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ボーイズラブタグを保険として、一応加える事にしました。友情以上恋愛未満以上の描写は出てきませんが、物語の流れの関係上、「ボーイズラブ要素、かなぁ?」くらいの描写が出てくる可能性があるので、一応ボーイズラブタグを加える事にしました。
本編では、恋人関係にはなる予定はないので、ボーイズラブが苦手な方でも読めると思います。万が一、ボーイズラブ展開になる場合は、番外編として「主人公だけど傍観者で、脇役だけど?」とは別に投稿し直します。
あくまでもこの話は友情エンドの話なので、本編では恋愛要素はありません。
俺は真っ白な空間に居る。俺の身を包む衣服も、思わずトチ狂ってしまいそうなくらいに、身の周りの物は全て真っ白に囲まれていたそんな俺は、さっきまで風紀室に居たはず……と、首を傾げながらそう考えていると、姿形は俺の目には映らないのに誰かの声が、まるで俺の精神だけに問いかけるように聞こえ、俺は驚きのあまりに思わず、目を限界まで見開いた。
『初めまして、一條騎里くん。……いや、魂だけの状態でこの空間に呼び寄せたのだから、山中星和くんと呼んだ方が良いのかな。ところで星和くん、俺が何で君の事をこんな訳のわからない、トチ狂ってしまいそうな程に真っ白だけなこの空間に、……君の魂だけを呼んだかわかる?』
と、誰かもわからない人からの問いかけに、俺は素直に応じる事にした。俺は声を出さずに横に首だけを振った。珍しく感情的に声を荒げたもんだから、俺の喉はヒリヒリと痛みを感じていて、あまり声を出したくは無いのだ。
だけど、何でかはわからない。この人の問いかけにはどんな答え方にしてでも、俺は答えなければならないような気がしてならない。……そう、俺の勘が珍しく訴えかけているような気がする。
そう考えながら、俺の脳内で話しかける彼の次の声が聞こえるのを待っていると、彼は楽しそうにフフッと笑った後、まるで俺の頭を撫でるかのように、俺の髪に優しく触れる程度のそよ風が吹いた。
そよ風が俺の髪に触れる度、何故だか自分の髪に触れる、誰かの体温を感じるような気がして、まるで頭を撫でられる猫のように、思わず俺は微笑むかのように目を少しだけ閉じた。
彼はもう一度、愛しそうに、優しい柔らかい声でフフッと笑った後、まるで小さい子に言い聞かせるような声で、俺には相変わらず姿を見せる事はなく、彼は俺の脳内から話しかけてきた。
『そうだよね、星和くんはわかるはずもないよね。君は魔王様に前世の記憶の中で、一番重要な記憶部分だけを無かった事のように消されてしまったのだから。……君は確かに四度、星和くんとして人生を歩んできた、……と君はそう認識しているんだよね?』
とりあえず、そう俺は考えているので、彼の質問に首を縦に頷くと、俺の脳内に苦笑している声が響き渡る。……俺はおかしな事を言っただろうか?と思ったと同時に、一番大事な記憶を失っているならば、わかるはずもないだろうと、俺はコテンと首を傾げながら、そう考えていた。
そんな俺に対して再び、彼は苦笑をするものだから、俺は重要な記憶がなくてわからなかったから、そう考える他なかったのに……と、そう俺は考えながらムッとした表情を浮かべ、珍しく不機嫌になった俺は拗ねていた。
そんな俺に彼はごめんごめんと謝った後、軽く聞こえる謝り方だったものの、彼は俺に対して真剣な声色で謝ってくれたので、構われた事からの気分が上がらなかった俺だったが、不貞腐れながらも話を聞く態勢へと戻る。
『ごめんね、少しだけ意地悪な事を言っちゃったよね。俺、反省してるから、ちゃんと話を聞いて欲しい。今の君が感じ取る事が世界はこの世界だけだけど、俺が感じ取る事の出来る世界はたくさんあるんだ。
そんな世界は全て、似ているようで似ていない世界なんだ。だから勿論、魔法とか超能力の使い方だって違うし、三つの力の源が揃う世界はあまり存在はしていないんだ。神世界が管理している世界では、三つの力の源が揃っている世界は一つくらいしか存在しない。
……神世界が管理する世界の中で唯一、超能力、魔法、科学の三つの力が揃っている世界が何処かと言うと、君が“騎里”として生きているこの世界なんだ。ただし、誰でも使える訳ではないし、遺伝子が関係している訳でもない。
だからたまたま偶然に、この世界では生まれた時に持ち合わせていたと言うのが、魔法についての認識なんだ。勿論、空気中に魔力の源がないから、魔法所持をしている人には血に魔法の源となる“魔力”が流れている』
と、彼は何処で息継ぎをしているかわからないくらいに、早口でそう俺に告げた後、深く息を吸って、彼は再び真剣な声色を保ちつつ、俺に説明を続けようと口を開く音がした。
俺はそんな彼に、説明を急かすような真似はせず、一言も喋らずに彼からの説明を健気に待っていると、彼は淡々とした業務的な口調で、彼は再び俺に説明を始めた。
『魔法や超能力の使い方は、神世界で管理している世界では、世界事に使い方は違うし、発動のやり方も違うよ。……だけどね、どの世界でも“精神”に干渉する魔法や、別世界に干渉する魔法を神世界は禁じているんだ、……一部の神に禁忌とされた魔法を使用する許された存在以外はね。
勿論、神の許可もしくはお告げのない場合に、勝手に勇者召喚なんてしたら天罰が起きるし、そうなったら勇者召喚をした中心人物はどうなるかはわからない。でもさ、一部神に禁忌とされる魔法を使用する事を許されている人間がいるって言ったのを覚えているかな?
