カインの使者 第二部 第5章「高次元の神々たち」
月を脱したミカたちは地球との中間点で滞空し、船内でブリーフィングを行った。それは物質や空間、次元について始と志門に語られる。
話が終ろうとしていた時、ループストライカーに接近して来る物体があった。
第五章「高次元の神々たち」
船は亜光速で一端、月と地球の中間へ飛び準光子状態で滞空した。
「質量、0.00014を維持。対視覚、対電測……状態よし。強い霊子波動は周囲に確認できない、接近する船は無い」とElle・シャナは言った。
マーナは頷くと全員に対し次のように伝えた。
「船を出す前に説明して措きたかったが余りに時間が無かった。今回のミッションは非常に複雑でデリケートなものだ。その影響は三次元の我々の世界や多次元世界に及ぶ。特にここへ来て日の浅い始に言っておこう、宇宙構造の概念だが最基部には霊子世界、次に空間がある。空間は3次元を含む多次元構造だ。パラレルサイト(平行世界)はその横に存在する別世界だ。次元と混同しないようにしてくれ」
始はなかなか理解できずにいた。
「そもそも次元とは何ですか?立方で表される理解なら4次元くらいまでです」
横に居たアクエラが説明した。
「平たく言えば意識と情報の展開の仕方だ。これは高次方向には進みやすいが高次から低次へは難しい。そうだな……仮に君が絵本を読んでいたとしよう。その中の話は酷いもので主人公はとても酷い目に遭っているのを見て、君はそれを助けたいと思っている…方法は在るか、始」
「自分がその絵本の中に入れば――ですが、無理です」と始は言った。
アクエラはアハハハッと笑うと次のように言う。
「始は物理研究者と聞いているが、まだ駆け出しなんだなw」
「方法はあるのですか⁉」と始は少し膨れっ面でアクエラに言った。
「簡単だ。君自身が話の内容を変えたり別のキャラクターを描き加えて主人公を助ければいいんだよ」
それを聞いて始はハッと気が付くと同時に自分の考え方の固さを反省した。
志門はこのやり取りを腕組みをして聞いていたが思いついたようにアクエラに尋ねた。
「神様がなかなか現れないのはそう言う事ですか…日本の神話では天照大神の孫、邇々芸命が八重雲を掻い潜って地上に降りたというのは……次元の障壁?」
それを聞いたアクエラは志門に近づき頭を撫でながら笑顔で言った。
「志門は良い感性をしているな。その通りだ、只ここで言う神の人の形というのはこの次元に合わせるためで本当の姿は我々では理解できないものだろうがなw」
マーナはパンッと手を叩いて皆の注目を集めた。
「実はアクエラには敢えてこのような話をするように言って措いた。多分、始や志門はなかなか理解しにくいと思ったからだ」
志門はエッ、というような顔をし、次に船の私に問いかけた。
「ミカは――知ってたの?」
{勿論、だけど貴方、これは霊子界へ行く事とは全然違う話なのよ}
マーナは続けて話した。
「船が出る前にエステルが話した事を覚えているか、皆。彼女は我々自身の進化、と言った。これがどういう意味か解るか?」
「進化論ですか?」と始。
「いや、在るべき姿へ戻るという事だ」とマーナは言った。
「在るべき…姿?」
「我々は意識と情報の…スープの中に居る。本来であればそれらの情報を自在に操ることが出来る存在なんだよ、それは高次との混在、最終目標は現次元をベースとした次元の統合だ。これが本来の世界の姿だった、と思われる」
志門はマーナに質問した。
「それって何でも有りって事ですか?」
「そう言う事だ。しかし、それにはクリヤしなければならない条件が在る。それはもうすぐ分かる…」
そう言うとマーナは怪しげな笑みを浮かべた。
ロタが聖典の記述で捕捉した。
「聖典の最後の方にも、こう記している。“『ヤーワァ』(神)は我々と共に在り永遠に住み続けることになるだろう"と。こう成るには人間自身が神性に近づかなければならない」
「まあ、結論を言おう。次元探査計画は終っていなかった。ミカと志門がこの世界を創った、までが霊子界の受け持ちで、ここから先は我々の実動なんだ。始が持ってきた “カインの剣” は実動のための切っ掛けだった、というのが答えだ」とアクエラは言った。
始は尚も尋ねた。
「話の筋は…理解できますが…何でネフェリ―の、彼女の存在が必要なんですか?」
「彼女は人間の原初に近い存在……それは今の融通の利かない凍り付いた世界を融かす鍵だからだ」と、マーナが始に答えて言った。
「警戒!霊子波動を確認した、エネルギー体が接近して来る!」
奥の操作卓でElle・シャナが叫んだ。
その緊張感は額に埋め込まれたクロスライザーを通して全員に伝わった。
{高エネルギー密度……これはカインの船じゃない⁉ 霊子波動は+、敵性は無い}
「来たか――ミカ、船はそのまま…プレアデス高等評議会の船だ」とアクエラが言った。
それを聞いた志門はアクエラの横へ走るとモニターに映し出された大きな光を見た。そして、顔を崩すと変な言葉で笑い出した。
「嘘やぁ~、ウソに決まっとるゥ。そんなの居る訳ないやんw」
{志門が壊れた‼…どうしてくれるんですかっ!ちゃんと説明して下さいよ、マーナ、アクエラ!}
「ネエネエ、これ嘘だよね。宇宙には人間しか居ないって前に言ったじゃん、お姉さんとミカも」
志門はまるで子供のようにハシャいだ。
{志門…彼は驚きと狂喜(狂気)で―――感情のバランスが危ない、彼を止めてっ!}
ミカは悲痛な声で叫んだ。
マーナは志門の後ろに回り、肩に手を添え顔を彼の耳元に近づけると低く確かな声で次のように言った。
「この現宇宙(三次元)に人間しか居ないのは事実だ、お前が見ているのは高次元から来た生命体だ。志門、お前が先に言った「神」の父系がプレアデスや他のアンドロメダだ。彼等は我々のような物質の身体は持ってはいない」
「………」志門は無言のまま立った。もう訳が分からなくなっていた。
始は志門に駆け寄り彼の顔を一度確かめると、次にモニターに写っている大きな光の塊を見て息をのんだ。
「自分は一体、……何を見ているんだ⁉」
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