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カインの使者  作者: 天野 了
『カインの使者』第二部 [ 世界複合編 ]
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カインの使者 第二部 第4章「時空への旅立ち」

カインの剣の出現によりカインの最高評議会、ケルブとセラフィムの追及を受け議場に立たされるマーナとアクエラ。その窮地を救ったのは最高法廷サンヘドリンの政務執行長官のエステルだった。彼女は都市内に戒厳令を敷き評議員たちを拘束、その隙に次元探査船ループストライカーを発進させた。


総勢七名、ミカ、マーナ、Elle・シャナ、志門と始、ロタ、アクエラの時空への旅が始まる。



第四章「時空への旅立ち」




私たちは先の討議の結論に基ずき、原初の人間であったネフェリーム・バリアントの捜索を開始する事を決めた。それは今までカインでは禁忌とされていた時空の操作を意図的に行わなければ成らない事を意味していた。


次元探査船ループストライカーは計画が終った後、霊子世界の探査能力は既に失われており通常の空間航行の出来る船と変わりなかった。


これは非常に痛手となった。カインの剣と同じ霊子の波動を持つと思われるネフェリーム・バリアントは霊子世界側なら波動の同期で見つけ出すことは容易かも知れない。しかし、今の段階では時空間を遡り実体を見つけ出し、直接カインの剣の波動と照合しなければ難しいのだ。



始はループストライカーの格納庫にアクエラと共に来ていた。そして、彼は様々な質問を彼女に投げかけていた。

「時間を遡る事をしなくても空間内の情報を取り出せないのですか?」

アクエラはフンッと言った感じで始めに答えた。


「アベルらしい考え方だな…確かに空間に情報は在るが、それは(まとま)った形で存在している訳じゃない。これらデーターというのは人間に作用し覚知を与えるための素粒子の揺らぎなんだ。その素粒子の揺らぎや運動を支えているのが霊子…命令子と言われているものだ。始は先ず、この基礎を覚えてくれ……この世界で存在している物質はその霊子波動を検出できるが――お前が探している女はこの世界線の者じゃなくなっている」


「この前、世界線や時間は自分が創っていると…」

始は腕を組んで考えた。


「人間の能力がどのくらいかは我々でもまだ解っていない事は多々ある。その女が非情に強い力を持っているとしたら自分の世界線を創った可能性もある」



ループストライカーの底部がエプロンのように垂れさがると、そこから私と志門、マーナは出た。



マーナはアクエラに近づくと次のように報告した。

「パラレルサイト(平行世界)が幾つか検出されたが、あとはメサイヤの能力次第というところだ」


私は腕組みし、目を瞑って首を少し傾げながら皆に聴こえるように伝えた。


「とても難しい事だ。これだけの質量と人員を別サイトへ持って行くには霊子エネルギーだけじゃなくて行くべき方向性に対して強い思念が必要になってくる。今回、私が船本体、メインのメサイヤ(パイロット)、サブはElle・シャナと始でやってもらう。暫くは全員の訓練が必要になるな」


志門が私に聞いた。

「僕は何をする?」

「志門は始を支えてやって、魂の部分で」

「思念的に、って事だな。分かった」



ループストライカーの脚の影からロタが現れると私に問いかけた。


「私が必要だろう、ミカ。技術的に霊子界からの判断が仰げない今、私の「祈り」の能力は欠かせないものだと思う」


   



    *******





その後、私を含め各人が必要な能力の開発プログラムを行っている間、マーナとアクエラは最高評議会のケルブとセラフィムに接する事が多くなってきた。





議会に於いて先の次元探査計画の成否と地球帰還計画の今後の方向性が検討されていた。



議会では多くの評議員たちの声で騒めいていた。


「お前たちは一体何をやっていたのか!次元探査計画は失敗じゃなかったのか!」

「これ以上、無駄なエネルギーを費やすな!」

「もう止めろ、こんな計画!」

「帰還計画もやめてしまえっ!」

「お前ら、アベルのスパイかぁ!」

「都市民たちに何と言えばいいのだ!」、等々……



“ ガンッガンッガンッガンッガンッガンッ‼ ”



