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 俺はあれから学生寮へと帰り、次の日の朝まで眠り続けたようだ、……眠り過ぎて逆に身体がだるく感じている。

 俺は素早く身支度をした後、秋和を起こし、食堂へと向かう。……その間に誰かに睨み付けられたような気がしたが、振り返るのも面倒なので気付いていない振りをする。

 悪意を込めて俺を睨み付けている訳じゃないみたいだし、気にする必要性を感じないから、真っ先に目に入った兄様と鷹宏さんの元へと向かう。


 俺はあくまでも傍観者だ、……トラブルに巻き込まれるようなことをわざわざ首を突っ込む訳にはいかない。

 俺はただ、傍観者として存在するだけ。

 …………あの女の子と決着をつけるためには、今は目立つ訳にはいかない。

 今はあの幻聴も聴こえてはいないから、刺された時のあの刃が幻聴を引き起こしたのだろう、……しかし刺されたと同時に刃が消えたから……。

 相当な実力を持ちつつも、何らかの原因でその実力を保つ時間制限が課せられている可能性がある。

 だから、今は俺に危害を加える可能性は極めて低いと考えるのが妥当だろう。そのため目立つ行動は控え、その時のために確実に実力を付ける必要があるだろう。

 何時までも兄様に頼ってばかりでは、……いつか自分の身を滅ぼすことなど目に見えているから。

 自分も戦わなければならないんだ。


 そのためには今、『友愛学園』の極秘恋愛ルートに巻き込まれる訳にはいかない、……これ以上にゲームのシナリオに巻き込まれるのは厄介だ。

 俺達は何としても傍観者として、この学園で過ごさなければならない。


「……と? 騎里!」

 と、秋和は俺を呼ぶ。

 そんな秋和に、

「どうしたの、秋和」

 と、俺は不思議そうな顔して、秋和の顔を窺いながらそう言うと彼は、

「考え事してたのか?

直立不動の状態でぼんやりとしてたから、また何かあったのか心配したぞ?」

 心配そうな声色でそう話す彼に俺は、

「ごめん……」

 と、一言謝り、兄様の前の席に座った。

 そんな俺に秋和は苦笑しながら、俺の隣に座った後、深い溜め息をついた。


◇◆◇◆


 中等科二日目。

 中等科一年の参加必須の四時間に渡る、中等科一年担任達との実戦訓練がいきなり、……午前中の授業だった。

 この世界は随分とハードな教育方針をしていらっしゃるようだ、前世で流石の制作者側にいた秋和も驚いた表情を見せていた。

 まあ。彼にとっては、実戦訓練の授業はきつくもないのだろうが、初日から担任達との実戦訓練が授業なんて、流石の彼も予想外だったようだ。

 初戦の生徒にはきついだろうけどね。


「ハードすぎる……」

 と、クラスメイトの誰かが言った。

 まあ。そうだろうな……とは考えつつもその言葉を声にはしない。

 どうせ、言葉にしたとしても疲労のため、聴こえてやいないだろうし。

 他のクラスメイト達もほとんどが倒れ込み、疲れきっている状態だ。


 俺を含めて、立って居られているのはたったの十四〜五人だけだ。

 まあ。俺は秋和の背中にもたれ掛かって、疲れている振りをしてるけど。

 …………でも、春馬くんが疲れた素振りを見せていないのは意外だったな。

 しかも、彼が扱っていたのは暗殺術だったことも、春馬くんが纏う殺気はとても鋭いものだった。

 まあ。授業終了と同時に何も無いところで転んでたけどね、春馬くん。


 でもね、春馬くんは実は、治療系の超能力で久夜様をサポートしながら戦っていたのを見たんだ、その時は流石の俺でも、ゾッとしたわー。


「お前。よそ見してただろ、……騎里」

 と、彼は小さな声で俺にそう言った。

 にっこりと笑いながらも、視線が痛いと感じるくらいに鋭かった。


「ごめんね、秋和」


 それ以外言わせねー的な雰囲気を醸し出していたので、秋和に俺は素直に自分がよそ見していたことの非を認めるのだった。



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