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第8話 奇妙な音

 

  雨が降り出した。


  昼間なのに辺りは暗く見通しも悪い。おまけに道もぬかるんでいて歩きづらい。


「ねぇ、今どの辺?」


「知らん」


  この辺りには来た事がないので道が分からない。今はここの地理に詳しいコウジに頼るとしよう。


「コウジ、あとどのくらいかかる?」


「もうすぐだ」


  コウジはさっきから同じ言葉ばかりを重ねる。これではシンディが黙ってないぞ。


「あんたバカにしてんの? もうすぐもうすぐって全然着かないんだけど⋯⋯」

  下を向いて拳に力を溜めるシンディ。頼むから暴れるなよ。


「着いたよ。ほら」

  コウジはため息をつきながら歩き続ける。

「全く、やっと着いたのね」

  シンディは建物を見回している。


  ヘイジの言ってた廃れた都市に着いたが、酷い有様だった。

  都市の東側の地盤が大きく崩れて地面が低くなっている。廃墟となったビルと周りの建物の高さがそう変わらない。

  東側以外も崩れたビルがドミノ倒しの様に倒れている所もあれば原型さえ残っていない建物もある。それに雨で地盤が緩くなっている。

  こんな所に人がいるとは到底思えない。毎日が命懸けだ。


「で、ここからどこに行けばいいの?」

「東側だ」

  シンディは俺の答えを聞いて舌打ちをした。

「何で東なの」

  それは俺も疑問に思っていた。

  地盤がかなり低く、落ちたら即死する様な場所に人がいるとは到底思えない。


「危険なのはどこだって同じだろ。さっさと終わらせよう」

  コウジは冷静に見えても、考えなしに行動する事が多い。リスクもしっかり考えて欲しい。

  だが今はコウジの言い分が正しい。

  まずは近くで見てみないとどう危険なのかわかりずらい。



  東側の地面と低い地面の境に来てみた。

  いや、低い地面と言う言い方は間違っている。

  地盤が崩れたにしては断面が垂直に近い。崩れる前、地下に大きな空間があった事が窺える。

  というか崩れた物が流れ落ちる空間や崖がない限り地下はあったのだろう。


  地下があるのがわかった事で人が住み着く可能性が出てきた。このビルはかなり低く陥没した自然の壁に囲まれている。どこかに秘密の入り口でもあるかもしれない。


「吊り橋があるな。地面とビルを繋いである」


  橋があるなら話は早い。コウジは自身の見つけた橋をすぐに渡り始めた。かなり揺れていて脆そうだ。


「おーい、そんなに一気に行って大丈夫かー?」

  橋を渡っているコウジに大声で言った。

  万が一、待ち伏せでもあったら逃げ道なんてない。


「大丈夫だ! 2人とも早く来いよ!」

  コウジは何だか楽しそうだ。下を向いて一瞬表情が消えたと思ったら苦笑いをし始めた。

  楽しいのは何よりだが注意力が散漫になるとヘマをやらかすかもしれない。


「俺達が来るまで中に入るなよ!」

  一応コウジには忠告しておいた。頷いてるみたいだし大丈夫だろう。



  吊り橋の上だと陥没の規模がより鮮明に確認できた。


「う⋯⋯これは」

  思わず声に出してしまう程気持ち悪かった。

  下には大量の巨大な蟻がひしめいている。壁が頑丈なのか巣がどこにもない。


「やばい、吐きそう」

  シンディが蹲って口を抑えた。

「危ないから渡りきってからにしろ」

  シンディは頷いて立ち上がり、ゆっくり俺の後ろについてきた。


 それにしても脆い橋だ。1歩ずつ歩く度に軋む音がする。


 ーーーバキッ


「うわぁぁぁぁ!」

  突然背後から叫び声が聞こえた。シンディの声だ。


  背後を振り返ると板の外れた道があるだけでシンディはいなかった。


「お、おい!」

  俺は咄嗟に状況を理解した。シンディは落ちた。

  慌てそうになった自分を歯止めして、深呼吸をし、冷静さを取り戻して下を見た。


  シンディはいた。小さなテラスに倒れ込んでいる。

  俺は安堵し、すぐに吊り橋を渡りきった。運がよく、シンディのいる場所は吊り橋を渡りきった先にある外階段から簡単に行ける場所だった。


  コウジは呆然として突っ立っていたが行動力があるのですぐに我を取り戻して俺より先にシンディの元へ辿り着いていた。



  動かないので死んでいるのかと思い、冷や汗をかいたが気絶してるだけだった。


「足が折れてる、それに外傷も酷いな」

  折れた骨が突きたって足に酷い傷がついている。


「これじゃ暫く動けないな、帰りまでここに置いていくしかない。コウジ、医療道具持って来てたよな。貸してくれ」

 

「俺じゃなくてシンディが持ってたと思う、探してみるよ」


「わかった」

  コウジは急ぎながらも細心の注意を払い、シンディの荷物を漁った。

  俺は今のうちにシンディを仰向けにして自分の着ていた上着を畳んで地面に敷いてシンディの後頭部を下ろす。


  コウジはブツブツと何かを呟きながら荷物を漁っている。少し手間取っている様子だ。


「無いな。シンディも持ってきてないみたいだ」



 ⋯⋯コツ⋯⋯コツ⋯⋯コツ



「何か聞こえなかったか?」

  コウジも聞こえたようだ。


  硬いものがぶつかる音がする。いや、正確に言うと足音だ。一定のリズムで次第に音が大きくなってくる。


「まずい、誰か来た。シンディをどこかに隠せ」

「隠れる所なんてないぞ⋯⋯」

  言われてみればそうだ。ここはビルの外側にあるテラス。隠れる場所などない。


「中に入ろう。俺が先に行くから合図したらシンディを連れて来てくれ」

  コウジはシンディを見ながら俺の言葉に頷いた。

  シンディの顔色が悪くなってきている。急いだ方が良さそうだ。


  足音はビルの入口に近づく程大きくなる。もう、すぐ側まで来てるのかもしれない。


  足音がしなくなったのを見計らって周りの物音に気をつけながら静かに入る。中は長い間放置されていて床に砂利が散乱して壁は剥がれている。


  すぐに気づいた。砂利が散乱していたらさっきの様な足音はしない事を。それに、今入った通路は一本道だ。足音はかなり近づいていた筈だが近くに誰かがいる気配はない。


  何度か曲がり角を通ったが部屋がどこにもない。

  段々この通路が罠の様な気がしてきた。扉がどこにもなく通路は一本道。怪しすぎる。

  ビルに入るには別の道があったのかもしれない。俺だったら吊り橋の前にあからさまに入口なんて作らない。本当に罠かと思ってきた。

  不安だ。一旦2人の所に戻ろう。

テストがあってかなり投稿が遅くなりました。

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