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第7話 暗雲へ歩き出す

 

  子鳥のさえずりと共に朝がやって来た。

 

  俺はゆっくりと起き上がり、部屋の窓から外を見る。夜の光による輝かしさも良かったが、朝のこの清々しさも実にいい。


  風になびくカーテンを端に留め、一度伸びをしてから半分程残った小銭を上着のポケットにしまい込み外へ出る。


  少し歩いて着いた先は、昨日訪れたヘイジの家。食事も出来ず、武器もなく、何も出来ないので結局ヘイジに頼るしかなかった。


  聞こえるように扉に大きく3回ノックをした。


「はーい」


  奥からヘイジと思われる声が聞こえ、バタバタと足音が近づいてくる。


「あー、どうもレンさん。おはようございます」


「はい、おはようございます。眠れなかったんですか?」


  眠そうな目を擦りながら現れたヘイジに聞いてみた。


「はい、実は孫達が昨日の話を寝たフリをして聞いていたんです。レンさんが帰ってからはもう⋯⋯行きたい行きたいといつまでも言ってくるものでして説得するのが大変でしたよ⋯⋯⋯⋯」


  ヘイジは苦笑いをしながら答えた。流石に俺もこれには苦笑いで返すしかなかった。


「まあ、そんな事はどうでもいいとして、朝食は食べましたか? 昨日あげたお金があればそれくらいは出来る筈です。レンさんが朝食を食べ終わったら依頼に必要な物を買って集めましょう」


  ヘイジはやはり昨日と同じ様に頭のスイッチの入れ替えができる男だ。

  正直、世間話とかになるかと思ったがすぐに本題に入ってくれて助かる。


「いや、朝食は後でいいので先に他の物を買いましょう。ヘイジさんのお金で買うのは心苦しいですが⋯⋯⋯⋯」


  俺は一旦俯いたがヘイジの顔をしっかり見て言った。

 

  やっぱり人の金で自分の物を買うのは納得がいかない。依頼の報酬のうち半分はヘイジに金を返すという意味で渡す事にする。


「いえいえ、昨日も言った通り本当に大丈夫ですから。息子と息子の妻の為ならいくらでも投資しますよ!」


  そんな訳でヘイジに押し切られた。これでは報酬を分けようとしても今みたいに押し切られそうだ。


「そういえば昨日の話の中に依頼で集まった人達がいたって言ってましたよね?今日一緒に依頼を受けるなら人数を教えてください」

「ああ、そうでしたね、言うのを忘れてました。えっと⋯⋯確か人数は3人です。いや、4人だったかな? すいません、最近歳を重ねたからか物忘れが激しいんですよ。多分3人で間違いはないと思います。いや、4人だったかな⋯⋯⋯⋯⋯」

