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 秋和は王譲椎羅だけに殺気を向けながら彼は、秋和自身の懐に引き寄せるように俺を抱きしめる。彼は俺の頭を撫でながら、まるで王譲椎羅を挑発するかのような視線を送りつつ、秋和の纏う空気は幼馴染みである俺でさえ、思わず戦慄してしまいそうな程の殺気を纏っていた。

 それでも俺は秋和に抗わない。俺は大人しく秋和に抱きしめられたまま、首だけ振り返るように王譲椎羅の方へと向けた。俺は彼女の表情を見た瞬間、王譲椎羅と言う人間の魂はあの娘の狂気に見惚れ、自分があの娘と同じくらいに狂っていると気付き、あの娘の狂気を受け入れてしまったんだと、俺はそう察した。

 王譲椎羅、彼女は昨日今日で精神が壊れるような女性じゃないだろう。彼女は多分、秋和の事を愛し、大切に思っていてくれたのだと思う、それはきっと秋和と出会ったと同時に芽生えた恋心なのだろう。

 彼女は強く秋和を想うと同時に、秋和が王譲椎羅と言う女性を好きになる事はないと、気付きながらも彼女は秋和を強く想っていてくれたのだと思う、……あの娘の強い狂気を当てられた事で、彼女を恋で狂わせてしまう程に。

 秋和は、そんな王譲椎羅の自分に対する恋心に気が付かない程、秋和は鈍感な男じゃない。……敢えて、王譲椎羅の秋和へ対する恋心を、彼は知らない振りをしていたのだと思う。秋和は彼女の恋心に答える事を彼は出来ないとわかっていたから。

 秋和が恋が出来ない理由は、俺と秋和がお互いに依存し合っているから、と言う理由だけじゃない。

 秋和は誰かに恋をして、王譲椎羅のように狂ってしまう事に恐れている、……それはきっと秋和が、“藤和”としての記憶を持つ限り、彼は恋情を抱く事を恐れ、秋和は誰かに恋情を抱く事はないだろう。

 ……秋和の前世の両親が恋で狂ってしまったが故に、秋和は自分にもそうなる血が濃く流れていると思ってしまっているから、彼は誰かを恋愛感情として愛す事が出来ない。


 俺は別に、秋和が無理して恋愛をしなくても良いって考えているんだ。……だから、王譲椎羅が秋和に対して恋愛感情を抱いている事に気が付いていても、秋和が選択しなければならない事だから、俺は王譲椎羅について口を出すような真似はしなかった。

 だって俺は、どんな選択肢を秋和が選ぼうとも、俺は彼を幻滅する事なんて有り得ないし、秋和が選んだ事なら全力で応援したいと思ってる。俺はね、秋和さえ幸せで居てくれるなら、俺は彼にどんな面倒事に巻き込まれても構わないって思ってるから。だからね、俺は王譲椎羅からの殺気からも、背を向けて逃げたりはしない。

 それで秋和が幸せになってくれるなら、秋和が笑顔でいてくれるのなら、俺はそれだけで良い。俺にとっての幸せは、秋和や兄様が前世の分まで幸せになってくれる事だから……。

 自分を犠牲にしてまで、彼らの幸せを祈ろうだなんて思ってはいないよ、そんな選択をしてしまえば彼らは、俺を思って泣き続けてしまうと思うから。

 俺が望んでいるのは彼らが幸せである事だから、俺が死んで悲しみ続ける姿なんて望んではいない。……だけどね、秋和が息を引き取る事になれば、俺は死を選ぶ事を自分でも止める事が出来ないんだ。


 兄様を悲しませたくないとは思ってるよ、思ってるけど!……秋和が亡くなった後、四度目の星和として歩んでいた俺は、まるで誰かに操られたかのように死を選ぶ事を、自分でも止められなかった。

 秋和が亡くなった後の俺は、まるで生き物が生きるために空気を求めるかのように俺は死を求め、自我を失えば直ぐにでも自殺してしまうような状態だった。……だけど、一週間は自我を保つ事が出来た。

 本当は秋和が息を引き取ったと同時に、自ら死を選んでしまいたかった。けど、俺の事を心配してくれてる兄様がいたから、一週間は自殺衝動に耐える事が出来たんだけど……。

 俺にとって一週間が限界だったんだ、自ら死を選ばないように耐える事が。


 それほど秋和の存在は、俺の中で大きな存在なんだ。……あの娘はそれを理解した上で、秋和を失った寂しさにつけ込もうと思っているのかもしれないけど、……それは無理だよ。

 無理なんだよッ!秋和以上に安心して依存出来る相手なんていない!あの娘は俺に愛されたいんだろうけど、俺の中で秋和以上に大きな存在になろうなんて、誰であろうと、無理なんだよッ!!

 俺が四度目の星和として人生を歩んでいた時、一番辛い時にいつも側に居てくれたのは秋和だった!

 病んでいる俺に対して、いつも秋和は真剣に向き合ってくれた!……嫌な顔一つせず、優しく柔らかい笑顔で俺の側に居てくれた。そんな秋和に対してさ、依存するなって言う方がおかしいだろう?

 だけど、あの娘はただ、俺の気持ちを考えずに愛されたいと言う気持ちを押し付けてきただけだった。

 俺は自分に娘がいる事すらも知らなかった。確かに、普通の精神状態で病んでなかったら、自分に娘がいた事実に俺だって喜んでいたかもしれないよ?

