カインの使者 第二部 第13章「ネフェリーム・バリアント」
隔離された部屋から抜け出た彼女と始は全員の前に姿を現す。プレアデス特使は彼女の姿と内観から彼女がカインと霊子世界の魂を併せ持つ混血、と周りの者に告げる。驚きと脅威の声が上がるが、始は彼女を擁護する。アクエラは始の言葉に賛同するがその内面には密かな思惑があった
第二部 第13章「ネフェリーム・バリアント」
ネフェリ―は志門に会いたいと始に言った。
「始以外で私の居た時代にそんな人間は見たことがない。どういう経緯でカインと結ばれたのか知りたい」
「どこまでも個人の付き合い方だ、と思う。それは敵味方じゃない」と始は言った。
「なるほど…私は始を知るまでアベルは全部敵だと思っていたからな」そう言うとネフェリ―はベッドから腰を上げ部屋の黄色枠(原子間隙通路)へ進もうとした。
始もネフェリーに後から連なって行ったが手前でどうしようもなく身体が前へ出なかった。
「これは霊子フィールドって奴か⁉ そう言えば月に送られた時、船の中で同じような事が…」と始。
「どうした、始?」
「これは出れないかも知れないな…ネフェリィは何も感じない?」と始は彼女に聞いてみた。
「…そう言えば、何か多少引っ掛かるものはあるが……大した事はない、私が元居た場所では敵の圧力はもっと大きかったからな」
彼女はそう言うと始の手を掴み引っ張るように壁を抜けた。
「えっ⁉」と驚く始。
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コックピット前に在る広い船内で全員が寛いでいて、志門は全員を抱擁し回っていた。
「志門教授、何を破廉恥な事してるんですか⁉」と始は志門に声を掛けた。
全員、エッという感じで声の方を向いた。
その中に居た私は慌てた。
「チョッとぉ、二人とも部屋に居てって言ったじゃないか⁉」
焦ったのは私だけじゃなかった。
「そういう問題じゃない、ミカ。お前、霊子フィールド張ってなかったのか⁉」とマーナ。
「ちゃんと展開しましたよーっ!」と、私はつっけんどんに答えた。
「アァ~ア、まだ結論が出ていないのに実体と接触してしまった…」とアクエラは始の隣にいるネフェリ―の方を見てアタフタした。
ロタとElle・シャナは少し離れ呆然として始とネフェリ―を見ていた。また特使は何か申し訳なさそうな表情で見ていた。
「ここに居る者は…カインの子孫なのか?」
ネフェリーム・バリアントは全員を確認するように口を開いた。
「始、これはどういう事だ⁉」とマーナはその場から動かずに始に聞いた。
「実は彼女がフィールドを破ってしまって…自分は一緒に連れ出されてしまった(汗)」
始は困った感じで頭に手をやるとそう答えた。
「あの男が志門と言う奴だな」
そう言って彼女は志門の方を向いた。
志門はそれに応えて言った。
「僕が志門だけど…」
「お前の女はどこだ?」と彼女は聞いた。
志門はそこに、という風に私を指した。
私は彼女の棘のある言い方に引っ掛かったが一応、自己紹介した。
「私はミカ・エルカナン。志門の妻だ。お前…失礼、貴方は始とどういう関係だ?」
「始は私の大切な男だ。彼が私を戦いの苦しみから救ってくれた」と彼女は答えた。
特使はネフェリーに近づき、その姿と彼女の内面(魂)を調べた。
「彼女は私たちとカインの混血のようです。光子と霊子をコントロールする力がそれを証明している…彼女が実体化したのは恐らく彼女の潜在的な能力が発動したのでしょう。始さんと再会したのが多分引き金になったのだと…」
ロタは驚いて叫んだ。
「ネフェラン(ネフェリム)か⁉ 初期人間の能力と霊子世界の魂を併せ持つという…」
「何を驚いている?」とネフェリーは首を傾げた。
「カインにはロタやElle・シャナ、ミカのように霊子世界の魂を持つ者はいるが肉体は初期人間には到底及ばない…言い方は悪いが今の我々カインとアベルから見ても彼女は怪物だ」
マーナは額に汗を浮かべながら呟いた。
それが聴こえたのか、始はマーナに注意した。
「マーナさん、その言い方は良くない」
「彼女はやっと争いから解放されたんです。彼女がどんな力を持つにしても人として見て下さい」と始は言った。
アクエラは少し考えた後にマーナや他の者に次のように言った。
「その考え方は正しい。我々がやらなければならないのは次へ繋ぐことだ。争って消滅する事ではない(彼女の力は使えるかも知れんな…フフフッ)」
私はハッと気が付いて始と彼女とカインの剣の霊子波動の変化をマーナとアクエラへ伝えた。
「カインの剣の霊子波動は0値を指しています。武器適性が消えました」と私はマーナに言った。
「霊子は完全な指向性だ…その絶対性が変わったというのか」とマーナ。
◆
月の裏側にあるカインの国都市セイル。
サンへドリンの政務執行局の長官室でエステルはマーナたちの帰りを待っていた。
(遅いぞ、もう何日経つ…これ以上は…)
エステルの最高評議会員らの拘束が表ざたとなっており都市民からの非難が政務局に殺到していた。
局長室付きの者がエステルへ進言した。
「これ以上、都市民を無視できません。全てを説明する他に――」
エステルはその声を遮り、次のように言った。
「カインの存続が危ぶまれる事態だ。そんな時にカインの剣の事を…アベルも持ってました、などと都市民に言えるのか⁉ 都市民は84回目目の次元探査計画の公開結果を見て、この世界を開闢させたカインの剣の事は知っている、その力も……今回はそれが破壊に使われる可能性も有るのだ」
「しかし…」
「この度の件で私は職責から外されるだろう…だが構わん、責任は私が負う。もしこの危機を脱したなら誰かが真実を伝えれば良い」
そんな中、長官室に局員が慌てて入って来た。
「長官、ループストライカーからです!通信が…クライシストのチーフテン、アクエラからです!」
( ………マーナではないのか)
「すまないが全員部屋から退室しろ。この交信には重要情報の入る可能性がある」とアクエラは在室の者を外へ出した。
エステルは部屋の空間にオプティックモニターを展開し、ループストライカーとのチャンネルを開いた。
モニターにはアクエラを前面に背後にはマーナやロタ、ミカの姿が映し出された。
「アクエラ、どうだ進展は有ったのか⁉」
「はい、長官。やっとこの問題を終わらせるカギを見つけました」
アクエラはネフェリーム・バリアントをモニターの正面へ連れて来た。
「……何者か?」とエステルは尋ねた。
「彼女はネフェリーム・バリアント、カインの祖先です」とアクエラは答えた。
「時空間移動を行ったのか⁉ あれは禁忌事項――」エステルが言い終わらない内にマーナが進み出て言った。
「これは事故だ。詳しい事は後で報告する」
アクエラが再びマーナの前に出てエステルへ告げた。
「これよりセイルへ帰還します。彼女の調査に必要な事項と必要な機器の目録を長官宛で送るので用意をお願いします」
モニターの映像は消えた。
「素っ気ないな……」
エステルは呟くとモニターに表示されているダイヤログを見た。次にモニターはアクエラの言っていた調査事項と必要器機について映し出した。
エステルはそれを確認して行った。何れもネフェリーム・バリアントの能力の解析と霊子波動を監視するものだが一部、神経系や感情をコントロールする強力な薬物が指定されていた。
エステルは俯きモニターを上目使いで見たまま腕を組んで黙した。
(アクエラ……何を考えている)




