第4話 逆転に次ぐ逆転
今日は厄日だ。
男⋯⋯いや、変態と戦うのは精神的にも辛い。
何故か武器を使わずに攻撃してくる。ヌメッっとした手つきで気持ちが悪い。
「はいはいはいはいはぁい!」
変態は掛け声を上げながら連続チョップをしてくる。目を見開いて口を大きく開けているのが非常に腹立つ。
攻撃はお世辞にも上手いとは言えないが、避けるのだけは本当に上手かった。
さっきからバトンを使って、突きやら薙ぎやら先端を飛ばしたりで攻撃しているのに、今度はヌルッとした動きで避け続けている。
だんだん避けられるのに対してイライラしてきた。
「お前の戦い方どうにかなんないのかよ!」
我慢できずに大声で言ってしまった。
「いいの? そんなに大きい声出したら周りの人に気づかれるんじゃない?」
変態はこれでも冷静だった様だ。
これには流石にまずいと思った。敵の増援が来たら大変なので、一旦変態から距離をとり、逃げる方法を考えた。
「あ、ここ防音壁だった!」
テヘッっと言いそうな顔で俺の顔を見てきた。
殺してやろうかと思った。
実際に当たれば死ぬ様な攻撃をしてるが、今の一言で明確な目標、即ち殺す⋯⋯いや、絶対殺すという目標ができた。
だが、そう簡単にはいかない。この変態の避けに特化した足をどうにかしなければ突破口が掴めない。
持久戦に持ち込むと、流石にこの基地の敵も異変に気づいて駆けつけてくるだろうし、それ以上にこいつのスタミナが切れる気がしない。さっきから息切れもなしに連続攻撃をしてくる。だからこの案はなしだ。
「ほらほら! 全然当たらないぞぉ?」
何か言ってるが無視だ無視。
持久戦も無理、攻撃も当たらない。なら色々と言葉で精神攻撃を。いや、これは考えなくても無理だとわかる。
ほら見ろ、あいつの顔。まるでドMの変態がお仕置きを待ってるかの様な顔だ。こんなのに精神攻撃なんてしようとしたら逆に精神乗っ取られそうだ。
よく見ろ、こいつの動きを。何かある筈だ。
⋯⋯⋯こいつ、広範囲の攻撃には弱そうだな。走って避けてる訳でもないし、工夫すれば簡単に捕まえられそうだ。
俺は横にバトンを振りながら先端をフックショットで飛ばした。
「うわっ! 危な⋯⋯くないけど?」
非常に高度な煽りテクニックを入れてきたがもう遅い。
「バカめ、避けたつもりでいやがる」
俺は変態に対抗し、ニヤニヤ笑いながらバトンを横に降った。
するとどうだろう。フックショットのチェーンが変態に巻き付く。更に変態に巻き付き、回った先端は、その鋭さを利用し壁に突き刺さる。これで変態はチェーンが巻き付き動く事ができない。
どーーだ! これこそが頭を使う戦い方だ! お前の様なバカにはできないだろ! さあ、許して欲しいなら今のうちに謝っとけ! 殺すのは変わらんがな!
