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俺達は食堂に着いたと同時に直ぐさま、メニューを選んで食事した後に隠れヒロインが来るまで、目立たないような席に座って待機をしていた。
俺はその事に対して疑問に思い、
「どうしてわざわざ近くで傍観するの?」
と、秋和にそう聞く。そんな俺の疑問に彼は小さな声でこう言った。
「ある程度は攻略情報を知っていないと、俺が知らないこの世界の独特の展開が現れても困るから。
それにある程度危険をおかしてまでも、確実に俺達が傍観者になるためには情報を多少は直接見なければならないと思うからだ。
この世界がもし、俺が作ったゲームの“パラレルワールド”だった場合、俺が予想できない出来事が起こってもおかしくはないんだ、……それを情報を知り、見分けなければならないと俺は思う」
彼は真剣な表情でそう言った後、息を調えた後に俺に対してこう言った。
「いいか、トラウマを思い出すようなことを言ってしまうのは心苦しいが、これだけは心を鬼にしてお前に言うぞ、…………ゲームでは“一條騎里”が正体不明の人物に刺されるシーンなんて、幼少期編のシナリオには全くない。
だから、俺は『友愛学園』のパラレルワールドじゃないかって今は思っている。……確かに性格には変化はないが、明らかに“シナリオ”と異なる点が多すぎるんだ。
この世界は確かに俺の作った『友愛学園』をベースに作られた世界ではあるが、この世界を作り出し、俺達を転生させたのは当たり前だけど、俺達じゃない別の誰かだと思う。
…………それも人ではない“誰か”がね。
俺の予想だと、あの女の子で言うと“アクマ”と言う人じゃないかと思っているのだが……、その確証を得るためにはある程度の情報を知っておかないと、真実が見えないような気がするんだ」
と、彼はいつ息を吸っているのかわからないくらいの早口で、俺の耳元で囁くようにそう言った。
彼は夢中になると、普段以上に言葉数が多くなる。……その代わり、彼からは笑みは消え、同性でも見惚れてしまうような真剣な表情を見せるんだ。
俺は秋和の勘を信じるよ、例えそのせいで傍観者で無くなったとしても、秋和の勘は必ず当たるって俺は知っているから。
そんな俺の心情に秋和は気づいたのか、彼はさらに真剣な表情を浮かべて、俺に耳打ちをする。
「正直俺も戸惑ってる、『友愛学園』のゲームに存在しなかった“正体不明”の存在が現れたことも、『友愛学園』に転生してしまった理由も、……前世で死んだ記憶が無いからわからないんだ、だから“傍観者ではなく物語の登場人物になってしまう”危険をおかしてまでも、俺は真実が知りたいんだよ。
それが例え、悲しい記憶だったとしても」
と、そんな言葉に、
「いいよ、俺も手伝うよ。……俺だけノウノウと“攻略対象”近くで傍観している秋和を見ているだけなんてこと出来ないし、もし“攻略対象”にされちゃった場合、……秋和だけ“物語”に巻き込まれるなんて耐えられないから」
俺はそう返事をした。
そんな俺の言葉に真剣な表情を緩めて、彼は口元だけで笑っていた。
そんな秋和に俺は、本当は秋和は手先は器用だけど、本来の自分の気持ちにすることだけは不器用なんだよね……と考えていた。
◇◆◇◆
意見が合致した俺達は暫くお茶を飲んでいると、周りがざわめいているのを感じながらも、巻き込まれるのも面倒なので知らない振りをする。
……秋和も関係ないことには関わらない気でいるのか、興味が無さそうにお茶を味わっていた。
のん気にお茶を飲みやがって!!的な視線が周りの生徒から感じるが、俺達はそんな視線にはお構いなしにお茶を飲み進めていると……。
食堂に隠れヒロインが現れたのを何となく気付いた俺は顔を上げると、彼女はある生徒の方へと視線を向けているのに俺は気がついた。
「中等科二年、春宮麻琴。風紀委員の問題児にして、敏腕の風紀委員だ。
……彼の能力が高く評価されているのは『友愛学園』の不良の取り締まりなのだが、良く良く見ると制服は規則通りなんだぞ。
性格は見た目に反して、真面目で温厚。
同じく攻略対象である風紀委員長の高等科二年山田陽介の左腕と言われている人物だ。
ちなみに右腕は風紀副委員長である木崎道一だよ」
と、そんな彼の紹介を聞きながら、目は春宮麻琴から話す聞き耳を立てていると、俺の隣に鷹宏さんが座り、兄様は俺の頭を撫で回した後に秋和の隣に座り、俺と同じく秋和の頭を撫で回す。
「学園中の音はバッチリ聴こえてるから、状況は把握してるよ。まかせて、彼らの会話は僕が聞いておくから、君達は彼らがどんな行動に出るかしっかり目に焼き付けておきなさい」
と、鷹宏さんは力強い言葉でそう言う。
彼は『友愛学園』の世界の登場人物で唯一、俺達が前世の記憶を持っていることを知っている。
彼は今も引きこもりではあるが、調子の良い時だけは兄様と共に行動し、学園で過ごせている。
兄様も鷹宏さんだけは信用しているようで、安心しきった笑顔を見せている、…………本人は絶対に気付いていないと思うけど。
「鷹兄上、助かる!」
と、秋和が言い、
「いーえ、どういたしまして。役に立てられるなら、僕も嬉しいしね?」
そんな秋和の言葉に鷹宏さんは優しい声で笑顔を浮かべながら、彼はそう返事を秋和に返した。
「あんまり無理するなよ? 折角来れたのに、早退されるのは困るぞ?」
そう返事を返す鷹宏さんを心配そうな表情を浮かべながら、そう言う兄様。
そんな兄様に、
「大丈夫だって、僕も何時までもこの恩恵と向き合わない訳にはいかないんだからさ。心配しすぎないでよ、暁」
そう言う鷹宏さん。そんな彼の言葉に複雑そうな表情を浮かべながらも、納得はしていないにも関わらず、彼は「わかった」と鷹宏さんに言った後、鷹宏さんは満面の笑顔を浮かべ、神経を耳に集中させ始めていた。
俺達はそれを合図に、彼らの行動の観察をし始めるのであった。