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#007

 その日結局、俺が業務終了を許可されたのが昼。ギャル子に至っては、夜勤を控えているハヤテ部長が仮眠を取れなくなるため、夕方に強制終了となったらしい。ホタル、さすがに、かかりすぎだと思う。


「明日は筋肉痛だろうねー」

「やっぱりそうですよね……」


 俊敏に素早く、そして分かりやすく示すことが何よりも重視される閉扉合図の練習は、左肩になかなかのダメージをくれた。動かす度に関節から変な音が鳴る。


「風呂でよくほぐしておいたらいいよ。それでもダメそうなら言ってくれ。湿布貼ってやるから」

「ありがとうございます!」


 今日の業務終了を報告してから、昼から夕方まで死んだように眠り込んでしまった。起きてからノートに教わったことをまとめていると、いつの間にか時計は21時を過ぎている。通常ダイヤの場合、食堂の営業時間は22時までだ。慌てて食事をしに行くと、アサヒ副班長と一緒になった。

 ノートのまとめを見てもらいながら、思い違いを正してもらい、補足説明までしてもらう。それも副班長直々に。我ながら、なんて贅沢な指導を受けているのだろうかと恐縮する。


「まだ2日目終わったとこなのに、ミコトはすごいな」

「俺が、ですか?」

「こんなに一生懸命な子は久しぶりなんだよねー。ノゾミもハヤテも、やりがい感じてるんじゃないかな?」

「もしそうなら、もっと頑張ります」


 アサヒ副班長、いや、今は仕事中ではないのでアサヒ先輩の方がいいらしい。アサヒ先輩はまるでアスリートのようなバランスの取れた、かなり多い量の食事を摂っている。俺が菓子パンと野菜ジュースで済ませようとすると、野菜と豆腐のサラダを目の前に置かれた。食べろということだろう。


「武鉄に来る理由の大半が、口減らしか士官学校への入学なんだよ。飯食うために来る子は、当面の生活費が稼げたら他に行っちゃうし、試験免除目的の子は学校に入れたら満足しちゃうし」


 日々命懸けで働く武鉄隊員への福利厚生は、驚くほど充実していた。

 まず時給は、同じ年頃の高校生や大学生の平均的なアルバイトと比べると、約5倍だ。この時点でかなりの高給取りだが、ここに夜間手当、任務手当、危険任務手当など、様々な手当が付く。高いと見るか、当然と見るかは、仕事の内容を鑑みると人それぞれだろうが。

 食事は毎食、基本的に無料提供。事務室内や寮で、決められた時間に決められた食事を摂れば無料だ。アサヒ先輩曰く、決められていると言ってもかなり広範囲から選べるので飽きることはないらしい。外食は当然自分での支払いになるが、系列店や係員専用飲食店の価格設定は随分安い。

 他にもトレーニング施設は隊員の務めとして無料、鉄道はどこまで乗ろうと無料。国有の映画館や大劇場での歌劇、ファミリーランドと名付けられた遊園地は、一般料金の半額から8割引きだったりもする。そういった理由から、家計を圧迫しないために武鉄を志す者は少なくない。一般的な不自由のない生活を送れるのは、ステーションタウン内くらいのものだ。管轄エリア外の住民は、明日の生活に困る者も少なくない。

 また、軍に入る切符は、基本的に世襲だ。本人の能力とはあまり関係がなく、軍関係者の家の者は士官学校へ必ず入るようになっている。一般枠が無いわけではないが、この門はとんでもなく狭い。倍率は確か前年度が100倍だった。でも武鉄に入隊すれば、必ず士官学校に入学できる。最も自慢できる立派な職に就くためには、これが一番近道だ。


「……じゃあ、俺って」

「うん、とんでもないバカだ」

「はは、やっぱり……」


 湯気を立てる牛乳が入ったカップを置くと、アサヒ先輩は爽やかな笑顔で言った。


「俺もノゾミも、ハヤテも、他の班長やそれ以上の連中、それから助役さん達も、そういうバカは大好きだよ」


 この言葉をもらっただけで、バカであり続けようと思った。いつまでも、バカであり続けようと。純粋な憧れは理由として一般的ではない。でも、悪いことじゃない。アサヒ先輩はそう教えてくれた。

