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王妃の鏡  作者: 千穂
3/5

白雪がまっさらな新雪だった件

別名、女王が現実を受け入れられず、鏡にもう一度確認せずにはいられなかった件。

「あれは、今どうしている?」



「楽しそうに歌をお歌いになられながら、

後宮の階段掃除に励んでいらっしゃいます。」




楽しそうに……。






「何か言ってくることはなかったのか?」





私の落胆がわかったのだろう。


城代は申し訳なさそうに、


「はい、はじめは戸惑っていらっしゃる様子が伺えました。しかし、それはどのような手順で階段を綺麗にするかということを悩んでいただけのようで。」





「ボロを着て、掃除をすることに、怒りや疑念は持たなんだか」





うなづく城代の姿に、大きな溜め息をついてしまう。



アレは母親の胎内に負の感情や思考力を忘れてきてしまったのか?



いや、そうではない。


父親や兄達の真綿で包むような

溺愛の仕方が

ある種の虐待になってしまったのだ。





今、アレは人の生き方を学ぶ必要がある。






しかし、

乳母になんでもやらせろと言ったのは

間違いであった。





「今はもう、只管階段を磨くという単純作業に夢中で、一段一段と鏡のように階段が美しくなっていく様に喜んでおられます。

突然、勉学の時間がお休みになり、久しぶりに乳母様としていた掃除ができる事を心から楽しんでおられます。

今、こんな事をしていて良いのか、という疑念があるようには、とても」





白雪は今年14になる。



世の14歳は、社交界デビューに向けて

眼が血走らせ、

己を磨き、

処世術を伝授され、

華がくすむまで

待ってはくれない時の流れに、

追い詰められる時なのだ。



子供であることを赦されなくなると

突きつけられる時期に、

何故己は

後宮の階段掃除の仕事をする羽目になってしまったのか、

普通は疑念や焦り、怒りを抱く筈なのだ。





そうではないのか?



この感覚は私だけなのか?




不安を城代と宰相にぶつけてみる。




白雪の真っ白さは後宮勤めの者と、

城代、宰相しか知らない。




他には

相次ぐ家族の死に嘆き伏せっていると

伝えてある。


最悪の場合、

社交界デビューは延期させるつもりだ。


愛らしい白雪。


何も知らされず、

兄らの着せ替え人形として生きてきた。


言葉すら

上手く紡げないほど

何も教育されなかった

哀れな娘


母親がいれば違ったのであろう

乳母は懐く姫の姿に嫉妬した

王子達にすぐに引き離された


人を狂わすほどの愛らしさ

私自身、己の腹からは出ていないが愛しいと守りたい思わずにはいられなかった。



このまま、ただただ愛されるだけの者として

ある程度教養を身につけさせて、

アレを守り抜ける人間に預けることも考えた。







しかし、アレはそういう運命ではない。








多少腹が黒くなければ、

王族などやってはいられない。





況してや、王は尚更だ。






心を読ませず、

己を捨て、

国の為に、


時には身の凍るような決断も

しなくてはならない。





それが王だ。






私も王族の傍系として、

王に嫁ぐ可能性のある女として、

それを叩き込まれた。



無垢で真っ白なままの白雪には

辛いことだが、

闇を背負ってもらはなくてはならないのだ。





忙しさにかまけて、

乳母を戻し、

生き方を教えろと

大まかな指示を出すのではなかった。




掃除

洗濯

繕いもの

子守唄

………乳母としての生き方は身につけつつある



乳母としての



乳母は

これから護衛が来るまでの赤子の守り方と

人を呼ぶ手段や叫び方、

万が一都落ちした場合の身の立て方を伝授する予定だったようだ。




………。

もう一度言うが

アレはそういう運命ではない。







執務室を出て、寝室へ向かう。



王と王妃の寝室。

今は私一人で使っている。



入って右側の壁には、ビロードのカーテンがかけられている。


ワインレッドのカーテンを開けると大きな楕円形の鏡が現れた。







鏡に己を映し、問いかける。








「鏡よ、鏡。

国の隅々まで見通せる鏡よ。




次代の王は誰だ。」







何度尋ねても、


答えは同じ、




己を映していた鏡は、

此処にはいない白雪の姿を映しだしていた。



…………都落ちした場合の身の立て方は後ほど私自身は習っておこう……。

女王からすると白雪は宇宙人。

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