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幼少期編終了です。
今回の話はヤンデレが出てきます。
残酷描写があります。
夜になり、五人で見回りをしていると何時になく、邪悪な気配がした。
そんな気配に兄様は顔色を変えて、
「早く逃げろ!騎里、秋和!鷹宏も早く逃げるんだ、屋敷へ早く!」
俺はそんな兄様の叫び声に咄嗟に、屋敷の方へと全速力で走り出したと同時に、俺は腹部に激痛が走り、うずくまった。
俺は血が身体の外へと流れているせいか、心臓が早く血を作り出そうとしているのか、心臓が壊れそうと思ってしまうくらいに鼓動が早くなる。
俺は次第に体に力が入らなくなり、腹部を庇うように倒れ込んだ後、闇夜の空をぼんやりとした視界で眺めていると、脳内に誰かの声が響き渡る。
【パパぁ、これで邪魔者はイ・ナ・ク・ナ・ッ・タ・ネ。これでパパは……、ボ・ク・ダ・ケ・ノ・モ・ノ・だよね?】
と、可愛らしい笑顔を見せながら女の子は、……血塗れの顔を此方の方へと向いて、死んだ魚のような目でこう言った。
【アレェ~、まだパパの近くにお邪魔虫がいるね、パパはボクのなのに。
また、あの悪魔がボクのケイカクを邪魔したんだね。大丈夫だよ、パパぁ。ボクがね、もう少ししたらムカエニイッテアゲルカラ】
俺は脳内に響き渡る声に思わず、胃液が逆流しかけたのを感じた。
この女の子は俺のことをパパだと言った。……だけど、何で娘なのに覚えていない? あの悪魔って誰のことなんだ?
と、考えた瞬間、トンカチで頭を殴られるような頭痛がし、俺は体をガタガタと震えるのを止められなくなってしまった。
思い出したくない。
思イ出シタクナイ。
オモイダシタクナイ!
と、俺の思考が、彼女を拒否する。
腹部の痛みよりも、彼女への対する恐怖が俺の脳内では勝っていた。
「兄様! 助けて!」
俺は必死にそう叫んだ後、……掠れたような声で声が枯れるくらいに、
「たっ、助けてぇえッ! 兄様ぁあッ!」
俺は叫ぶ、……誰かに助けを求めて。
【ネェ? ドウシテ? ドウシテ、ボクを頼ッテクレナイノ……?】
やめろ……、
【ネェ? ドウシテ?】
やめてくれ……、
【ドウシテ、ボクじゃなくてアイツらばかりを頼ッテイルノ……?】
やめてッッ!!
【ド・ウ・シ・テ?】
やめろォオオッッ!
プツンッ!!
と、音を立てて俺の意識は遠退いていった、……彼女の笑い声を聞きながら。
【アヒャヒャヒャハハハッッッッ!!】
◇◆◇◆
「はぁはぁはぁ……。夢、か……」
ガタンッと音がベッドから鳴るくらいに、俺は勢い良く飛び起きた。
パジャマは汗が搾れそうなくらいに、俺は冷や汗を掻いていて。
自分でもわかるくらいに頭から血が下がるような感覚に陥った。
…………………………きっと俺の顔色は真っ青を通り超して、真っ白になっているだろうと自分でもわかるくらいに。
思い出したくもない夢を見た、見回りの時に刺された、あの時の夢を。
…………あの事件が起きてから、あれからもう八年も経ってしまった。
この傷を見るたびに、俺は彼女の狂った声を、表情を鮮明に思い出してしまう。
この傷が癒えて直ぐ、自分の顔が写るような物は全てを殴って壊して回ってた。
自分の手がガラスの破片で怪我する痛みよりも、彼女への恐怖心の方が勝っていたから、その時は不思議と痛みを感じることすらも出来なかった。
自分の顔があの女の子と重なったように見えて…………、狂ったように歪んだような表情を浮かべているように見えて、当時は自分の顔が怖くて怖くて堪らなかった。
今でも鏡は見れない。
ズキッと一瞬、古傷が痛んだような気がして思わず傷口を押さえた後、俺は窓から見える満月を、ベッドに座りながら眺めていると、起こしてしまったのか秋和が俺の隣に座り、俺をまるで包み込むように横から抱きしめた。
あともう少しで中等科に入学だと言うのに、秋和や兄様に頼ってばかりで申し訳ないと考えながら、俺は秋和の温かさに溢れる涙が止まらなかった。
初等科を飛ばし、次は中等科編です。
中等科編の後半辺りから、ダークファンタジーになっていくと思います。
よろしくお願いします。