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今回の話は若干ボーイズラブっぽい描写はありますが、主人公が感情的になるシーンがありますので、主人公を落ち着かせるためなので、恋愛に繋がる事はありません。あくまでも、依存系の友情です。
秋和と食堂のど真ん中でトラブルを起こした俺は秋和と、満面の笑みで山田風紀委員長さんを膝の上に乗せる柚兄ぃと共に、風紀室で事情説明をしていたのだったが、ちょうどストレス発散のために、山田風紀委員長さんの元に癒されに来ていた柚兄ぃのお陰で、山田風紀委員長は事情徴収が出来ないでいる。
そんな山田風紀委員長さんは、事情徴収が出来ない原因を作っている柚兄ぃの猫可愛がり振りに、長年柚兄ぃの猫可愛がりの被害にあっていた彼の勘がどうしようもないと脳内で訴えかけているのか、抵抗せずに諦めた表情をしながら、山田風紀委員長は大人しく柚兄ぃの膝の上に乗り、頭を撫でられている。
その柚兄ぃの行動をない事のように開き直った様子で、例え元々は風紀委員長で、秋和の兄弟だとしても、事情徴収は聞かす事が出来ないのか、若干イラつきながら山田風紀委員長さんは俺達にこう言った。
「ああ、もう!何で、君ら兄弟はトラブルを呼び寄せてくれるのかな?!山田風紀委員長さんは怒っているんですよ?!君らがトラブルを呼び寄せてくれるから、俺のキャラ作りだってブレブレですよ、もう!」
と、そう言う山田風紀委員長さんの怒り方は、プンプンッと言う効果音が凄く合うような怒り方で、思わず和んでしまった俺はクスリッと笑ってしまった。柚兄ぃは柚兄ぃで、多少治まってきた猫可愛がり衝動にスイッチがまた入ってしまったのか、まるで壊れたしまったかのように、可愛い可愛いと何度も何度も良いながら、柚兄ぃは山田風紀委員長さんを猫可愛がりしていた。山田風紀委員長さんのご機嫌を損ねてしまったようで、彼は頬をリスのように膨らませてそっぽを向いてしまった。
そんな怒り方をしても可愛いだけだよなぁ〜と思っても、また怒られてしまいそうなので、その事を俺は言葉することはしなかった。……しかも、山田風紀委員長さんのその可愛さを引き出すように柚兄ぃの膝に大人しく乗っているんだから、俺から見ても山田風紀委員長さんが小動物に見えて仕方がない。
山田風紀委員長さんって呼ぶよりも、陽ちゃん先輩の方が似合うような気がする。彼に怒られる事になろうとも、陽ちゃん先輩と呼ぶ事にしよう。
多分、前に秋和が山田風紀委員長さんの事を陽ちゃん先輩って呼んでたから、多分怒られる事はないんだろうと思うけど、万が一陽ちゃん先輩って呼んで怒られる事になろうとも、俺は自他共に認めるマイペースだから、陽ちゃん先輩って呼ぶって決めたら、俺は陽ちゃん先輩に怒られようが、絶対にその呼び方を貫き通すよ!!
陽ちゃん先輩って実はイメージと違ってさ、細身なんだけど意外と、筋肉が筋肉質で長身な男前なんだよ。だけどね、動きとかは仕草が小動物みたいで可愛いと言うかね、普段は柚兄ぃの真似をして何とか素を抑えてはいるみたいだけど、予想外の事が起きると素が出ちゃうみたい。
……自分を真似てると言う部分も柚兄ぃも気づいていて、彼曰くそんな健気な所も可愛いらしい。それでつい、陽ちゃん先輩を猫可愛がりしてしまうみたいなんだけど、柚兄ぃが陽ちゃん先輩の一番のお気に入りの理由は、素を出してしまった時に若干恥ずかしそうにしている姿が可愛いから、だそうだ。
陽ちゃん先輩は自分では隠しているつもりなんだろうけど、陽ちゃん先輩が抱く柚兄ぃへの尊敬や憧れは、俺や秋和以上である事を柚兄ぃを見た瞬間に目が輝いているせいで、実は陽ちゃん先輩が柚兄ぃに憧れを抱いている事は、陽ちゃんの知り合いや親衛隊にはバレバレなのだろうと、俺は思っている。
勿論、それは柚兄ぃも気付いているだろうし、気に入っている陽ちゃん先輩に慕われるのは柚兄ぃも満更でもないのだろう、……何かと柚兄ぃが陽ちゃん先輩ばかりを猫可愛がりするのも、きっとそれも理由も含まれているのだろうと俺は思う。
……素が出てる時なんてもう、腹黒さなんて全くない、本来なら純粋でツンデレな陽ちゃん先輩は、俺は別にそんな陽ちゃん先輩をぶりっ子だとは思わない。だけど、同級生に何度もぶりっ子だと言われた事があってからをきっかけに、柚兄ぃみたいな腹黒を目指し、腹黒の振りを始めたと、初めて陽ちゃん先輩に会った日に、嬉々とした表情で楽しそうに話す柚兄ぃからそう聞いた。
まあ、陽ちゃん先輩にぶりっ子と言った時の柚兄ぃの表情は腹黒い笑みを浮かべ、殺気に満ちた表情をしていたんだけど……、俺も良く秋和との関係を間違えられるけど、柚兄ぃの方が色々と危ないような気がする。陽ちゃん先輩、お願いだから柚兄ぃの恋愛スイッチを押さないでよ?
