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そんな俺の言葉を聞いて彼女は態度を豹変し、俺に対して舌打ちをする。
そして狂ったように俺を罵倒した。
「『お前があそこで暁を止めていたら、暁はあんな目には合わなかった!暁が消えることはなかったのに!お前のせいで、暁は消えて事を選んでしまった!前までは彼の意志でお前の人生を繰り返してきたが、今回は俺の意志で、お前を殺してでももう一度この世界をやり直す!』」
と、そんな“アクマ”の言葉に俺は挑発したような口調でこう言う。
「何度やり直しても同じだ、兄様はこの選択肢を最終的には選ぶし、俺も君が思う通りの選択肢をしたりなんかしない。……何度繰り返そうと同じ、この結末が待っている。君の望む展開にはならない」
そんな言葉に、“アクマ”は手が真っ白になるまで科学武器を握りしめ、俺を狂ったような目で鋭く睨み付けた。
それでも俺は無表情を崩さない、……これが終われば幸せな未来が待っている事を信じて、俺は決意を変える事をしない。
“アクマ”の魅力的な言葉に誘惑され、聞き入れる事なんてするものか。そうなった時は……、自分を傷つけても俺自身を止めてみせる。
“アクマ”はそんな俺の決意が固い事を知らず、諦めずにこう言ってきた。
「『そんな事、やってみなければわからないじゃないか!……それともお前には未来が見えると言うのか!?』」
と、“アクマ”のそんな言葉に俺は、
「俺には未来は見えない。……だけど、これだけはわかるよ。“この偽りの人生を終わらせる”と言う約束だけは、何度魔法で人生を繰り返そうと、魔法でも絶対に消せない言葉と言う事はね。
絆は魔法では消せない、……それを君が一番わかっているはずだろう?」
と、無表情で淡々とした口調で俺は、“アクマ”にそう言い返す。
そんな俺の言葉に、遂に感情が爆発したのか“アクマ”は科学武器を構え直し、俺に振りかざしてきたが俺は避けなかった。
俺は朦朧とする意識の中、“アクマ”の科学武器を掴み、……口から血を吐き出しながらニヤリと笑ってこう言った。
「……今回も俺が……、甘んじて……、死んでいくとは思うなよ……?」
血が大量に流れていく感覚と、クラクラとする貧血症状に耐えながら、俺は最後の力を振り絞ってこう言葉にし、腰にあった俺の科学武器を取り出す。
そして俺は続けてこう言った。
「……俺のッ……、科学武器の形状はッ……。……《鍵》だぞッ……?」
と、そう言葉にした後、意識が途絶えそうになるのを耐えた後、俺は呆然とする“アクマ”を、俺の残る力を全てを使って科学武器で斬った。
あとは、……勝利の女神に祈る事しか俺には出来ない。
そして俺は……、
「……偽りの……人生だったけど……、たいせつ……な人が……出来てッ……、し……あわせ……」
『だった』が言えず、俺は力を尽きたと同時に“アクマ”は、俺の身体から科学武器を抜く。その反動で俺は背中から倒れ、意識が途切れそうになった瞬間、俺の“大切な人達”の声が聞こえたと同時に、俺の意識は途切れた。
◇◆◇◆
騎里の言っていた、《鍵》の形状の科学武器に宿る特殊能力とは、持ち主に生死に関わる状態が訪れた時に発動すると言われているが、どんな能力が発揮されるのかは記録にはないと言われている、謎の多い特殊能力なのである。
とある研究者の仮説、《鍵》形状の科学武器の特殊能力は、持ち主が望む能力に変化するのではないか? と言う仮説が一番真実に近いんではないか、と言われているらしい。
だから、騎里はその仮説に賭けた。
自分が望んでいる力を、《鍵》形状の科学武器が発揮してくれると信じて。
「『これで、もう一度やり直す事が出来る!暁は帰ってくる、これでまた君の側にいる事が出来る……。今度こそ、君を死なせやしないよ』」
と、そう“アクマ”は言った後、まるで三日月のような口元を歪ませた笑みを浮かべながら、闇しか宿っていない瞳を限界まで見開く。
そんな“アクマ”の様子を春馬、久夜、柚季、陽介達は殺気の満ちた目で睨み付けているが、暁と会えると言う喜びに浸っている“アクマ”はそんな四人の視線に気づかない。
そんな“アクマ”の様子に、春馬は殺気に満ちた表情を浮かばせながら、彼は冷静さを失った状態で服に忍ばせていた飛び道具を握りしめ、全く音を立てずに今直ぐにでも戦闘が出来るのではないか? と、思えるような少しも隙のない構えをしていた。
そこには普段の可愛らしい笑顔を浮かべる春馬の姿はない。……虎視眈々とターゲットを狙う暗殺者の目。
そんな春馬に久夜は苦虫を噛んだような表情をした後、春馬のうなじに的確な力加減で手刀をし、彼を気絶させた。
その後、久夜は気絶している春馬をまるで支えるかのように抱きしめた。
春馬は女の子のように可愛らしい見た目に反して、相当な実力者だ。
相当な実力者の相手ではない限り、春馬は負ける事は少ない。……だから、戦闘に関してだけは久夜が彼に口出しする事は滅多になかった。
だが、久夜は気付いてしまったのだ。……“アクマ”相手では冷静さに欠けてしまっている状態の春馬が敵う相手ではないと言う事に。
だから、今の状態では言葉で言っても、冷静に判断出来ない状態だと独断した久夜は、春馬を気絶させたのである。
(……すまない。お前の上司として、友人として春馬をアイツと戦わせる事は出来ない。これ以上、大切な者を失う訳にはいかないんだ。……お前には特に、今ここで死なれる訳にはいかないんだ)
と、久夜はそう考えながら無表情のまま、春馬を横抱きした後、彼は食堂から去ろうとゆっくりと歩き出した。
……去り際、久夜は騎里と秋和へと視線を向けた後、彼は泣き声を殺すように下唇を血が滲む程に噛みしめ、大粒の涙を流しながら、早足に食堂から去って行った。
そんな久夜の様子を止める事なく、柚季は彼の姿が見えなくなるまで、久夜の去って行った方向を眺めている。
そんな柚季の様子を見て、陽介は心配そうに彼の名前を呼んだ後、柚季まで冷静さを失わないように腕に抱きついた。
「……柚さん?」
「……ああ、陽ちゃん。わかってます、春馬くんみたいに冷静さを失ったりはしないように気をつけてはいます。……けど、お願いです。しばらくはこのままで居て欲しい……」
と、そう言っている柚季の声は、今にも消えてしまいそうな声で。
そんな状態の柚季の頼みを断れる訳もなく……否、陽介は断るつもりもなく、むしろ何も言われなくとも、彼から頼まれなくとも陽介は最初からそうするつもりだった。
「……勿論です、柚さんにそう頼まれなくともそうするつもりでしたから」
と、柚季に陽介は素直にそう告げた。
そんな陽介の言葉に柚季は何も言わず、……静かに涙を流していた。
そんな二人は気付かない、……食堂へと近付いてくる足音の存在に。




