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天使は全てを聴いていた。……魔王の想いも、騎里が魔王に与えた罰も。
天使は手に持っている水晶を、自分の胸の前で包み込むかのように持った後、……彼はまるで誰かに祈りを捧げるように、単純な動作なはずなのに思わず見惚れてしまう程に、静かにゆっくりと天使は目を閉じていく。
それと同時に天使の背後からは優しい光で出来た一筋の道が出来ていた。
その光の一筋の道は誰かを導くかのように、優しく柔らかな光で輝き続ける。天使は目を閉じながら、もうすぐ起こることに備えて“とある思い”を心の奥深くにしまい込む。
カツンカツンと靴を鳴らしながら歩く足音が、天使の耳に届く。その音が彼との距離が狭まっていく度に、天使が胸の前で水晶を握り締める力が徐々に強くなっていく。
深呼吸を数回して、天使は後ろを振り返ろうとしたが、そんな彼の行動は魔王に肩を掴まれた事で阻まれてしまった。
「すまない、しばらくはこのままで聞いて欲しい。……まさかお前が天使だとは思わなかったし、俺が望んでいた物を用意している辺り、お前は俺には勿体ないくらいに優秀な契約者だった。
俺がこの身体から出れば、この身体はアクマの物のとなるだろうな。……それから和彦の身体もあの世界からトリップし済み、和彦の意識も騎里と会った後に在るべき器に戻しておいた。……和彦の魂がこの世に目覚めるのは俺が一度目の償いを終えた後」
と、淡々とした口調で魔王は言う。
そんな魔王の冷静さに天使は下唇を噛んだ、血が滲む程に強く……。
そんな天使を見て、愛しそうに魔王が笑っているなんて彼は知らない。
……否、魔王はそんな表情をしているなんて事を天使に気付かれないように、彼の肩を自分の方へと引き寄せ、左手で天使の目を覆い隠した。
そして、魔王は自分の口を天使の耳元へと近付け、彼にしか聴こえないような小声で何かを話す。
天使に魔王が何かを伝え終わった後、その言葉を聴いた彼はポロポロと、目から溢れだしたかのように涙を流していた。
「泣くな、泣くなよ……。そんなに誰かに泣かれると実行しづらくなるだろ? 良く聞け、天使。俺はこの世界の一部になるだけ、永遠に。姿は見えないだろうけど、俺はこの世界にはずっと居続けているから、永遠の別れじゃないんだ。
俺は罪人だぞ、償うのは当たり前なんだ。たくさんの人を傷つけ、人生を狂わせてきた。……なのに神々は慈悲をくれた。それなのに当本人である俺が、何もしない訳にはいかないだろう?」
魔王は相変わらず淡々としていたものの、何処か優しく柔らかい口調で、まるで弟に言い聞かせるかのような場面を連想させる言い方だった。
天使の涙はそれでも止まらない。ポロポロ、ポロポロと止めようと思えば思う程に彼の目からは次から次へと、大粒な涙が流れ続けてしまう。
そんな天使に魔王は苦笑しながら、
「新たな魔王を……否、新たに生まれたこの世界の番人をよろしく頼むぞ」
と、魔王はそう言い、右手で掴んでいた天使の肩を勢い良く離した。
その後、バランスを崩した天使を支えるかのように、魔王は素早く両肩を掴んだと同時に、彼は天使を自分の方へと向かせ、無表情に近かった表情をニッコリと一変させ……。
魔王は姿を消した。
◇◆◇◆
何も考えられない。
ただ、俺は泣き続ける事しか出来なかった。……だけど、何故だろう?
どうして、さっきより涙が出るのかな?
どうして、今。兄様の魂が感じられなくなったような気がしたんだろう?
……あれ?
……どうやって、笑うんだっけ?
……どうやって、涙を止めるんだっけ?
「騎里ッ」
ああ、秋和の声だぁ。
一人は寂しかったんだよ。秋和は帰って来てくれて嬉しい、……お願いだから抱きしめて?
秋和は生きてるよね?
「お前……ッ!」
何で悲しそうな顔してるの? 俺、秋和に何かしたかなぁ……??
秋和も、兄様のように俺の側からいなくなっちゃうの? 秋和は俺の側に居てくれるよね……?