話は戻るけど柚兄ぃ曰く、同級生にぶりっ子と言われていた時は陽ちゃん先輩、まるで小動物を連想させるかのような仕草が似合う、女装をすれば完全に女の子に見える、可愛らしい容姿を成長期がくる前はしていたらしい。
その後に柚兄ぃは「今も陽ちゃんはすっごく可愛いのは事実なんですけどね、陽ちゃんの事可愛がり過ぎて、未来に振られそうになったくらいですよ。それぐらいに今も、成長期前の陽ちゃんは変わらず、私にとっては一番可愛い後輩なのですよ」と、若干残念な発言を柚兄ぃはしていた。
若干残念な発言を柚兄ぃはした後、鼻歌を歌い出しそうなくらいに上機嫌に彼は、陽ちゃん先輩との出会いを語り出していたな。
陽ちゃん先輩の出会いは上級生に絡まれていた所を風紀委員だった時、助けたのが初めて陽ちゃん先輩と出会った時だったらしい。その後、武術を得意とする事を聞いて柚兄ぃは、何故体術を使って逃げなかったんだと怒ったらしいが、
「体術を習う者として、何も武術をたしなんでいない者に正当防衛、超能力や科学武器を使わない以外は手を出すなと言われています。……それに、彼らみたいなタイプの不良は自分らの都合の良いように解釈して仲間を呼び、意味のない復讐をしてくるだけです。……そんなタイプじゃなければ、超能力を工夫して上手く逃げてます」
と、ツンツンとした態度でそんな正論を言われたらしいが、柚兄ぃは心配のあまりに「そう言う問題じゃない!」と、自分でも吃驚する程の低い声で怒鳴ってしまったらしい。
誰かを頼りなさいとか、怪我をしたらどうするんだとか、誰も心配しないと陽ちゃん先輩が言えば、私と君は今日で顔見知りになりました、私が君を心配します!とそんな説教を柚兄ぃはしていたら、……気が付いたらツンツンとしたデレのない態度をしながらも、柚兄ぃの側に当時の陽ちゃん先輩は、当たり前のようにいたらしい。
柚兄ぃはその当時、陽ちゃん先輩から嫌われていると思っていたらしいが、柚兄ぃはとある事件で、結構傷の深い怪我を被ったのをきっかけに、柚兄ぃは陽ちゃん先輩から嫌われていない事に気付いたらしい。
柚兄ぃが怪我をして、目を覚ましたと同時に涙を流しながら、柚兄ぃの顔を覗き込んで心配したんだからと、普段はツンツンとした態度な陽ちゃん先輩が柚兄ぃに抱き付いた後、柚兄ぃの体にしがみつきながら泣き叫ぶ様子を見て、自分は陽ちゃん先輩に嫌われているのではなく、逆に陽ちゃん先輩に慕われていたんだと気付いた途端に、そんな陽ちゃん先輩にどんなにツレない事を言われようが、陽ちゃん先輩が柚兄ぃにとって可愛くて可愛くて、しょうがない後輩になってしまったらしい。
まあ、基本的に風紀委員の事情はあまり、風紀委員以外の人に喋る事が出来ないのか、どんな事件に巻き込まれたのかは教えてはくれなかったけど、その後から陽ちゃん先輩に対する猫可愛がりが酷くなったんだと、自分でも柚兄ぃはそう自覚していた。
柚兄ぃにはね、未来さんって言う政略結婚だけど、お互いに一目惚れした婚約者さんがいるんだけどね、未来さんがやきもち妬いてるって聞いた直前は驚いたんだけど、俺に対しても柚兄ぃが話し始めて三時間くらいぶっ通しで、上機嫌でデレデレの表情で、まるで溺愛する孫の話をするお祖父さんみたいな表情をしながら、山田風紀委員長さんの事を話していた。
