カインの使者 第二部 第6章「神々との交渉」
マーナたちは月と地球の中間でプレアデスの船とランデブーを果たし、彼等(神)との交渉に臨んだがその進展は遅々として進まなかった。
体調を崩した志門を見舞う始とミカは交渉の進展について志門へ報告する。そこで志門はマーナやアクエラたちのプレアデスに対する要求が技術的なものではない事。また、ミカの補足でカインの技術が彼等プレアデスを凌駕しているのを知る事になる。
第二部 第6章「神々との交渉」
「どうやら……気を失っていたらしいな。自分はコックピットで――ウゥッ、ダメだ、思い出せない」
志門はベッドから半身を起こし暫くボーッとしていた。目の焦点が合わず何を見ているのか分からなかった。
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私はパーソナルディバイスの格納室から出ると志門のいる部屋の壁を抜けて入った。
「大丈夫、貴方」
「ミカ、僕は一体……」
私は近づくと志門の横に腰を下ろした。
「ごめんなさい、前に私やマーナは貴方に宇宙には人間しか居ないって言った…それは嘘じゃない。あの時、プレアデスの名前も出て来たけど私たちは同じ次元の知的生命体としてはカウントしていない。志門はそれを本当に何もない、何処を探しても人間以外、誰も居ないと強く自分の魂に刻んでいたのね……だから、貴方は今回の現実と心の中…魂の否定が葛藤を起こして思考が完全に停止してしまった」
志門はゆっくりミカの方を見ると呟くように言った。
「居たんだな…プレアデス」
私は志門の肩に優しく手を添え横にならせた。
「暫く休んで…今回は限界を超えている、精神がまだ安定していないわ」
志門は私の背中へ手を回して呟いた。
「ミカ、(僕には)君しかいない……」
私はコックピットへ戻った。
コックピットにはElle・シャナの他、誰も居なかった。壁面のモニターは光の塊がループストライカーの横に滞空しているのを映し出していた。
「向うへ行ったんだ⁉」
「うん、今プレアデスと話しているらしい」とElle・シャナは言った。
◆
プレアデス高等評議会の船の中ではマーナ、アクエラ、ロタ、始が高等評議会の一人を挟んで話をしていた。
始は周囲を見回して驚きを覚えていたが、志門のように魂でそれを全否定していなかったのが幸いしたのか、思考停止になるような事は起こらなかった。
船の中は上も下も存在しないような不思議な感覚で眩い光の中で各人の姿が浮かんでいるいるようなイメージだった。ただ、自分たちと話しているプレアデスの者はその姿形は女性?人の形はしているものの、外縁は光の靄に包まれた感じで輪郭がハッキリしなかった。
自分たちと向うの会話は直接イメージとして頭に入ってくる感じで言葉は必要なかった。
(プレアデスはただ見ているだけか…今回は私たちを助けて欲しいのだ):マーナ
〔ワタシタチハ、ジンルイニチョクセツ、カイニュウハデキマセン}:プレアデス評議員
(あなた方は昔、霊子界の禁を犯して我々の世界に降りて来たではないか!):アクエラ
(人間と交わるために不完全な人間の形を纏って我々の世界に干渉したのは事実です):ロタ
(『ヤーワァ』〈神〉から霊子の世界へ戻る事も許されず、ただ、高次を彷徨うだけの存在か、あなた方は…):マーナ
〔ソレハチガウ…ワタシタチノヤクメハ、ニンゲンノタマシイノ、セイチョウヲミマモルコトダ):プレアデス評議員
(どうやら、あなた方は分かってないらしい…我々の現実がこの空間全体に影響を及ぼす事を):アクエラ
(プレアデスやアンドロメダは人間が時空、次元の一切を含む世界の中心的役割を果たす事を知っているじゃないですか!でなければ、偶に人間の世界に干渉なんかして来ない。それとも、あなた方は私たちの次元で遊びたいだけですか?物質として):ロタ
始は最初、頭の中でこれらのやり取りを聞いていたが、だんだん面倒くさいと感じるようになった。
「船に戻っていいですか、マーナさん。自分には関係なさそうだ」と始は自分の口で言った。
