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 必ず逢おう。

 その言葉は契約。

 魔王でさえ、天使の真名を知らないと言うのに、交わしてしまった真の契約。逃げられないのは天使じゃない、……本当に逃げられない状況にいるのは天使とその契約を交わしてしまった、とある人間の方。

 とある人間はそれを理解した上で、天使と契約を交わし、彼は天使を契約で縛り、望んで天使に契約で縛られたのだ。


 お前は何を望む?と、天使は耳打ちをした後にとある人間は、声には出さずに口パクで彼にそう聞いた。

 契約は一方的に押し付けただけでは契約とは言えない。

 天使からの条件が揃ってから、天使と契約を交わしたと言う事になる。

 天使は微笑みを浮かべた後、幸せそうな、嬉々とした声で天使はこう言う。

「俺の側に居て、俺だけに微笑んで? ……君としての人生が終幕を向かえた時、君の死後の人生は俺だけにちょーだい。そしたら、君が望んだ契約以上に俺は君の願いを叶えてあげるから」

 と、天使はにこやかに微笑みながら、……とある人間の腕に甘えるかのように彼は抱きついた。


「勿論。お前の側に居るし、お前だけに微笑む。俺の死後の人生は刹那にあげるし、刹那が居て欲しいと願い続けるまで……否、刹那が俺の事を言おうが、お構い無しに俺は刹那の側に居るからな」

 その言葉に天使は、

「契約成立」

 契約で縛られる事を、天使は望んだ。

 天使が騎里と秋和と結んでいた契約は、……神々から契約するように言われた業務的なもの。

 ……とある人間と天使が個人的に結んだ契約は、彼らが契約し続ける事を望む限り半永久的に続く契約。


◇◆◇◆


 最近、兄様に会っていない。……俺は俺で、精神状態が不安定で今は休学中となっている。幸い、学園長が良い人で一ヶ月に一度、テストを受ける事で留年は免れる事になった。

 勿論、テストは七十点以上取らないといけないのだけど、テスト結果は普段の定期テストとは違い、公には出ないようなので本気を出せば、全教科いけなくはない点数だ。……苦手な部分は秋和と鷹宏さんが見てくれるみたいだし!

 学園を休学する事にしたのは秋和からの提案。あの後、次の日に登校したのだけれど……、人の視線を気にしていた事を秋和は直ぐにわかったみたい。四度目の星和の時、俺が情緒不安定な時期が多かったから、秋和は俺の精神的な変化に直ぐに気付く。

 だけど、一人は寂しいな。ずっと秋和と居たから、一人は寂しい。下校時間まであと何時間って考えるたびに、俺の寂しいと言う感情は二乗四乗と、時間が経てば経つ程に俺の心の中を埋め尽くしていく。……きっと秋和の姿を見れば、声を聞けば、抱きしめてもらった時の体温に触れる事が出来たなら、俺の心には秋和しかいなくなる。


 ああ!狂ってる、俺は狂ってる。……だけど、俺のこの感情は一人よがりのものじゃない、秋和は俺の狂気さえも全て受け入れてくれている。

 だから、秋和の狂気も全て俺は受け入れ、何度も人生を繰り返したから、俺の秋和に抱く友愛感情は純粋なものじゃなくなってしまった。

 ……いつの間にか、お互いの純粋な友愛感情に歪みを招き入れてしまった。

 俺は視野がいつの間にか狭くなったのだろうか、秋和しか俺の世界にはいない。俺の心に届くのは秋和の言葉だけ、秋和の心に届くのは……。

「騎里だけ」

 “俺だけ”と考えたと同時に響いた、誰かの声。……この人は誰だっけ?

 会ったことがあるような、でも誰だかはわからない。……だけど、会いたかったと感じているの。

 それはどうして?


 嗚呼、この人誰だっけ? あれ、でも顔は兄様に瓜二つ。だけど、この人は“俺”の知っている兄様じゃない。……俺の知っている兄様はここまで柔らかくって、優しい微笑みなんて浮かべているところなんて、何度か見たことがあるだけなのに……。

 この人は自然体で俺に微笑んでる……と、考えたその瞬間だった。兄様の瓜二つな人は口元を三日月のように一瞬だけ歪ませた後、俺は幻覚のような光景を見てしまった。

 兄様と瓜二つな人は真っ赤に全身染まって一瞬で、儚く消えていった、まるで花を儚く散らす桜の花かのように。……それと同時に現れたのが兄様で、彼の手には禍々しいオーラを放つ、鋏の形をした科学武器、…………そして見たことのないくらいに恐ろしい顔をした兄様。


「貴方が魔王……」


 頭が正常に働かない中、口が勝手に動いて話した言葉がその一言だった。

 ただの直感だった。

 だけど……、その割には恐怖を俺は全身で表現している状態で、“あの娘”が“アクマ”はあながち間違っていなかったのかもしれない。

 俺と秋和が見ていた“兄様”は魔王様で、同時に“アクマ”だったんだと、俺は直感的にそう考えていた。

 じゃぁ……、鷹宏さんが見ていた“兄様”は俺達とは違ったの……?



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