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前半は別視点、後半は騎里視点です。
私は初恋の人に今も片想い中なの。……初恋は叶わないって本当なのね、私が恋をした相手は“あの人”ばかりを依存して、信頼している人以外は無関心で、心を許すことはない。
それでも貴方を想う事を諦める事が出来なかった、……友情に依存している貴方を私は、何度も嫌いになろうとした。……だけど、私は貴方にどんなに冷たい態度をされようと、貴方を嫌いになる事なんて出来なかったの……。
私は貴方に一度だけでも良いから、一瞬でも良いから、貴方に私だけを視界に映して欲しかっただけだった。貴方に永遠にとは言わないから、私を少しの時間でも良いから恋愛対象として見て欲しかった!
一日とは望まないから、せめて一時間でも良い。私の隣に居て、一度で良いから貴方の笑顔を“あの人”じゃなく、私だけに向けて欲しいと毎日のように願っていたわ。だけど、貴方が依存するのは私ではなく、あの人だったの……。
……私がどう足掻いても貴方の中で、あの人より大切な存在に私がなれない事くらい、そんなのわかってる!わかってるけど、私は貴方が好きなの!何度も諦めようとしたわ。だけど、簡単には貴方を諦める事が出来なかったの!
貴方が優しくするのはあの人だけだし、勝ち目のない恋だって心の何処かでわかってた!だけど!
私自身の気持ちが、自分で制御出来なくなるくらいに貴方を愛してるの!この恋を諦めることが出来ないくらいに。……その事に気付かせたのは皮肉にも、貴方があの人と楽しそうに笑い合う姿を遠目から見ていた時だった……。
貴方のあの人に向ける視線に恋愛感情が含まれていない事も、私は気付いてる。……そして、これから先も貴方は“貴方”として生きる限り、“あの人”に恋情を抱く事はない事くらい私は察してる。
貴方は今の“貴方”としての生きる人生で、……貴方が自分の決意を崩さない限り、恋愛感情を誰かに抱くことはない事を私は、貴方に一目惚れと心の何処かでそう思っているわ。
そう思ったと同時に私は、貴方へ抱いたこの初恋は一目惚れしたと同時に、叶わない恋だと気付いてしまった。……その事に気付いた私は初めて自分自身の勘の良さを恨んだわ、もしその事に気付いていなかったら……、もっと貴方に私自身をアピール出来ていたのかしら?
…………今以上に貴方に冷めたような目で見られてしまうのかな、それとも貴方に今以上に更に嫌われてしまうのかもしれないわ。今も若干、私は貴方に苦手意識を持たれているようだから、嫌われようと私に対する対応はあまり変わらないのかもしれないけど。
それでもいいわ。それでも構わないから、私は貴方に私自身を見て欲しい、私と言う存在に気付いて欲しいの。……それが望めないのであれば、絶対に有り得ない事だけれど、貴方があの人に深い恋情を抱かないように阻止をする。
貴方に少しでも恋情を抱かせるような可能性がある事を全て排除するために、私は“あの子”の誘惑に乗ったの、……危険な手段だと知りながらも。
それが例え、悪魔の囁き……いえ、死神の囁きだったとしても私は“あの子”の言葉に惑わされ、聞き入れてしまった私はもう後戻りをする事は出来ないし、許されない。
だから例え、貴方の人生に幕を閉じる結末になることを“あの子”がする事になろうとも、私の決意は揺らぐ事はないと言いきれる、……私は望んで“あの子”の狂気を自分自身に受け入れたのだから。
例え、あの子に利用されて終わる結末になろうとも、あの子の狂気に飲み込まれる結末になろうとも、私は貴方さえ誰かのものにならなければそれで良い。
……そして、あの人だけに向けられる優しい柔らかい笑顔を失わせる事さえ出来れば、私の貴方への恋心が叶わなくともそれだけで、私は満足なのだから。
それで例え、自分の人生を棒に振るっても良いなんて考えている私は、……貴方を“オモイ”続け始めた時からもう、私の恋情は狂っていたのかもしれないと、私はそう考えていた。
そんな私は意識が薄れていくのを感じ取り、……私自身の魂がボロボロに破壊されていく感覚を感じながらも、私は不思議と魂が壊れる恐怖を抱くことはなかった。だから、私は“あの子”の魂を拒絶する事なく受け入れる。
……誰かを依存する程に愛し、愛した人物に“あの子”自身だけを愛されたくてたまらなかった“あの子”のその愛が狂い、歪み、狂気となった“あの子”の魂が正気と思っている私の抱く“貴方”への恋情も歪み、狂っている。
私の意識はそう考えたと同時に、私の魂は“あの子”の魂に上書きされる。
◇◆◇◆
ああ。最近は学園内の空気が悪い、……“あの娘”の似た狂気が満ち溢れている。彼女はついに、学園内の生徒の誰かを味方につけてしまったのだろうか?
そもそもあの娘は何故、俺にそこまで依存するのだろう。彼女には母親がいたはずだ。何故、身近にいたアイツを依存せずに離婚した父親である俺に、あの娘は依存するのだろう?
俺が秋和に依存する理由はちゃんとあり、秋和が俺に依存する理由は俺も良くわかっているつもりだ。
でも、あの娘に俺は、“星和”として一度しか会った事がないのだ。彼女が産まれる前に俺は元嫁と離婚し、精神が安定していない俺は秋和の家から一歩も外に出ることを、数年はしていなかったから。
だから、あの娘と初めて出会ったのは藤和が息を引き取った、あの日……。
藤和の人生を幕を無理矢理閉じさせた事は、俺はあの娘を絶対に許しはしない。だが、復讐をしたって意味はないのだ。……だって、藤和は“秋和”として今を生きているのだから。
と、俺はそう考えながら、この学園内に漂う狂気に不安を感じ、思わず秋和の制服の袖口をキュッと握りしめるそんな俺に、秋和は俺の方へと顔を向け、俺を安心させるためか、彼は柔らかく優しい微笑みを浮かべていた。
俺は秋和の微笑みにつられるかのように、固く閉じていた口元が自然と緩み始めたその瞬間、……戦慄をしてしまうくらいの殺気が俺に向けられたと同時に、微笑んでいた秋和の表情は一変して、鬼の形相と言う表現がピタリと当てはまるくらいに、怒りに満ちた表情をとある人物に秋和は向けていた。
昨日とは一変して、無表情で目が闇に染まった王譲椎羅に向けて、秋和は彼女以上の殺気を向けていたのだった。




