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 前半三人称、後半柚季視点です。

「『これで、これで!もう一度暁に会う事が出来る!側にいる事が出来る、邪魔者は消えた!暁が生きていた頃に戻す事が出来る!今度こそ、二人でズットイッショニイヨウ……?』」

 と、狂ったようにそう叫びながら、アクマは口元を三日月のように歪ませて笑い、闇に満ちた目が飛び出すんじゃないかと思う程に、彼女は目を限界まで見開いていた。

 狂ったように高笑いをしながら、彼女は騎里達に禁忌魔法の魔方陣を描き、魔力を込めようとしたその時の事だった。

 彼女は焦ったような表情を見せたのだ。

 ……騎里に傷つけられた傷口から魔力がもれ、彼の科学武器に吸い込まれていく。そんな彼女は魔力を込められないと言う予想外の出来事に、周りから見てもわかってしまうくらいに焦りと動揺を抱いていた。


「『どうしてどうしてどうして!?

どうして上手く魔法が発動しないの!なんで、魔力が騎里なんかの科学武器に吸い込まれていくの!……嫌だ嫌だ嫌だッ……、私は科学武器の一部なんかになりたくないッ……!!』」

 と、アクマは思わず耳を塞ぎたくなるような高い声で、叫ぶように言った。

 アクマは所謂、暁のもう一つの人格でしかない。……しかも、彼女の正体は彼の魔力の源だ。

 ……全ての魔力の源を《鍵》形状の科学武器に吸い込まれてしまえば、彼女は自分の魔力が吸い込まれた科学武器の一部となってしまうのである。

 ……そしてまた、ある条件を満たした《鍵》形状の科学武器が持ち主が彼女に望むまで……、彼女はその科学武器の一部として眠り続ける。

 そう、……そんな人物が現れるまで永遠に、彼女は終わりの見えない眠りをし続ける事になるのだ。


「『マタ、私はヒトリボッチニナッチャウノ……? 永遠ニ、眠リ続ケナケレバナラナイノ……? オワリノワカラナイ眠りニ、マタ、ツカナクテハナラナクナッテシマウノ……?』」

 と、壊れかけのラジオのような声でアクマは無表情のまま、……譫言のようにそう呟いていた。

 そんなアクマの狂気でさえも、《鍵》形状の科学武器は吸い込んでいき、さっき呟いた言葉を彼女が喋り終わった瞬間に、王譲椎羅の身体は灰となって消えていった。

 それと同時に、《鍵》形状の科学武器はガチャリと言う扉を閉めるような音を立てた瞬間、数秒間ずっと眩い程の光を放った後、その事が嘘だったかのようにあっさりとその光を放つのをやめる。


 そんな《鍵》形状の科学武器が発した眩い光を直視したせいで、柚季と陽介に見えているのは真っ黒な背景だけで、しばらくの間視力が正常に働く事はなかった。

 その数分後、やっと正常の視力に戻った二人は、食堂の様子に驚きのあまりに思わず目を見開き、言葉を失っていた。

 ……元々は一つだったはずの《鍵》形状の科学武器が二つになっていた。……そして、そのうち片方が真っ赤な《鍵》形状の武器科学になっている事に二人は驚いていた。

 だって、食堂の床に大量に流れていた騎里と秋和の血が、まるで先程の光景が嘘だと錯覚してしまうくらいに、一滴も残らずになくなっていたから。

 ……そんな食堂の様子を見た柚季と陽介の脳裏には、片方の《鍵》形状の科学武器が真っ赤に染まったのは、騎里と秋和の血を吸い込んだからじゃないかと言う考えが浮かび始めた。

 だが、何故か……二人ともそうとしか思えない事に驚きを感じ、他の考えが浮かばない事に戸惑いを感じていた。


◇◆◇◆


 ……どうして?

 分からない、どうして《鍵》形状の科学武器はきーちゃんと秋くんの血を片方に吸い込ませたりしたんですか……?

 私には分かりません。《鍵》形状の科学武器がどんな考えを持って、そう言う行動に出たのか。私がいくら考えようと、答えは出ませんでした。

 そもそも、《鍵》形状の科学武器に意志が宿っているかどうかも、確かじゃないのに……答えが出る訳がないじゃないですか。


 はは、そう言えば幼い頃、……答えが出ない事を考えてどうするんだ? と、誰かに言われたような気がします。

 当時は、考える事が好きなんだ!それの何が悪い、答えのない事を予想する事をして何が悪いんだ!と、そうその人に反論しましたっけ。

 今ならその人の言葉がわかるような気がします、……私がどんなに沢山の事を考えようと、きっと……きーちゃんと秋くんは助けられなかったから。

 と、私は考えながら、腕に掴んでいる陽ちゃんに手を離して貰い、私はきーちゃんと秋くんの元へと駆け足で近付いた後、床に崩れるように座り込み、言葉にならない声で声を出して泣いた。


 あの子達の笑顔を、温かい温もりを感じて抱きしめることも、もう二度と……出来ない。……あの子達の“柚兄ぃ”と呼ぶ声も、私は二度と聞く事が出来なくなってしまった。

 早すぎる、あまりに早すぎます……。

 君らが短命だと言う事は察してはいました。だから、その分甘やかそうと、周りからどんなにブラコンだと言われようが、たくさんの愛情を君達に私は注いできたつもりです。

 でも、せめて……、

「騎里と秋和の成人する姿だけは……ッ!!見せて欲しかった……ッ!!」

 私はずっと願っていた事を、吐き出すようにそう言葉にしました。

 そう言葉にしたと同時に、私は背中にドンッと衝撃を感じ、顔だけ後ろへと少し向けると……。

 自分の肩に陽ちゃんが顔を埋め、私の腰に彼は抱きついていた。そんな陽ちゃんの温もりに余計に涙が止まらなくなって。

 私は片手で自分の首筋に近づけるように陽ちゃんの顔を抱き寄せ、彼の名前を呼ぶ。


 愛称じゃなくて、

「……陽介ッ……」

 初めて、陽ちゃんの名前を呼んだ。



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