「ま、まぁ! そのくらいの人数がわかれば十分ですよ」


  俺は少し焦ってヘイジの言葉を途中で止めた。このまま止めなければいつまでも言い続けそうだ。

  ヘイジはもう歳だ。シワだらけの顔に白髪、見るだけでわかる。物忘れがあって当然だ。

「そ、そんな事はいいじゃないですか! 早く行きましょう!」

  結局ヘイジに押し切られて2人で買い出しに出かけた。


  まずは武器屋に来てみた。

  時代が時代なので銃などの難しい構造の武器はなく、あるのは長い鉈や短剣、刃物を括りつけた鉄の棒の様な手作り感満載の物ばかりだった。


「ガンナーで使ってた武器よりかなり劣化してますけどないよりはマシです。どれがいいですか?」


  ヘイジには悪いがここにある武器では脆すぎて、敵と戦うどころか破壊されて隙が生まれかねない。

  だがそれでも武器は必要だ。刃物などの脆そうな武器は使い物にならない。

  となると頑丈な鈍器を買う事が後に自分を助ける事になる。


「1番この中で頑丈な武器をください」

  俺のリクエストに無言を貫いていた店主が答えた。

「わかった! 頑丈と言ったらこのメイスだな! なんと言ってもこの重さと硬さ! 一撃喰らえば岩でも粉々に⋯⋯⋯」


「あ、ああ! わかりました! それにします!」


  店主は今のヘイジの大きな声によって状況に気づいた。何故かそれに対して高笑いをしている。

  というかさっきまで無言だったのはこのマシンガンの様な発言を出さない為だったのかもしれない。


「そうだレンさん、武器は私が買っておきますのでこのお金で必要な物を色々と買ってきてください」


  手に乗った他人の金を取るのはやはり抵抗がある。

  元々ガンナーでは金の貸し借りは禁止されていてルールも徹底していた。


「い⋯⋯いや、ヘイジさんも一緒に行きましょう!」


  俺は使い慣れた苦笑いをしてヘイジの手の上の金を握らせた。

  ここで苦笑いではなく自然な笑顔になれないのは俺のダメな所だ。

  こういう気持ちに気づかないヘイジだからいいが、いつか勘が鋭い仲間が出来るかもしれない。

  その時の為に今からでも自然な笑顔を作る練習はしておいた方がいい。


「わかりました。なら少し待っててください」

「はい」


  それにしても朝は昨日より全然賑やかだ。どの道に出ても人が行き交っている。この武器屋の近くの広場で子供達も遊んでいて楽しそうだ。

  よく見るとあの遊んでる子供はヘイジの孫だった。やっぱり寝るのが遅いから朝は早いのか。



  武器屋を後にしてからは店を転々とした。食事や服に双眼鏡などの道具に鞄なども買った。

  何故かフックの付いたロープも買わされた。何に使うのかはよくわからないがヘイジが必要だと言っていたのでその通りにした。


  買い出しも終わり、今は10時頃。そろそろ依頼板で集まった人達との集合時間になるらしい。

  集合場所は俺に気を使って、ヘイジの家になっていた。

  昨日のうちに決めていた様だ。俺にもわかる場所で助かる。


  俺がヘイジと共に家に辿り着いた頃には2人来ていた。


「おはようございますヘイジさん! そちらの方は⋯⋯あ、昨日の!」

「忘れてたのかよ」


  何故か昨日の検問の男がいた。

  名前を教えていなかったとしても昨日会った人を忘れるとは。


「名前言ってなかったな、俺はレンだ。よろしくな」

  皮肉曲がりに階段の上から見下ろして言ってやった。

「レンさんですか、俺はコウジですよろしくお願いします」

  見下されてるのにコウジは気づかなかったので少し期待はずれだった。


「何か、ヘイジに名前似てるな」

「え」

  何故かヘイジが反応した。

「あ、ああ! よく言われるんですよ」

  コウジはよく言われるのだと言ったけど慣れている人の反応とは思えない。本当は誰も気づいてないんじゃないか?


「嘘つけ、お前言われた事ないだろ」

  俺は少しニヤけながらコウジに近づいた。苦笑いしながら後ずさるコウジを見るのは面白い。


「あ⋯⋯あのー、私がいるの忘れてません?」

  コウジの後ろで口を尖らせた女性が俺達3人に指摘した。

  というか完全にこの人がいた事忘れてた。話してるとつい、他の事忘れるんだよな。


「誰?」

  俺がヘイジにこの女性について聞いた。すると女性の顔が徐々に赤くなり、歯をくいしばった。


「いきなり誰とか失礼じゃないんですか! というかヘイジさん! 何で教えてないんですか!」

  よくわからないが怒り始めた。その怒りは俺から、俺の言葉を聞かずにぼーっとしていたヘイジに向いた。


「ちょっと! 聞いてんの!?」

「へ? あ、ああ聞いてた聞いてた」


  いきなり話しかけられたヘイジは気の抜けた返事をして、適当に流した。

  その返事はこの女性には性格からしてまずいと思う。


「聞いてないでしょ!」

  こうなると大体止まらなくなるから無視した方が楽でいい。


「あと1人はどうした?」

「来ないみたいですよ? 俺達は一旦集合してからここに来る手筈だったんですけどドロックだけ来なくて。あ、ドロックは3人目の名前です」

  俺の問いにはコウジが説明してくれた。


「てかやっぱ3人だったんだ」

「え? 聞いてなかったんですか?」

  コウジは不思議そうに俺とヘイジを1回ずつ見た。

  ヘイジはあの女性の話を流し続けている。辛そうだから助け舟をだしてあげよう。


「あ、そうだ聞くの忘れてた。名前教えてくれませんか? いや、さっき聞いたか」


  女性は俺の言葉を聞いて不機嫌ながらも教えてくれた。

「お前は一言余計なんだよ! まあいい、私はシンディよ」

  なんと言うか、怒鳴り散らす女の名前じゃないような気がする。もっと静かで椅子に座り微笑してる花の似合う人、みたいな。

  言わないけどね。言ったらまたヒートアップしそうだし。


「そうか、シンディよろしく」

「その名前で呼ぶな!」

  教えてくれたのお前だろ。呼んで欲しくないのに教えたのか。


「じゃあなんて呼べばいい?」

「呼ばなくていいから!」

  もう面倒臭い。

  面倒臭いって久しぶりに言ったな。いや、そうでもないか。

  今度は無言で頬を膨らませるシンディを適当に流してヘイジを見た。


「ヘイジさん、もう1人の人来ないならもう行ってもいいですか?」

  もう待つのも疲れたので早く行きたい。シンディも待たされてイライラしてる様だし。


「そうだなそろそろ行こうか」

「え? ヘイジさんも行くんですか?」

  コウジが老人を無理に戦わせようとしてる。

  こいつは天然なのかもしれない。考えが読めない。


「冗談は程々にしとけよ」

「いや、冗談じゃ⋯⋯」


  何か言ってるコウジは無視して4人で町の出口に向かった。

  ヘイジにはそのまま家に帰る事を勧めたんだが、送り迎えくらいはしたいらしく町の出口まで見送りに来た。


「じゃあ頑張って来いよ!」

「⋯⋯⋯え? それだけ?」

  ヘイジは早く行きたい俺とシンディに気を使って軽い挨拶で済ましてくれた。さっきと同様何か言ってるコウジは無視して出発する。


「行ってきます。ほらコウジ早く来いよ」

  俺とシンディはコウジを置いて歩き出した。

  というかシンディがいつの間にか静かになってる。どうしたのか知らないが楽でいい。


「ちょっ、待って!」


  何かこういう展開、前にもあったような気がする。


  俺はコウジとシンディと3人で出発した。町の近くは錆びた金属で埋め尽くされている。

  空が曇り始めて暗くなってきた。雨が降ったら滑るので早急にここを抜ける事にした。


  今は3時間前、後で起こる事には目を背けたくなる。

会話中のキャラクターの動きを書くのが難しい。

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