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思わず見惚れてしまいそうなくらいに、凛とした立たずまいをする春宮麻琴は、澄みきった低音の声で彼はこう言った。
「何をやっている」
彼の声は普通の喋る声にも関わらず、まるで聴覚を刺激するような感覚で、俺の耳にそんな彼の一言が届いた。
俺は彼の声に驚きのあまり思わず、瞼が開ける限界まで目を見開いた後、俺はまるで金縛りにあったかのように立ち尽くし、彼らの言葉を待っていた。
これが彼の……、春宮麻琴のカリスマ性と言うヤツなのだろうか……?
喧嘩していた不良達の動きは一瞬で、まるで彼に操られたかのように、先輩後輩関係無しに彼の言葉の呪縛から解き放たれるのを待っていた。
彼はまるで、この学園の不良全てをまとめている“総長”のように思えた。
まあ。“ブラコン番長”と呼ばれていた前世を持つ兄様には、流石の春宮麻琴も負けると俺は思うけれど……、春宮麻琴に挑まれない限りは兄様だって行動はしないと思う。
隣で鷹宏さんがニヤニヤしている兄様を押さえ込んでいるから大丈夫!
と、考えていると、
「どうやら僕の恩恵は、今回は必要がなかったみたいだね、……騎里」
そう鷹宏さんは兄様を押さえながら、俺に口パクでそう伝えてきた。
……そんな鷹宏さんの言葉に俺は、
「気にしないで下さい」
と、口パクでそう伝えた後、直ぐに視線を春宮麻琴の方へと戻したと同時に、
「貴様ら、私の管轄内で何をやっている? ……この学園の風紀を乱す者は誰であろうと、この管轄内を仕切る私がいる限りは許す訳にはいかない……」
彼はそう言ってから、目で部下に指示をし、不良達を取り押さえた後、部下達を連れ、何処かへと足を動かし始めた。
そんな彼の行動に俺は疑問を抱いた、……確か「友愛学園」の彼のシナリオはこうではなかった、と。
やっぱり秋和の言う通り、ここは「友愛学園」のパラレルワールドでは無いかと俺は思い始めた。
あの女の子が言っていた“アクマ”と言う存在が創り出した、世界では無いかと。




