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 とある青年は無表情のまま空を見上げていた、……そんな彼の姿を見て、天使はまるで一枚の絵画のようだと考えていた。

 青年にとっては何気ない仕草なのだろうが、周りから見ると性別を問わず、思わず見惚れてしまう魅力が青年にはあった。

 そんな青年とも暫しのお別れだ。声を聞くと側から離れたくなくなるからと彼の姿を遠目から暫く眺めた後、静かに羽根を広げ、天使が神世界へ帰ろうとしたその瞬間の事だった……。

 とある青年は不意に何かを悟ったかのように、天使の方へと振り返った後に両手を広げ、無表情だった彼の表情は一変し、天使に向けて同性でも思わず見惚れてしまう程の満面の微笑みを浮かべながら、青年は天使を呼ぶ。

「刹那!」

 柔らかくて優しくて、甘やかされてると勘違いしたくなってしまうその声で、天使は無意識的に羽根をしまい、まるで磁石のように青年の方へと引き付けられ、彼は青年の方へと進める足を自分の意志で止める事が出来なかった。

 ……否、天使は青年に向い、動く足を止めようと事すらも考えなかった。

 天使は気付かれたのならしょうがないと、開き直るようにそう考えた後、飛び付くように青年に抱きついた。

 ……名前を呼ばれ、抗おうと思う方が間違っている、自分が彼に抗えるはずがないのだからと、天使はそう考えながら青年の温もりを確かめるように肩に顔を埋め、彼を抱きしめる力を強くする。

 そんな天使に青年は、

「会いに来たんなら、少しだけ側を離れる間の分だけ甘えに来れば良いのに、不器用な奴だな。……俺とその面はそっくりだ」

 と、からかうように青年は言った。


 天使は青年に構われている事に気付きつつも、彼は最後の言葉だけは右から左へと流し、顔を肩に埋めたままこう言う。

「……そしたら、次会えるまでの間もずっと側に居たくなっちゃうから、姿だけを見て神世界に帰ろうと思った。……だけど、帰ろうとした瞬間に君が振り返って、笑顔で俺の名前を呼ぶから、俺が我慢しようとしていた事が無駄になっちゃった」

 そんな天使の言葉に青年は可笑しそうに笑う。……そして、甘えん坊なのに頑固なんだなぁと嬉々とした声で彼は呟いた。

 そして青年は言う、

「馬鹿だな、お前は。言ったはずだろう? 刹那がどんなに俺から隠れようと、必ず見つけ出すって言ったはずだ。……それにこの世界で俺が終わりを迎えた時、きっと来世ではお前とずっと一緒に居られるような気がするんだ。

契約者として……否、親友としてお前の元へと現れると誓う。……だから、少しの間だけ寂しいとは思うが、我慢していて欲しい」

 そんな言葉に天使は、青年の肩に埋めていた顔を上げ、涙目になりながらも静かに縦に頷いた後、涙を堪えながら慈愛の籠った微笑みを浮かべる。

 青年はそんな天使を、無表情ながらも彼が向ける天使への視線はその無表情が幻かと思えるくらいに、優しくてとても慈愛が籠っていた。


 そんな空間を惜しむように天使は渋々と言った様子で青年から離れ、彼は一度閉まった羽根を再び広げ、涙を堪えるながら微笑みを深めた後……、天使は瞬きが出来ない速さで空へと旅立った。

 ……さっきまで天使が居たと言う証を残すかのように、青年の手のひらに一枚だけ雪白の羽根を残して……。

 青年は優しくその羽根を撫でた後、再び静かに空を見上げていた。



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