 だけど、あの時はあの娘の母親に恐怖しか抱いていなかった時期だった、……あの娘が浮かべていた愛に飢えたあの表情は、彼女の母親にそっくりだった。だから、俺はあの娘の存在を受け入れる事が出来なかったんだ……。

 今だったら大丈夫、君を受け入れる事が出来るよと、四度目の藤和の息を引き取らせるような事をしなければ、今の俺は言えていたかもしれない。だけどね、秋和をもう一度息を引き取らせる行動を、君が繰り返す事をするのであれば、俺も四度目の時と同じ行動を繰り返すだけ。

 ……俺がどれだけ秋和に依存をし、俺が秋和の側にいる事にどれだけ執着しているのか、あの娘は全くわかっていないらしい。彼女は自分の都合の良いように解釈しているだけだ、……俺に愛されるために。


 だからね、俺は逃げるのをやめた。……怖がるだけの自分はやめたんだ。

 今は秋和がいてくれる、俺の代わりに王譲椎羅に殺気を送ってくれている。けどね、俺だって本当は本当はわかってる、秋和に頼りきりなのは駄目だって事くらい。だからね、俺も彼女に明確な敵意を見せるよ、あの娘が気付けるくらいの敵意を。

 俺はそう考えながら、俺は普段は悪霊に対して向ける殺気を、王譲椎羅に向けた瞬間に彼女は動揺を見せていた。……秋和も若干動揺を見せたものの、彼は俺の決意を見抜いたのか、秋和は直ぐに動揺を見せるのをやめ、視線を王譲椎羅へと戻した。

 と同時に王譲椎羅は、

『「どうしてどうしてどうして!何で、(ボク)に殺気を送るの!パパの事、迎えに来たんだよ……?

パパがボクの事を魂の状態だとわからないと思ったから、魂の器まで手に入れて迎えにきたのに、どうしてパパは秋和の事しかミエテイナイノ……?」』

 そう彼女は言った。

 ……やっぱり君は王譲椎羅じゃなく、今はあの娘なんだね? と、考えながら俺はキッと鋭い視線で彼女を睨み付け、俺は淡々とした口調でこう言う。

「君はもう、俺の娘じゃない。君は星和の娘だ、君が俺の娘だったのは前世の話だろう、何時まで前世で俺の娘だった事を引きずっているつもりなんだ?

娘だった君を愛す事が出来なかった事は申し訳ないと思ってる。だけどね、あの時の俺は通常な精神状態では無かったんだ、愛に飢えた君の表情が彼女にそっくりで、あの時の俺は君から逃げるしかなかった」

 と、俺は途中で言葉を区切り、次の言葉を言おうとした瞬間、その言葉を遮るようにあの娘は言った。

 まるで人が変わったかのように、先程までの表情が幻覚だったのではないかと錯覚してしまう程に、あの娘は俺の事を心から心配するような表情をしながら、彼女は俺に必死で言い聞かせるように……、

「父さん、逃げて!貴方に執着している時の私は、私じゃない!母さんなの!

母さんは言ってた、あの人は別世界からトリップして来たって!だから、魔法が前世の時から使えたの。私の意識を脳内の深くまで沈めて、今まで私自身は母さんに乗っ取られていたのッ!

父さん逃げて!お願いだから、今度こそあの人は貴方の大切な人全ての命を奪うわ!私が母さんの意識を押さえ込んでいるうちに、早く…………」

 と、早く……の続きを言う前に秋和が超能力で、彼女の身体を持ち上げる。

 そして秋和はニコッと微笑んだ後、

「少し乱暴な操作で、ここから見て反対側の地域まで君を運ぶ。…………怪我してしまう事になるが、君の母さんを騎里の元に、より多くの時間を来させないための時間稼ぎなんだ。痛い思いをするかもしれんが、許して欲しい」

 そう秋和は言う。そんな秋和の言葉に、彼女は可愛らしい笑顔を浮かべた後、決意の籠った声で、彼女は淡々とした口調で秋和に対してこう言った。


「それで、より多くの時間稼ぎが出来るなら私は構いません。……父さんが前世で母から味わってきた苦しみ、痛みと比べれば、大した事はありませんから。

秋和さんの提案に、私は同意します」

 と、彼女は決意の籠った真剣な目で、俺達を見ながら淡々とした口調で彼女はそう言葉にする。

 彼女の決意は固く、誰かの言葉で揺らぐような決意ではなかった。秋和は一瞬で笑顔だった表情を一変させ、同性である俺でさえも見惚れてしまうくらいに、真剣な表情をしていた。

 俺はそんな秋和の表情を見たと同時に、思わず唾を飲み込んだ後、俺は自分自身の顔を秋和の肩に埋め、彼女に対して俺は震える声を押さえ込みながら、俺は彼女にこう言った。

「君の顔は確かに見た事はなく、どんな容姿をしているかは知らなかったけど、君の名前だけはね、君の側には居ることは出来なかったけど、俺でも知っているよ。汐音(しおね)、前世では本当の君を見てあげられなくてごめんね。君の幸せは、君の前世の父親として祈っているよ……」

 と、そう言葉にしたと同時に汐音は、泣き叫ぶような声が聞こえてきた。それでも、俺は秋和の肩に顔を埋めるのをやめず、汐音の方へと俺は顔を向けるようとはしなかった。

 そんな俺に汐音は、涙声になりながらも俺に聞こえるくらいの大声で……、

「私も……、貴方の幸せを祈っています、騎里さん。どうか幸せになって下さい、前世の分まで……」

 と、そう言ったと同時に秋和は超能力を発現し、汐音を何処かへと飛ばした。彼は超能力を発現しながら、秋和の肩へ顔を埋めている俺を、秋和は俺を包み込むように抱きしめ直し、俺の髪を優しくすくうように彼は、俺の頭を撫でる。

 ざわざわと動揺が食堂で広がる中、俺は山田風紀委員長が上手く場を落ち着かせようとする声が聞こえていながらも、俺はゆっくりとした動作で秋和を抱きしめ返すのだった。



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