第2話 静かに微笑む
「貴女がティツィアーノ・ヴェ・ガトーレ?」
ぴたりと止まる。
“……”
“…………”
沈黙が続き、静かに頷いた。
ティツィアーノはスケッチブックと鉛筆を手に取り、何か書き出した。
“貴女は誰?”
ティツィアーノは筆談で会話をするつもりらしい。
「私は雪乃と申します。失礼ですが、声をどうかしたのですか?」
噂では言葉に力があるはずだから喋れないことはないと思いつつも聞いてみた。
“……”
沈黙
“…………面倒くさい…………”
面倒くさいのひと言それもスケッチブックに。わざわざ書く方が面倒ではないのだろうか?
「あの、ティツィアーノさん?」
“私が喋ると危ない”
言葉は声を通して発すると実現してしまうから使わないのだと言う。
だからと言って毎回スケッチブックだと大変ではないのだろうか?
「わかりました。では声を出さなくてもいいのでせめて口は動かして下さい。これからはずっと一緒にいるので」
と雪乃は満面の笑みで言った。
“え?”
何故と聞いたならば、雪乃は読唇術が使えること。
嫁としてもらって欲しいとのこと。
ティツィアーノ・ヴェ・ガトーレのもとに押しかけ女房がやって来た。
フルツホルツの森は心地よい風を受けて緑を濃くする。