⋯⋯⋯⋯なんか俺までおかしくなってきた。少し冷静になろう。
俺は変態を捕まえて余裕ができたので、一旦深呼吸をして落ち着いた。でも変態が動けなくて慌ててる顔を見ると笑えてくる。
「さて、ここからが本番だ」
俺は目を細めて上から目線で小さく笑い、囚われの変態を見た。
「え、今から!? 捕まって動けなくなった敵を見て言ってる、それ?」
「ああ、そうだな、言ってる」
「え〜っと、この状態の敵相手にどうするの?」
変態の目が泳いでいる、焦ってる証拠だ。
「さっきまで殺そうと思ってたがやめた」
変態は少しホッとしている。
さっきまで俺を煽って楽しんでた変態の表情が何度も変わるのは見ていて楽しい。
だが、ここで何もしないと思わせといて、無慈悲な言葉を浴びせる。
「ここの近くの立入禁止エリアにいる軍隊蟻達に食事としてお前を差し出す事にする」
変態の顔がみるみる青ざめていく。本当にこの表情の変化には笑いたくなる。
なんか俺の性格おかしくなってるような気がするが今は気にしないでどんどん変態を追い詰めよう。
「今は戦争中でしょ? そんな所に連れていくなんて無理だよね? ね、そうだよね?」
「そうだな、なら縛って隠しといてあとで持ってくか」
「そこまでして蟻に食べさせたいの!?」
変態が喚いてうるさいので縄で縛り直そうとしたところ、何か気になる事を言った。
「ちょーっと待って。あんたおかしいと思わないの?この戦争」
「は? 何か情報を教えて許してもらおうとか思ってんの? 今更?」
「あんたらの組織のボス。戦争の目的とか何も言わなかったでしょ」
無視されたのは気に食わなかったが俺の疑問の1つを突いてきた。何故こいつが知っているのかわからないが。
「お前は知ってるとでも言うのか? いや、その前にどこで知った?」
俺は試す様に変態の顔を見た。
「腕に付いてるポケットにあんたが知りたい事が入ってる」
かなり疑わしいが俺は言われた通りそのポケットを探った。が、何も入ってなかった。
「あんまり舐めてると今すぐ殺すぞ」
「ごめんごめん反対だった⋯⋯かな?」
「はっきりしろ!」
「反対です! すいません!」
俺はバトンを変態の首元に構えて反対のポケットを探った。
カチッ⋯⋯
何か押した。
「 おい、何かカチッて音がなったんだがこれってスイッチじゃないか?」
変態は下を向いていて表情が見えない。
何も起こらない。逆にその方が怖い。
「おい! 何のスイッチだ!」
変態は俺の言葉に反応する様に震えだした。
「もう終わりだ⋯⋯俺も⋯⋯お前も」
「ちょっと待て。終わり?何が終わりだ?早く答えろ!」
ギュルン!
な、手が!?
急に後ろから飛んできた謎の物体に手を固められてしまった。
すかさず後ろを向いて、見ると答えはあった。液体金属と書いてあった箱が壊れて中身が漏れ出している。
「終わりだ。お前だけな」
変態が穏やかな笑みをこぼし真面目な言葉を口にした。
「貴様が慌てふためく様は実に滑稽だった。俺は充分楽しませてもらえたぞ」
俺は何が起きたかわからずにその場に立ち尽くしていた。
「そうだ、念のため足も固定するか」
変態、いや元変態は腕のポケットからリモコンを取り出し、ボタンを押した。
直後、漏れ出ていた液体金属が俺の足に飛んできた。避けようとしたが、早すぎて避けきれずに足に絡みついて固まった。
「よし、これで動けないな」
元変態は相変わらずの無表情で、何とか立っている俺を見る。
「お前、どうした? っていうか誰?」
目の色まで変わっていると本当はさっきの変態じゃないんじゃないかと思えてくる。元変態は口をへの字にして答えた。
「誰って言われても、俺には名前がないからな。いや、ないっていうかたくさんあるっていうか」
今の言葉でこいつが何なのかわかった。変態の様な事ができるのもこれならわかる。
「お前の本業はスパイだな。スパイには人に名乗れる名前は存在しない。でも、何でここにスパイがいる?」
そうだ。スパイと言ったら敵の拠点や基地に潜入する筈。ここにいるのはありえない。
「俺はナベルのスパイ達を指揮する立場にある。まあ、カメレオンとでも呼んでくれ。で、この基地にいた理由だが、お前の組織ガンナーに紛れ込んでいる7人のスパイを待っていたからだ」
7人もスパイが紛れ込んでいたのか。待てよ、おかしくないか?
「何で7人もスパイがいるのにナベルはガンナーの攻撃に押されてるんだよ。外の兵士達はみんな混乱してたぞ」
カメレオンはため息をついた。
「あれは全部非戦闘員だから、混乱するのは当たり前。ナベルの兵はガンナーが油断した所に一斉攻撃を仕掛ける為、みんな隠れてたよ。今頃決着ついてるんじゃない?」
決着がついてる? それってこっちが勝つのは今の話からして有り得ないから⋯⋯おい、それじゃ俺はこの基地に閉じ込められたって事だよな。
ガチャ
突然破壊された筈の扉が開いた。
「あ、みんな帰ってきたみたいだ。お前の知った顔もいるかもな」
扉からは6人の男が入ってきた。どれも見た事のない顔だった。
だが、7人目が部屋に入ってきて、俺は自分の目を疑った。
「ロベルト?」
展開早くするって言ったけど流石に早すぎな気がしてきた。