられた処遇なのです。カインは霊子世界を通じてその力を現次元へフィードバック出来ます。が、私たち高次の存在はそれが出来なくなったのです」
「なるほど…それが時空間や光子技術に特化した理由だったのか」とロタは呟いた。
「この調査でこちらで用意するものは分かった。経口の食料と排泄桶……まだ追加の調査がセイルに戻ってからも有るので承知しておいてくれ」とアクエラはネフェリ―に伝えた。
「まだ有るのか⁉」と彼女は嫌な顔をした。
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月の都市、セイルではループストライカーの接近を確認していた。
格納庫では整備用の器材が配置され到着を待っていた。
3ホーラ(時間)後、ループストライカーは着陸定位置へスムーズに降下した。
{着地完了、光子準励起状態から実体化へ移行……質量基本ポイントまで回復。エネルギー接続解除。皆お疲れ様、降りてイイよ}と私は皆へ知らせた。
「ミカ、ご苦労様。後は支援整備(地上整備班)に任せて少し休息をとれ。Elle・シャナもだ」
マーナはそう言うとアクエラと他の者と共に船を降りた。
私もパーソナルディバイスの格納室から出ると残されたElle・シャナと共に船を降りた。
格納庫を出て都市の広場に出るとそこでは大勢が集まり政務執行局への非難を繰り返していた。
「あれは、なんじゃら…」と私はその方へ向いて言った。
「なんじゃら…? ミカもすっかりアベルに染まったな」とElle・シャナは少し呆れたように言う。
「Elle・シャナも地上に来てみたら。志門以外にも男性はいっぱい居るよw」
「あぁ、アレは…志門は良かったなぁ♥。あんな感じなんだな、男性に抱かれると…。少しミカが羨ましいよ、それと子供が出来るってどんな感じだ?」
私は歩みを止めてElle・シャナの方を向いた。
「チョー幸せ!」
「チョー?…って⁉」Elle・シャナは困った感じで首を傾げた。
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憲兵に護衛さたマーナをはじめとする五名は一端サンヘドリンへ飛ばされた。
「待ちかねたぞ、マーナ!あっ…」大きな声で叫んだエステルは横に居たプレアデス特使を見て衣を正した。
「プレアデスの方、我々に協力して下さりありがとうございます」とエステルは頭を深く下げ感謝の意を示した。
「いえ、協力になったかどうかは今後の進展次第です。ネフェリーム・バリアントが実体化してしまったのは全く予測外の事でした」と特使は答えた。
「別の部屋を用意しています。予想される未来についてロタと協議を行ってください」とエステル。
長官室付きの者が二人を別の部屋へ案内し部屋から消えるとエステルはマーナたちを振り返った。
「一先ずご苦労だった。そちらが我々のご先祖か?名前はネフェ…何とかだったな」
「ネフェリーム・バリアントです」と始が紹介した。
「私は疲れた。何か食べ物を出してくれ、別の部屋で寛ぎたい」と彼女は面倒くさそうに言った。
「分かった、貴方の調査は6ホーラ(時間)後に行おう、それまで皆と別の部屋で寛いでくれ。アクエラには話がある、此処へ残れ」
エステルはマーナにすまないと言った感じで片手を上げて合図を送った。
長官室はエステルとアクエラの二人だけになった。
「目録は見た。頼まれた物は用意しているが――、一つ聞きたい」
エステルは空間のモニターに目録を展開させた。
「目録の中に強力な薬剤が含まれている。どういう意味か⁉」とエステルはアクエラを詰めた。
「あぁ、この薬剤ですね。長官は驚いているのも無理は無いです、カインでもこの薬剤を使う者など殆ど居ませんから…まあ、今は薬剤自体旧式なやり方です」
「そんな事は聞いておらん!この薬剤をどう使うのかと聞いている」とエステルは語気を強めた。
アクエラは不敵な笑みを浮かべてエステルに答えた。
「彼女の霊子波動は非常に強い、もし彼女が我々の要求に逆らった場合の…アベルの言葉で言えば “保険” と言う奴です」