だからきっと、未来さんにもデレデレとした表情をしながら、長々と陽ちゃん先輩の事を話していたんじゃないかって思うと、……柚兄ぃを溺愛している未来さんが嫉妬心から、別れるって言ってしまったのかもしれないよね。
だって自分が一途に愛していた男の人で、今まで自分だけを溺愛してくれていたくれた人がだよ、急に違う学園に入った途端に同性だとは言え、デレデレとした表情で自分とは違う人の話をしていたら、やきもちだってしたくなるよね。自分とは違う学園に通っているんだもの、不安にだってなってしまうよ。
……きっと未来さんも自分だけを一番に、愛して欲しかったんだと思うよ、俺は未来さんじゃないから想像でしか言えないし、それに柚兄ぃが未来さんと一緒にいる所を見たのは結構前の事だからね、俺の極論でしか言えないけど。
柚兄ぃは研究やマナー講座、鍛練とかで忙しくて社交的に仲が良い人が居ても、山田風紀委員長さんみたいに下心なく、純粋な憧れで柚兄ぃに近付いて来る人はいなかった。
だからかな、未来さんばかりに注いでいた柚兄ぃの溺愛が、純粋に尊敬や憧れを柚兄ぃに抱いてくれている、陽ちゃん先輩を柚兄ぃが気に入り、彼への友愛感情に注がれるようになったのも、柚兄ぃの猫可愛がり衝動を抑えきれなくなったのも、……柚兄ぃが話していたあの事件での出来事は、それはただのきっかけでしかないと思う。
俺でさえも気付いたのだから、未来さんもその事に気付いているだろう。……その事に気付いてしまったからこそ、柚兄ぃとは別の学園で女学校に行った未来さんが陽ちゃん先輩にやきもちを妬いたのは事実上、未来さんよりも陽ちゃん先輩といる時間の方が長いと、未来さんもわかっているから……、柚兄ぃの中で未来さんよりも陽ちゃん先輩の存在が大きくなってしまうのを恐れている。
だから、陽ちゃん先輩に柚兄ぃが恋愛感情を抱かないのをわかっていても、柚兄ぃが陽ちゃん先輩に抱く友愛感情に注ぐ溺愛の方が強くなってしまうのを、柚兄ぃに溺愛をしている未来さんはそれを恐れ、柚兄ぃが友愛学園にいる間は側にいる事の出来る陽ちゃん先輩に、未来さんはやきもちを妬いて柚兄ぃに別れるだなんて、言ってしまったのかもしれない。
あっ、それか山田風紀委員長さんの事を、陽ちゃん陽ちゃんって柚兄ぃは呼んでいるから、未来さんは女の子だと勘違いしちゃったのかも。しかも、成長前の写真を見せちゃったらきっと、現在の姿を見てない未来さんなら、完全に勘違いしちゃうかもね。
さっきから、素直に膝の上に乗る陽ちゃん先輩を見ては、口元をだらしなく緩ませながら、猫可愛がりをしている柚兄ぃは彼の頭を壊れ物を扱うような優しく、丁寧な手付きで大事そうに陽ちゃん先輩の髪の毛が絡ませないように、柚兄ぃは陽ちゃん先輩の頭を撫でている。
そんな柚兄ぃの表情や仕草を見て、山田風紀委員長は憧れの人である柚兄ぃに撫でられて嬉しいのを、柚兄ぃにバレないように必死に口元を山田風紀委員長さんは、不器用なのか不自然に引き締めている。
……それを見て柚兄ぃは、またニヤニヤと嬉しそうに笑っているんだけれども、それに山田風紀委員長さんは気付いてない。柚兄ぃの行動に対して照れている事を隠す事にしか、山田風紀委員長さんはそれしか考えていない。
ああ。俺はそんな山田風紀委員長さんに対して、貴方は先輩だけど頭を撫で回したい衝動を、俺は心の中で留めておくのが凄く大変です。俺まで柚兄ぃみたいに、山田風紀委員長さんを猫可愛がりしてしまいそうで……、俺はどうしたら良いのでしょう?