…………それが君が言っている、言い方で言うと“あの娘”が言っていた“アクマ”と呼ばれる存在の事なんだよ。“アクマ”と呼ばれる存在は制限はつくものの、精神に干渉する事も、別世界に干渉する事を許されている“人間”の事。そんな“人間”の事を“あの娘”だけは勝手に“アクマ”と呼んでいるんだよ、星和くん。
……“あの娘”は“アクマ”と勝手にそう呼んでいる。だが我々、神世界の者はその許可を所持する人間の事を正しくは、“魔王”と呼ばれる称号を神々は与え、そう呼ぶ事になっている。
“魔王”と言う呼び方は、……悪者に使われているイメージの強い呼び方だろうが、神々がその人間を“魔王”と呼ぶようになった由縁は、……その人間が悪者だからと言う理由でその称号を与えた訳じゃない事は、君達だけにはわかって居て欲しい。
「魔法を統べる王」、そんな意味を込めてその人間に、神々が与えた称号なんだ。……そんな称号を与えられたのが俺が遣えべき、たった一人の主様。だけど彼は、けして犯してはいけない、禁忌を魔王様は犯してしまった』
と、彼のより深まる真剣な声色に俺は思わず、ゴクリと大量の唾を飲み込んだ後、まるで言葉を選ぶかのように黙り込んだ彼。数十秒間、考え込んだ彼は適切な言葉を見つけたのか、喋り出そうと口を開く。
『彼は神々に与えられた任務で別世界へと行ったその時、魔王様は禁忌を犯した。……死人を生き返すと言う、けして行ってはいけない禁忌魔法を。魔王様は誰を生き返せたかと言うと、君と藤和くんを生き返らしたんだよ、一度ね。
生き返させられた者を、魔王様の魔力量では四度、その者としてやり直す事が出来……、と言うよりは世界をもう一度復元させる、と言った方が正しいかな? 魔王様が居た世界では、誰かを生き返らせる禁忌魔法を使う時、一度人生の幕が閉じた者しか生き返らす事は出来ないんだ。
君達は正しく本来の人生を全うし、君達は死を受け入れていた。だが、それを魔王様が拒み、無理矢理君達の人生に魔法を使い、君達を生き返らした。……そのためには、四度の人生の中心となる“記憶の核”となる部分が必要なんだ。だから、正しく言えば、本当は君達は五度、同じ人として生きてしまった。
君達はそれからは、生き返ったのではなくて、星和と藤和を中心として君達の世界は四度、復元されていたんだ。そして本当に魔王様に消されたのは、君が居て良い存在として生きた、本来はそこで終えるべきだった一度目の人生の記憶だけを魔王様は消した。
君達から核となる記憶が消された今、君達は本来の死を迎える事が出来ない。定められた、死が君達には存在しないんだ……いや、正しくは死ぬ事は許されない。そうさせた、魔王様を君は恨んでいるかい?』
と、最後に『恨んでいるいるか?』と聞いた彼の声は、悲しそうで苦しそうな声だった。……そうさせた魔王を恨んでいるかどうか、俺は不思議と何故か、魔王様にそんな気持ちを抱く事はなかった。
だけど、首を横に振る事は俺は出来なかった。夢で見た、死の直前に何かを言っていた彼が、魔王様なのはなんとなくわかった。……だけど、素直に頷く事が出来ないのは、俺達を生き返らせた理由が明確にわからないため。
『……それから、君達が依存し合うのは一度目の人生でさえも、君達の友情は深かったのに五度も同じ人生を繰り返せば、二乗三乗と膨れ上がるのも当たり前なんだよ。……例え、魔法を使おうと人の感情や想いだけは、変える事が出来ない事だけは覚えていて。それだけは疑う事はしなくて良いからね?
五度の同じ人間として生きてきた君達の深い、恋愛感情に酷似した友愛感情だけは、魔法でさえも変える事のない君達の強い想いで、それだけが君達の全ての記憶の中で、偽る事の出来ない真実だと言うことを君達には忘れないで欲しい。
……だからかな、今回だけは魔王様の望みを叶えてあげられないと思ったんだ。俺の人生は魔王様の命令で動くものだと思っていた。だけどね、俺にも君にとって藤和くんのような、大切な存在が出来てしまった。だから、今ならわかる。君達を生き返した魔王様の気持ちも、君達が依存し合うまでお互いを大切にし合う理由も。だからさ……、今回は魔王様の命令は聞けないなって思った』
と、彼は言った後、一回ため息をついた後に、彼は決意のこもった声で、俺に対してこう言った。
『俺と取引をしないか』
◇◆◇◆
最終的な結論から言えば、俺は……いや、俺達はその取引に応じた。精神状態の安定してなかった時期の多かった俺よりも、秋和の方と彼は先に接触していたらしい。
俺の結論を聞いて、彼は仲良しさんだねと言って笑っていた、……どうも取引を応じる際の条件が似たり寄ったりしていたらしい、俺は少しだけ照れくさくなってしまった。
ちなみに彼の契約状態は、今も彼は確かに表上では契約をしている状態らしいが、直ぐに解けるような状態には、そう言う事を専門とする神様がしていてくれているらしい。
『取引を受け入れてくれてありがとう。前世の事について、藤和くんには詳しくは話してはいないんだ、きっと君の口からの方が彼は納得してくれるだろうし、藤和くんに説明する役目は、よろしくお願いね?』
と、彼はそう言って以降、俺の脳内から彼の声が聞こえる事はなかった。
俺は取引をする前に言われていたように、目を閉じた後、意識を奥深くまで沈めて行くと、開く瞼が重たいような感覚に俺は、やっと秋和に会えると内心喜ぶのだった。




