表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

軟禁少女。


監禁。または軟禁。



その言葉を聞いて、どんな想像をするだろう。




鎖に繋がれた哀れな生き物?

檻に入れられてる?

あるいは精神的に縛られている状況かもしれない。




現状、私はその状況下にある。

監禁であり、軟禁であり、精神的に縛られている。



食事は簡素。光源は最低限。寝る時間すら最低限とされたまさに奴隷。

転がるビン類、缶類、すべてが現状を悪くしている。



哀れだ。

ああ、哀れだとも!




だが、私は現状に屈しはしない!

諦めない勇気。

希望!


外の空気に触れる。外部との連絡をとり、現状を訴えるのだ!



暫く運動をしていなかった足腰が悲鳴を上げる。

ハァハァとあがる息。

Tシャツとジーンズという簡素な服装のまま、裸足でドアノブを捻る。



ガチャリと開くドア。

差し込む外光。久々の外の空気に目がかすむ。




おお、ハレルヤ――――!




「……お迎えですか、先生」




は……ハレ……おおぅ。




両手を挙げ、にこやかに口を開いたまま私は目の前の現実おとこに呻く。

黒髪短髪。前髪を斜めにセットし、銀縁眼鏡をつけた30才前位のイケメン。

カチャリと右手でフレームを上げた姿は、どS眼鏡と言っていいだろう。



「こ、ここここ……コンニチハッ」



鶏か!と突っ込みたくなるほど『こ』を連呼してから、挨拶を交わす。

ぼっさぼさの髪とか、黒縁眼鏡とか、上下色違いのジャージとか、

イケメンの前に出る格好ドレスじゃねぇとか頭をよぎるも今更だ。



せめて唇にリップ位塗っておくんだったぜ!ちくしょう!




かっさかっさの唇で、女子力ゼロどころかマイナスな私はだらだら汗を流す。




「イイ天気デスネッ」

「ええ、曇っていて雨が降りそうですけどね」

「ハハハ!ソウデシタカッ」



話題最悪だわ!チョイス間違ったわ!




Tシャツに薄手のジャケット。ズボンという格好なのにモデルさんな男性を前に、

私の精神力はガリガリ削られている!

せ、せめて、髪の毛を洗って歯磨きをして多少の化粧をする時間を!



いや、今はそれどころじゃない。




「ソレデハ私ハコレデ失礼シマスッ!」



びしっと敬礼をして目の前の男性の横を通ろうとする。

我が家の出口は一か所しかないのだ。大変残念なことに。



「おや、どちらへ?」

「……首根っこはやめてください」

「仕方ありませんね」



どS眼鏡は困ったような苦笑をしてから、私の頭をガッシリ掴んできた。

おい、痛いぞ。どういうことだ。

っていうか、動けないぞ。どういうことだ。



「……あのぅ」


「はい」



そろりとアイアンクローをかましていらっしゃる眼鏡様を見上げると、

魔王様がニコリと天使の笑顔で見下ろしている。





「そろそろ逃げ出す頃かなと思いまして。

満月先生、読者が待っていますから、早くやっちゃいましょうね」




差し入れも持ってきてますよと、近くの牛丼屋のお弁当とドリンク剤という飴を差し出して下さる


担当氏。

なんという飴と鞭。





「ちょっとそこまで散歩に」

「原稿が終わってから行きましょうね」

「ちょっと用がありまして」

「原稿が終わってから行きましょうね」

「あの、だから……っ」

「原稿が終わってから行きましょうね」

「ほ、他の言葉は無いのですか!ちょっとだけっ」




「原稿が、終わってから行きましょうね」

「……ハイ」






どうして漫画家なんてなってしまったのか。

そこそも毎回、余裕だぜって思っているのに無くなる日数はなんなのか。



毎月思うのに毎月懲りないのだ。




こうして私は軟禁される。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