カインの使者 第二部 第11章「アベルの攻撃」
アベルの軌道プラットフォームの攻撃によりプレアデス船は大破し消滅した。ループストライカーに避難移乗したプレアデス特使と始、そしてもう一人にネフェリーム・バリアントがいた。
攻撃を逃れたループストライカーの船内で今後の合議が為される中、ネフェリーム・バリアントは拘束室で目を覚ます。
第二部 第11章「アベルの攻撃」
私は急いでループストライカーを光子励起状態へ移行させた。
{Elle・シャナ、直ぐに逃げてっ! 接近の仕方が異常だ! まるで磁石に吸い寄せられるみたいに突っ込んでくる!}と私はコックピットのElle・シャナに叫んだ。
「まずいぞっ‼」とアクエラは顔を引きつらせて叫ぶ。
「プレアデス船から応答がない、もう少し待って!」とElle・シャナ。
横に居たマーナはプレアデス船に向けて叫んだ。
「プレアデス船、交信している時間はない。独自に回避してくれっ! Elle・シャナ。構わん船を出せ!」
アベルの軌道プラットフォームは軌道曲線を無視したように大気圏層へ突込み再びループストライカーのいる高度を目指し突っ込んで来た。プラットフォームは大気との摩擦熱でオレンジ色に輝き煙も確認できた。
{直線にこっちに突っ込んでくる、もう目視で確認できる距離だ!距離11ファーロング(ファロン)‼}
「Elle・シャナ。出せ!」
「超光速機動、緊急回避!」
ループストライカーは超光速度で軌道から離脱した。
数秒も経たない内に月を通り越した。
{…アベルの軌道プラットフォームは追跡を止めたようだ。しかし、何故あんな無理な航行をしたんだ⁉ アベルの技術では……現在、軌道を大きく外れた所に居る}
「Elle・シャナ、船を止めろ。プレアデスは付いて来ているのか?」
マーナが聞いている途中でプレアデス船もループストライカーの横へ現れた。
“ヴワァアア~ンンンンンン…”
プレアデス船から異常な重力音が伝わって来た。
「プレアデスから発信、特使からです」
「クソッ、冷汗が出た……マーナです、特使。大丈夫ですか?」
[ ウゥ…フネガ…ハカイサレテシマッタ……ソチラヘワタシタチヲノセテクダサイ ]
{プレアデス船の光子波動、極めて不安定! 特使はこちらへ飛べますが始と…誰だこれはっ?始と他、一人はこちらから転送しないと無理です}と私はマーナへ言った。
「直ぐに収容しろ!」とマーナは叫ぶ。
Elle・シャナは直ぐに座標を固定すると二人を船内へ転送させた。続いて特使も現れた。
「始を元の肉体へ戻すのに時間が掛かった…舩が破壊されてしまった…光子が分解した…」と特使は告げた。
メインモニターに映し出されたプレアデス船は船体の各所がフラッシュを焚いたように光るとそこが黒い穴のようになり、やがて全体の輝きは薄れ消滅してしまった。
ロタや志門もそれを呆然と見ていた。
「そんな…神様の船がやられるなんて」と志門はその場で固まった。
「光子が壊れて行く…強力な霊子波動だ。ミカ、ループストライカーは大丈夫か?」
{船体構成に異常は見られない……この船が霊子金属で出来ていなければ今ごろは…}
全員がプレアデス船の最後を見届ける中、アクエラは船内の中央で始ともう一人の人間が居る事に気が付いた。その者はカインと似たようなボディースーツを纏っていた。
「女…何者か⁉」
「彼女はネフェリィです」と始は言った。
それを聞いた全員が振り返り、始の横に居る者を注視した。
彼女はよろけながら立ち上がろうとし、始が彼女を支えた。
「私は…ネフェリーム・バリアント。センテリオン(センチュリオン:百人隊長)…お前たち…は)
そう言うと彼女はその場に崩れた。
「ミカ、部屋を作れ。女、いやネフェリ―と始を部屋で拘束隔離しろ!」
{分かりました。始、彼女を連れて暫く部屋に居て}そう言うと私は彼等のために船内に部屋を増設させた。
始は彼女に肩を貸し引きずるように部屋へ入った。
「ミカ、部屋には霊子フィールドを張っておけ、外へ出すんじゃないぞ!」
{分かりました…}
◆
始とネフェリ―、私、Elle・シャナを除く全員が船の中央に集まり合議がなされた。
先ず特使が状況の釈明を行った。
「今回の事は私たちプレアデスにも予想外の事でした。彼女のアストラル体に時空を固定したはずの光子が流れ込んで船内で実体化してしまった…こんな事は初めてでした」
「あなた方は時空の先を見れるはずです。予想外は無いのでは?」とロタ。
「未来線は現在点に影響されます。確かに高次に居る私たちは未来を見れますが、それは流動的なものです」と特使は答えた。
「その中に在る重要線を――今回に至る事を予見できなかったんですか?」とアクエラは特使を詰めた。
マーナは腕を組み俯きかげんで特使に尋ねた。
「特使、もし今回のお事が起こらなかったら…特使はどうしたかったのですか?」
「どうしたかった?質問の意図が分かりません」
「特使は始とあの女、もといネフェリーム・バリアントが話し合いの後に再び引き離される事をどう思ってらっしゃったんですか…これが質問の意図です」
特使は俯いて悲しい表情を浮かべ、次のように言った。
「とても悲しい…これは人の死別と同じです。ここまでの未来が私たちには見えていたのです。語弊がありますが私個人はそれを望んでいませんでした」
「ありがとうございます、特使。きつい質問をし、大変失礼しました」
話は今後の対応へ移った。
「ネフェリーム・バリアントはこの世界に実体化してしまった。我々が一番危惧していた事だ。この世界線に大きな影響が出るかも知れない…」とマーナは言った。
「しかし――我々の世界は既に別世界と複合されている。女、いや彼女の存在は何かを示唆しているのではないか」とアクエラは言う。ロタはその後を繫いだ。
「私が思うところだが…彼女はこの世界線の分岐の鍵になるのではないか、そう感じる。こうなっては我々はこの世界を良くしていく以外にないのではないか?」
「方法は有るのか? 特使は、プレアデスはどう考えておられますか?」とマーナは言った。
マーナの問い掛けに特使はゆっくりとだが確かに答えた。
「私たちは長い時間を掛けてアベル(地上)とも交渉を重ねて来ました。平和を望むムーブメントは広がってはいますが、それを喜ばない統括者たちが多くいます。地上の科学レベルは既に私たちの水準に達しようとしています。統括者はこの技術を秘密裏に独占しています。それを止めない限り争いは止まりません。その上、カインの剣で霊子技術を手に入れれば私たちでさえ脅威なのです」
それを聞いていた船の私は大使に問うた。
{アベルの軌道プラットフォームは大気圏で火を噴いていました。それほどの脅威とは思えない…}
「何らかの理由で物質的な軌道プラットフォームに置いたのかも知れません。それとは別に地上では既に初歩的な時空操作機の開発に成功しています」と特使は答えた。
「我々は今まで通り、月の裏に隠れて事態を静観するしかないのか…」マーナは頭を抱えた。
志門が口を開いた。
「遠回りだけどカインの地上帰還計画は間違っては無かった……僕はミカと幸せになりました」
それを聞いた私はカァ~ッと顔が熱くなった。
{志門…♥}
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隔離された部屋の中でネフェリーム・バリアントは目を開けた。
それに気が付いた始は彼女の支えベッドから半身を起こしてやった。