始は評議員の方を見ると彼女?は何かとても悲しい表情をしていた。その感情のイメージが頭の中へ流れ込んできたが―――始は ""何故?” と思うだけで気に留めなかった。
ループストライカーへ転送された始は手で私とElle・シャナへお疲れ様、と合図を送ると無言でコックピット内の座席へ腰を下ろした。
私は始に聞いてみた。
「何か気になる事が有ったの、始?」
「いや、大した事じゃないです…」
「進展はあったのか?」とElle・シャナは始に聞いた。
「……いえ、ただ……神様も人間みたいだなって…話のやり取りを聴いていて何かそんな感じでした」
始は俯いて頭をうな垂れた。
ほどなくして残りの者が帰って来た。
「交渉は難航している。30ホーラ(時間)後に2回目の交渉だ」かなり疲れ切った様子でアクエラが報告した。
「出来る事なら我々は時空に干渉はしたくない…時間を遡っても彼等の住んでいる高次元からなら現次元への干渉も抑えられる。彼等は時間を超えて本を見るように事象を見ることが出来る、と言うより常に分かっている……四年前の始が出逢った女もだ…クソッ!」マーナは床を蹴った。
私はマーナに聞いた。
「向うから何か要求は有ったのですか?」
ロタが答えた。
「カインを含めた地球の人間の三分の二以上が平和的でなければ支援は出来ない…大勢の意識が変わらなければ一時的に次元を改変しても、また元に戻るだろう―――だと」
「大勢の意識が変わる以前に状況は悪化しているんだ! ミカ、"カインの剣" の残りがどこに在るか言え」とマーナ。
「ループストライカーの霊子波動走査器ではカインの剣との同期は、あと一ヶ所です。場所は…マーナも確認しているはずですが…」と私は答えた。
マーナはElle・シャナの方へ近寄ると操作卓へ両手を突いた。
「地球の軌道上に在るアベルの戦闘プラットホーム、 この流れは前の世界と同じだ!」
◆
私は始と一緒に志門の部屋に居た。
始は志門に事の次第をすべて伝えた。向うの船の中やプレアデス評議員の姿、話のやり取りなど全てを話した。
「君は大丈夫だったのかい?」
志門はベッドから半身を起こした状態で始に言った。
「…自分にはこれらの事象に対して余り知らなかったのが幸いしたのか、強い先入観は持っていませんでしたから…」
「僕は現実を受け入れられなかった。だけど、これから見る世界はもっと衝撃的なものになるだろうな…」と志門は天井へ視線を移すと呟くように言った。
「向うとの交渉については――教授はどう思いますか?」
「地上で流れている情報(動画)と同じパターンだな。プレアデスは人間の魂の成長を見ているんだろう。…まあ、確かに……子供に危険な刃物を持たせたりはしないよな」と、志門。
「教授、それは違います。マーナさんやアクエラさんは特に技術的要求をしている訳じゃないから…」
私は始の言葉を補足した。
「カインの技術はプレアデスに引けを取らない。霊子技術は彼等の多次元技術を超えたところに在る。我々は創造の淵源へアクセスすることが出来る。これには向う側(霊子界)の許可が必要なの。その調整のために空間接続技官が居たのだけどね…」
「ルーファ(ルーファ・Elle・シアーナ:霊子空間接続技官)お姉さんの事だな……」と志門は呟いた。
暫くして小柄な女性が部屋に入って来た。最初、誰かと思ったがよく見るとエフォド(神官着)を脱いだロタだった。大勢のカインの成員の中では小柄だが肌は薄い褐色、瞳の色は紫でその美しさは秀でていた。
「やあ、志門、少しは落ち着いたかい?」とロタは志門に近づいて尋ねた。
「はい、なんとか…今日は雰囲気が違いますね」と志門。
「エフォド(神官着)か? あれは肩が凝るからね。ボディースーツの私も悪くないだろうw」
ロタは笑いながら志門にそう言うと次を切り出した。
「第二回目の交渉に君も立ち会って欲しい。それとミカもね」とロタ。
「留守番は…緊急事態の対応は出来るんですか?」
「交渉はループストライカーで行う。Elle・シャナが操作卓で待機する。ここは敵性宇宙域じゃないから大丈夫だ」
彼女はそう答えると部屋を出る前に交渉の時間を告げた。
「あと3ホーラ (時間) 後、全員コックピットへ来てくれ」