議長のメトセラは激しくガベルを打ち鳴らした。それはガベル自体が壊れんばかりの凄まじい音だった。


「黙らんかっ!このクソがっ‼……クライシストのチーフと前任者、サッサと説明せんかぁ!」


議長自身が既に今回の事に激高しており汚い言葉で罵るように叫んだ。



アクエラが前に進み出た。


「クライシスト本部、チーフテン、アクエラが申し上げます。先ず、第84回次元探査計画については霊子空間接続技官のルーファ・Elle・シアーナの寿命を鑑み、本計画の成功は『ヤーワァ』から承認されたもの、と確信を持って申し上げます。この度のカインの剣の現出は…“カインの剣”で開闢した現世界に他のカインの剣が共鳴した結果、というのが中心的な推論となります…」



「推論…だとぉ!?」



議長のメトセラはガベルを握ったまま議長席から離れアクエラを目指して突っ走った。

「推論で済むと思っているのカアァーッ、貴様ァーッ‼」


アクエラの前で振りあげたガベルを持つ手をマーナは止めるとメトセラにこう言った。

「議長壇へ戻れ、BBA‼」

「BBA…何だそれはッ⁉」

「アベル語でアンタみたいに年を喰っている割には品の無い奴の事をそう呼ぶんだよw」

「なっ、何という無礼なぁ…ギィイイイーッ!」


メトセラは暴れ、マーナともみ合いになると評議員席の末席から一人の者がツカツカ歩み寄り、メトセラからガベルを取り上げると彼女の頭に振り下ろした。


ドサッと鈍い音を立ててメトセラはその場に倒れた。

「このクズどもが……」その者は小声でボソリと呟いた。


それは最高法廷サンヘドリンの政務執行長官のエステルだった。



それを見た大勢の評議員は言葉を失い固まった。



エステルは議長壇に登ると大声で叫んだ。

「戒厳令を発令する。ここに居る評議員を全員拘束隔離せよ!」



エステルの声と同時に大勢の憲兵が議会場内へ現れ、彼女の声に従った。




       ◆



その頃、私たちは休みも取らずに各人に与えられた能力向上に努めていたが、突然ループストライカーの格納庫へ招集が掛かった。


「一体何事なんだ…」と私は思った。


先に来ていたElle・シャナは大声で叫んだ。

「予定よりかなり早いけど船を出すことになった。皆、搭乗してくれ!」


全員が固まって船のエプロン(搭乗口)へ走った。


エプロンが上がろうとした時、志門が叫んだ。

「まだ、お姉さん(マーナ)が来ていないぞ!」


「チッ、何やってるんだ。マーナは…」とElle・シャナはぼやいた。


少し経ってアクエラとマーナ、エステルが現れた。

「チョッと、定員オーバーだぞ!」とElle・シャナは言った。


アクエラとマーナがエプロンへ入るとエステルは二人の手を握った。


「頼むぞ、マーナ、アクエラ。戒厳令の発令期間はそう長くは取れない。それまでに何とか問題解決の方法を見出してくれ」


アクエラは名残惜しそうにエステル言った。

「長官、私を庇って下さりありがとうございました」

「マーナや私の元部下に手を上げようなど…評議員の奴ら、百年早いわ!この計画の最終目標は我々自身の進化だ。これが成されなければ何れカインもアベルも衰退する……頼んだぞ、みんな!」


そう言うとエステルは船から離れた。


総勢七名、私ミカ・エルカナンとマーナ、アクエラ、Elle・シャナ、ロタ・Elle・ファト、志門と始は船内に引き上げられた。


船内はスシ詰めだ。私は直ぐに船内の拡張を命じたあとループストライカーのパーソナルディバイスの隔壁へ入ろうとしたが志門に腕を掴まれ抱き寄せられた。


「心配なのは分かっているわ、貴方。大丈夫よ、今回は前みたいに真っ黒にならないから…」

簡単に志門と唇を重ねると私は隔壁の中へ入った。


「船とダイレクトコンタクト。感応開始!」


コックピットの操作卓でElle・シャナは機体のチェックを終わらした。


「ミカ、聴こえてる⁉」

{良好…全てOKだ。光子、励起状態へ…質量マイナスへ移行……発信(発進)準備よし!}

「確認した、格納庫から離脱する!」

{Elle・シャナ、今までと航法が違う。注意して}


「任せなさい!ミカ」


Elle・シャナは壁面にモニターを展開させた。




上昇する船の下でエステルが手を振っているのが見えた。

皆もそれに応え手を振った。











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