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転生して一年が経ち、四歳になった。
四歳になるまでの一年間は俺にとって、まるで地獄のような日々だった。
一日のほとんどを勉学、武術や超能力の鍛練、貴族としてのマナー講座に時間を費やし、辛すぎて泣きたくもなった。
しかし、一年も経てば、マナーも自然な動作として出来るようになった。
武術や超能力については三歳の初めよりは、上手く操れるようにはなってきているけど……、友達がまだいないもので、比べる対象がいない。
友達が欲しいなぁ〜と、考えていたのを察したのか父様が、王族のパーティーで社交デビューをしようと言い始めたのである。
「父様、流石に騎里の初めての社交場が王族主催のパーティーなど、マナーが完璧で、世渡り上手な騎里でも無謀すぎます。
どうするんですか、可愛い過ぎる騎里が拐われでもしたら、俺狂いますからね! どうしても、王族主催のパーティーに騎里を連れて行くと言うのなら、私も同行しますからね!」
と、俺の三つ年上な兄様は、何でも完璧にこなし、しっかり者で、顔も整っている。
彼の唯一の欠点は、最早病気なのではと思うくらいの重度なブラコンであることと、頭の回転が早すぎるせいか、この先に起こる可能性の選択肢をたくさん考えすぎて、心配しすぎるくらいだろうか。
そんな自分の今の兄様を見て、まるで前世の幼馴染みであった藤和と重ねてしまい、完璧過ぎる兄様の才能に嫉妬なんてすることなんて、俺には出来ない。
ましてや、自分を大切にしてくれている彼を嫌いになるなど、俺には無理なことだ。
「初めての社交場で緊張は致しますが、兄様がついてきて下さるなら俺、王族主催のパーティーに、喜んで同行させて頂きます」
と、満面の笑みでそう答えると父様は安心したのか、深い溜め息を一度ついた後、
「了解した、そのように手配しよう……」
そう言って、父様は自分の書斎の方へと向かって、歩いて行ってしまった。
◇◆◇◆
次の日、早起きをし、王都へと向かうためにテキパキと俺は支度をしていると、コンコンとノックされる音が聞こえた。
「どうぞ」
と、俺はそう言うと、遠慮がちに開かれるドアの先には兄様の姿があった。
そんな兄様の動作に、俺は可笑しくなり、クスクスとバレないように数秒の間笑った後、俺は柔らかな口調で彼に話し掛ける。
「兄様、俺に何かご用でしょうか?」
と、そう言うと、兄様は戸惑ったような表情を見せながら俺に近付いてきて、俺を包み込むように抱きしめ、こう言った。
「今度こそ守って見せるからな……」
そう呟き、俺を抱きしめるのをやめた。
俺はそんな兄様の言葉に疑問を持ちつつも、考えば考える程にまるで蟻地獄のように、思考に囚われてしまうのもわかっていたから、今は荷物をまとめることに集中することにした。
それから数十分をかけ、荷物をまとめると、隣にいた兄様が俺の手から荷物を奪い、何処かへと持っていってしまった。
俺は慌てて、そんな兄様を追いかけると、兄様の足が向かっていた先には馬車があり、兄様はテキパキとした動きで、俺の荷物を馬車に乗せたと同時に、父様が現れた。
「さて、出発するとしよう。……王都は此処からでは少し遠いからな。万が一の時のために二人とも、少しだけでも眠ってなさい」
と、そんな父様の柔らかな、まるで子守唄を歌う時のような声を聞き、馬車に乗り込んだと同時に、俺は眠気に逆らわずに眠りについたのだった。
◇◆◇◆
次に目が覚めたのは、食事を摂るために馬車が一時停止した瞬間だった。
俺はご飯を噛みしめるように食べた後、少しお腹を休め、素振りをした。
その後、馬車の手入れが終わるまで、俺は懐刀や二刀の刀の手入れをするのだった。