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 天使は瞬間移動をする。次は食堂、最後の元魔王に頼まれた事を実行するためにこの場所にやって来た。……手には鷹宏と和彦に渡していたお守りと似たような水晶を持って、柚季達には見られないように気配を消しながら、《鋏》形状の科学武器へと近付き、魔法をかける。

 終始慈愛に籠った表情を天使は浮かべながら、《鋏》形状の科学武器の隅々まで魔法をかけ終わったと同時に、……彼が手に持っていた水晶はいつの間にかに消え、《鋏》形状の科学武器の見た目も変化し、まとう空気感も以前とは全く違うものとなっていた。

 天使は魔法をかけ終わった《鋏》形状の科学武器を食堂の床へと丁寧な手付きで置き、クスリと更に慈愛の籠った微笑みを深めて、天使は食堂を去ろうとしたその瞬間の事だった。


(ありがとう……。償いは次に“アクマ”が目覚めた時。……それまで、皆が幸せであり続けるように、見守っているからね)

 と、そんな穏やかに笑い、優しく柔らかい口調でそう言う暁の姿が天使には見えたような気がして、思わず彼は目を擦る。

 ……だけど、その仕草をし終わった時には先程の光景も確かに聞こえた暁の声も、全てが幻覚だったかのように、そこにいたように見えたはずの彼の姿はなくなっていた。

 天使は穏やかに、慈愛の籠った笑みを先程まで暁のいた空間に微笑みかけた後、彼は足早に食堂から去り、神世界へと戻る前にある人物に会いに行くのだった。


◇◆◇◆


「……和彦」

 と、鷹宏はそう名前を呼んだ後、和彦の片手を両手で包み込むように握りしめ、鷹宏は静かに涙を流した。

 大切な人を失った、そんな事実に鷹宏は自分の心にポッカリと穴が空いたような感覚に襲われながらも、和彦が目覚める事を待っていた。

(……あの二人の仲良さそうな姿はもう見れない。まるで花が咲いたような、あの満面の笑顔も……僕は二度と見れない)

 と、鷹宏は考えながら、静かに声を殺し、涙を流し続ける。……その数分後、彼に握られていない方の和彦の手がピクリッと小刻みに動いた事に、鷹宏は気付かない。

 仰向けになっていた和彦の身体の向きが、ゆっくりとした動作で鷹宏の方へと向いていき、彼は片手を鷹宏の頬へと伸ばして、頬へと伝う涙を拭う。

 鷹宏はそんな和彦の温もりに目を見開き、驚いていた後に彼は和彦に覆い被さるように抱きついた。


「……和彦ッ……!」

 そんな鷹宏の声に和彦は穏やかに笑い、彼は鷹宏を愛しそうに見つめながらゆっくり、ゆっくりと抱きしめ返し、優しすぎる手付きで背中を撫でる。

 目覚めたばかりで上手く声が出ないのか、和彦は無言の状態のまま、鷹宏の背中から手を移動させ、脚の関節部分へと腕を回した後に抱きつかれたまま、彼は上半身をベッドから起き上がらせた。

 そして和彦は、

「……ごめんね、鷹宏。これから辛い思いをさせてしまうと思う。眠った状態だったけど話は何故か聞こえていたんだ。……こんな俺の為に、“俺の側にいる”と言う選択肢を選んでくれたのに、何にもお前にしてやる事が出来なくてごめんね……。

そんな俺の為に、俺の側にいると言う事を選んでくれて……、ありがとう」

 と、か細い声でそう言った。そんな言葉に鷹宏は和彦の肩に埋めていた顔を勢い良く上げ、たくさんの涙を流しながら首を横に振った後、……彼は必死になってこう言う。

「僕は、僕の為に和彦の側にいる事を選んだの!謝る必要なんてないし、辛い思いをしても構わない!どんなに和彦が拒もうと、僕は側にいるからね!」

 そう言葉にすると、和彦はそんな鷹宏に対して慈愛の籠った微笑みを向け、からかうような口調で、

「……プロポーズ?」

 と、そう言うと、

「ちっ、違っ!!」

 そんな和彦の言葉に対して、鷹宏は真っ赤に顔を染め上げ、そう言う。

 クスクスと笑いながら、そんな鷹宏の様子を楽しそうに眺める和彦に、からかわれた事に気付いた鷹宏は拗ねたのか、そっぽを向いてしまう。

 そんな鷹宏に和彦は、

「ごめんごめん、わかってるよ。親友として心配してくれているんでしょ? 鷹宏と久しぶりに喋れたから、嬉しくて思わず少し調子に乗って意地悪しすぎちゃったね、許して?」

 と、そっぽを向いて拗ねている鷹宏を撫でながら、和彦はそう言った。

 そんな言葉に少しだけ鷹宏の機嫌も直ったのか、顔をそっぽを向けるのをやめ、和彦と向かい合った後、鷹宏は憂いに満ちた表情をする。

 そんな鷹宏の考えている事が何か、和彦は勘づいたのか彼はこう言った。


「……鷹宏、……バットエンドの先が全てが不幸とは限らないんだよ。

大切な人が亡くなったんだ、悲しいに決まってる。だから今は泣いて良い、だけどいつかは……騎里と秋和の来世の幸せを祈って生きていこう。……それが彼らの幸せに繋がると信じて」

 和彦のそんな力強い言葉に、鷹宏は声には出さなかったものの、首を縦に振ったのだった。

 そんな鷹宏を強く抱きしめた後、……騎里達の笑顔を思いだし、和彦の片目からは涙が流れ、静かに頬を伝っていった。



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