6 魔王だったようです。
魔王様魔王様。
「…ふぅ……全く、何なのよこの男たちは!って、誰かいるの!?」
気づかれたようですね、とレイに視線を向けると。
「……何か強い奴って気がするんだが」
「そうですか。じゃあ僕が先に行って話しかけてみましょうか」
歩いて潜んでいた藪の中から僕が出ていくと、少女はまだレイの潜む別の方向を警戒していた。
恐るべし称号『ほぼ空気』。
「あのー」
僕の頭から爪先までを一気に切り裂きながら、少女はぎりっと睨みつけて来る。
「あの、いきなり斬るのってどうかと思うんですよ、」
「何で!?何で死なないの!?」
確かにそこにいる人達ご臨終だけどさ。
ーー30分後。
「はぁ、はぁっ…ど、どういうことなのよぉ…ニンゲンってやっぱりみんなこうなの!?」
「あの、たぶん特別ですよ。僕は一ノ瀬透ーーいえ、こちらではトオル・イチノセでしょうか。お名前をお聞かせねがえませんか、淑女?」
少女はその金色の頭をくいっとあげて、真っ赤な目をしてこっちを見た。超美少女。16くらいだろうか、まあ幼女体型なのだけど。
「私は、ルリエ=ペルバリエ=ディナンシェール。まあ世で言う魔王よ、でも今は…恋する乙女として行動しているの!」
魔王?マジで?
「えーと、その…父親を刺し殺した勇者を探して312年、手がかりが見つかったから引きこもっていたダンジョンから出て来た、そういうことですか」
「ええ。それにしても…あなたも強いわね、女だとは思わなかったけど………好きな人は?」
どれからかってやろう。まだ出て来る気がないなら、ちょうどいい。
「そうですね、ちょっとツンツンしてて心配性で優しくて、意外といい奴で、それからーー尻尾が気持ちいい狼の獣人族でしょうか」
「なななななななにいってんだよおおおおまえ!?」
「嘘です」
「…う、嘘……?」
こっくりと頷くと、ぴぃん!と伸びて緊張していた耳が垂れて、尻尾がたらりとした。
「嘘……嘘…」
「抉ったわね、これは酷いわ」
「ええ、言い直しましょう。レイさんはかっこ良くて隙がないので、ついついからかいたくなるんですよ。それに本当に嫌いならあんなことさらりと言えませんよ」
「ほ、本当か?」
「ええ。……とうっ!」
「にぎゃあ!?」
ああ~、癒される…このなんとも言えない反発力、手触り…。
「おい、ちょっと、やめっ…!」
「暴力など(モフモフ)僕の前では(もふもふ)無意味です(ナデナデ)」
「何か余計な工程が追加された気がするんだが!?」
「究極の(モフモフモフ)、癒しなりけり…(モフモフモフ)」
「さて、じゃあ話に戻りましょうか。なぜか時間が経ってしまいましたが」
「絶対お前のせいだっ!」
妥当なツッコミはスルー。
「あなたが魔王で、思い人が元勇者って言うのも分かりました。あなたの目的地は?」
「ロアス王国…そこが元勇者のお墓よ」
考える。そしてーー。
「よし!じゃあついて行きましょう。レイさん、僕らはこれからロアス王国に向かいます」
一泊遅れて、
「はああああああ!?」
「ふぅ……お前の無茶ぶりはいつものことだよ、仕方ねぇな。ロアス王国に行くとなると、この俺の故郷ーーフェンリル公国に行かなきゃなんねぇんだ」
「モフれるならどこでも」
「お前本当それしか頭にねぇのか…まあいいや、とりあえず鬼門はそこだがーー魔族のそいつがいるなら話は変わる。楽にはなりそうだ」
僕はこてん、と首を傾げる。
「亜人差別ーーって奴な。俺は強いから捕まってねぇが、他の奴らは違う。売り飛ばされたりするから、出来るだけ出歩くなーーそれが若い無鉄砲な奴らは守れねぇからな」
「そうですね。でも僕はそんなことしませんし」
「そこで、ルリエの出番だ。魔族は亜人差別は絶対にしない。信じる神は同じ獣の神であり、同じく闇の神でもあるからな」
なるほど、啓典の民ってやつか。
「なら、そうしましょう。魔王は以降ルリエからエリル!写真なんかは存在しませんから、この綺麗なサラツヤの金髪をちょちょいといじくればーーふふふ」
「な、何気持ち悪い!?」
流れるような金髪。これをいじりまくらないで何が女子か。
「否ッ!!僕は、そんな金髪を一度触ってみたいんだ!」
「本音漏れてんぞ!」
ルリエ改めエリルの変装を、ポニーテールに黒レースでできたリボンを結んでやったところで妥協し、滑らかな指通りを楽しむのをやめさせられた後、僕はエリルに聞いた。
「そう言えば、その勇者って?」
「ああ、彼はね、昔のロアス王国の前身、テシア王国の救世主なのよ。詳しくいうなら、ちょっとはっちゃけて『ふっふふふ、人間など滅ぼしてくれるわ!』とか宣戦布告したからそれを殴り倒して止めてくれたのよ」
「わぁ、そんなそげぶ」
「で、間近で見てたんだけどね?もうかっこよかったの…あんな痛々しいお父様見てるわけにいかないし、殺しもできないから困ってたのよ、部下共々」
そして過去の魔王割と傍迷惑な発症者ですね。
「で、結局私はお父様の手にかかりそうになったのだけど、それを勇者が止めたのよ。詳しい事は勇者に聞いたほうが良さそうだけどーー本当にかっこよかったわ」
「へぇ、なんて名前の人なんですか?」
ぺったんこ気味な胸を張りつつーールリエ改めエリルが言う。
「シキ・イチノセよ」
「…………は?」
透「はい、恒例のgdgdタイムです。どうせろくなこと喋れないでしょうし、作者……一発芸を」
え!?何その無茶ぶり!
透「はい行きますよさんはい!」
(∪´・エ・`∪)
透「アリです!」
え?……マジで?
透「次回はまるっと旅をします」