と、俺がそう考えていると、秋和が俺の側へと距離をつめてきて、秋和は俺の頭を抱き寄せるように、秋和の頭の方へと引き寄せた後に彼は、そのままの体勢で俺の頭を撫で続ける。俺はそんな秋和の体温に、さっきまで抱いていた山田風紀委員長の猫可愛がりしたい衝動が、まるで最初から抱いていなかった事のようになくなってしまった。
陽ちゃん先輩を猫可愛がりしたいと思ったのは、さっきの出来事があって、誰かの体温に触れたいと俺が心の何処かで、そう望んでいたからなのかなっと秋和に頭を撫でられながら、そう考えていた。
そう考えたと同時に何故だか、まるで涙腺が心と繋がってしまったかのように、……俺は心の中で抱く感情に流され、ポロポロと涙が流れ始めた。食堂で“あの娘”と会話をしていて、心の中で思っていた言葉が勝手に口が、俺の制止をするのをお構い無しに声として出していく。
「ねぇ、秋和。俺は間違ってたのかな。俺は星和として四度生きてきた。そんな中、四度目の星和だった時の俺は確かに彼女の事を愛してた、恋愛感情として。誰よりも彼女を一番に愛していて大切な存在だったのに……、親友で幼馴染みだった藤和以上に大切な存在だったのにッ……、彼女は結婚したと同時に人が変わったように束縛してきた。君が一番愛してるよって、毎日言っても彼女は束縛ばかりして、俺の言葉を信じてはくれなかった」
と、そうポロポロと涙を流しながら急に語りだした俺に対して、最初は驚いたような表情をしていた柚兄ぃと陽ちゃん先輩だったが、そのうち三人はただ真剣な表情をしながら、静かに俺の話だけを聞く体勢になっていた。……そんな三人の優しさが嬉しくて、珍しく感情的になった俺はこう言う。
「最初は彼女の束縛にも耐えられた。だけど!結婚生活を送れば送る程、彼女の束縛も重たくなってきた。最初は許されていた藤和に会う事も、次第に会いに行く度にその後に暴力を振るわれるようになった。けど、俺は彼女を愛していたから、彼女の束縛に耐えようと思ったけどッ」
と、感情的に声を出したせいか息が荒くなって、俺は必死で息をした。その後、まるで喉を痛めてしまいそうな声で、俺はさっき言葉にした事を続けるようにこう言う。
「………………俺の精神が壊れる方が早かった、俺は会社帰りに必死になって、秋和に助けを求めた。その時の俺の精神は正常じゃなくてッ、藤和以外の人は敵に見えてしょうがなかった。…………あの場所での味方は、あの時の“俺”には藤和しかいなかった。
藤和が彼女の両親に話をつけてくれてッ、俺はやっと彼女から解放されると思ったのに……ッ、藤和の所で精神的に受けたダメージを癒して始めてから、しばらく経った時に彼女の娘だと名乗る少女が現れた。
……実際は、娘の精神を乗っ取った彼女だったみたいだけどね……、彼女は当時の俺から意味を奪った。……あいつは藤和を、藤和を、藤和を!藤和の人生を奪いやがったッッ!」
と、俺は今、目を血眼にさせて感情を露にしながら、まるで叫ぶように、乱暴に言葉を言っているのだろう。……秋和は感情的になる俺を、包み込むように抱きしめた。
「……俺は生きてるよ。ごめんね、一人にして。俺のために怒ってくれてありがとう。大丈夫、俺はお前が側に居なくて良いって言うまで、お前の側に居るから……、騎里のそれまでの時間を俺にちょうだい?」
と、秋和は言い聞かせるような、優しく柔らかな声で俺にそう言った。そんな彼の言葉に、俺は必死になって涙声で叫ぶように、秋和にこう言う。
「……、あげる。秋和が側に居て欲しいって言ってくれるまで、俺の人生を秋和にあげるからッ……、俺の一番の親友で居て? 側に居て、俺を一人にしないで!…………俺には秋和が必要なの!」
俺はそう言うと、秋和は俺を抱きしめる力を強くした後、こう言った。
「勿論」
その一言で、狂いかけた精神状態は落ち着き始めた、……俺はまるで眠るように意識を失った。




