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春馬くんに懐かれた、何故だろう?
もうね、お気に入りのぬいぐるみを手に入れたような子供の表情に見えてきて、俺には彼を無理矢理、離させることなんて出来ないんだよね。
俺、こう見えて、前世では保育士だったんだよ? 何故か、子供や赤ん坊に好かれる体質?だったから、天職だったけど。
理事長先生から、引退したら理事長の座を君に譲るねって言われるくらいにはね。
俺はべったりと抱きつく春馬くんの頭を撫でながら、春来様にニコニコと微笑みかけていると、春来様は深い溜め息をついてから、こう言った。
「いつも、春馬には寂しい思いをさせているし……、仕事を頑張って覚えようとしているから、今日くらいはね、友達と一緒に居たいわよね。
仕方がないわね、普段から休まず頑張っているものね、今日は春馬はお休みよ。……私も自分のたった一人の息子には甘いのね、改めて知ったわ」
と、そう言って、この部屋から去って行ったが、春馬は不安そうな顔をしていたので、僕は笑みを深め、彼の頭を撫でながら、こう聞いた。
「何か心配事でもあるの? それとも、俺が友達だと春馬くんは不安かな?」
と、僕は満面の笑みでそう聞くと、春馬くんは勢い良く首を横に振って、
「ちっ、違うよ。あのね、今日は騎里くんの他にも、同い年の子が来てね、久夜様と同じように頭も良くて、運動が出来る子が来るんだけどね……、久夜様がその子とはどうも馬が合わないみたいで。
その子は王譲秋和くんって言うんだけど……、彼の方は丁寧な言葉は使ってはいるんだけれど、彼の方が一枚上手で、苛立つ久夜様の反応を冷静に楽しんでいると言うか……。
と、とにかく、止める人がいないと、いつまでも喧嘩をしているんだよ!」
そう春馬くんは言う。
そんな春馬くんに、
「そうか、君は二人の喧嘩を毎回止めていたんだね。偉い偉い、君は彼らよりもずっと大人でいい子だね、……君はやれば出来る子なんだよ」
と、前世で幼稚園児に対して褒めていた時のように、そのように褒めると、春馬は照れたように「えへへ……」と言いながら、微笑んでいた。
◇◆◇◆
俺は春馬くんと手を繋いで歩いていると、慌てた様子の兄様が俺のことを見つけた瞬間、俺を勢い良く、俺を力強く抱きしめた。
「目覚めたら、隣に騎里が居なくて驚いたぞ、出掛けるなら、出掛けるでメモくらい残していってくれよ、吃驚するじゃないか」
と、そんな兄様の言葉に、俺は、
「すみません、兄様。心配をかけてしまって……、次回は気を付けますから」
そう言葉にした後、俺は思わず口許を緩ませ、俺は兄様を抱きしめ返した。
数分、俺を抱きしめた後、春馬くんの気配に気付いたのか、俺から離れ、兄様は春馬くんの頭を、優しく柔らかな微笑みを浮かべながら、彼の髪型が崩れないように優しい手付きで撫でながら、こう言った。
「君が騎里の友達?
良く見れば、春来様の所の息子さんじゃないか。春馬くんだっけ、騎里と仲良くしてやってね、……騎里は最近まで屋敷から出してもらえていなかったから、君が初めての友達なんだ。
良かったら、ウチの屋敷に遊びにおいで。騎里の友達なら、大歓迎だから」
と、兄様は笑みを深めながら、そう言葉を言った後、僕らの元から去って行った。
そんな兄様に、
「不思議な人……」
と、春馬くんはそう呟いていた。
俺はそんな春馬くんの言葉の意味が理解出来なかった、全くと言っていい程に。