 自分で思っている以上に、俺は単純で浅はかなのかもしれない。


「いい時間になっちゃったな。ノートのまとめは程々にして早めに寝ろよ」

「はい!ありがとうございました!」


 深々と頭を下げる。俺、頑張ります。

 下げた視線の先には、アサヒさんの手によって俺の目の前に置かれたサラダと、新しい牛乳瓶。もう腹いっぱいなのに。小学生の頃、全部食べるまで片付けを許されなかった給食の時間を思い出しながら少しだけ泣きそうになる俺を横目に、夜は更けていく。




武装鉄道希望隊 #007




 態度、性格、素質。これほどまでに武鉄向きの人間が今までにいただろうか。ハヤテから報告された研修結果を読み直しながら、責任者会議に集まったメンバーは戦慄すら思わせる高揚感を覚えていた。

 23年度4月期生・ミコト。彼は一体、何者なのだろうか。


「2日目で基本動作が完璧って、さすがに贔屓しすぎじゃないのか?」

「正確に言えば、まともな研修は初日だったよー。昨日はトラブルでそれどころじゃなかったし、実質今日もトラブル発生してたらしいじゃん?」

「……お気に入りなのは分かりますが、過大評価は程々になさった方が」


 それが過大評価でないことくらい、誰もが分かっていた。ハヤテがそんな器用なことをするわけがない。いや、不器用で正直すぎるので、無理だ。しかし、ミコトの履歴書および入隊試験の成績表を見ても、とてもそんな評価を得られるようには見受けられない。“May Sta.”管理区ステーションタウン内の、偏差値はいたって平凡な公立高校出身。卒業時の成績は中の下といったところだろうか。ずば抜けて高評価の科目があるわけでもなく、5教科と副教科全ての平均点は、3.0点。並の中の並だ。入隊試験の成績も、やる気の項目に二重丸がついている以外は、全て並。なのにどうしてと、誰もが疑問に思う。


「逸材よ」


 凛とした涼しい声が、この場にいる全員を奮い立たせた。いつ以来だろう。誰もが求めてやまない、自らの仕事を全て託すことができる後継者。彼の成長が本物ならば、ミコトは班長どころか隊長にだってなれるだろう。

 今までにも逸材と呼ばれた隊員がいなかったわけではない。この場にいる数名も、かつて逸材と呼ばれ、成長を期待されていた。今や“Western River Sta.”管区の武装鉄道隊を統率するカムイだって、その一人だった。恵まれた才能、それを遥かに超越する努力。ミコトはどこまでできるだろうか。期待は高まって当然だった。


「まさかこんなに早く頭角を現すとは……」

「本人にその自覚はないわ。今はただ憧れてるだけよ」

「憧れてる?誰に?」

「理想のスーパーヒーローに、ね」


 一斉に視線を注がれ、ハヤテは目を逸らす。面接官に聞いた話によると、彼は2年前に起きたテロ事件、“Friday the 13 Sta.” に巻き込まれ、ハヤテに救出されたおかげで奇跡的に助かったらしい。当のハヤテはと言うと、その場に高校生の少年がいてくれたおかげで命拾いをしたらしいが。


「関係あらへんわ。素質あるんやったら技術班に貰う。それだけです」

「素質あんねやったら保線にほしいー!えーやろのぞみん!!ちょーだい!!」

「馬鹿言ってんじゃねぇよ。気概のある奴は調査がもらう」


 技術班班長・ハクト、保線班班長・カエデ、そして調査班班長・トキワは既に争奪戦を開始した。その様子を見るなり、他班も獲得を密かに計画し始める。


「ん~、こっちも若い子が久々に欲しいわ」


 医療班班長・リアスは、班の特殊な事情を鑑みて考察している。医療担当である彼の班は、医師もしくは看護師、それに準ずる技術士の免許が必要不可欠のため、常に一定数が在籍するものの慢性的に人手不足の感は否めなかった。


「あげるわけないでしょ。バカなの?」

「って言うより、ミコトは物じゃないんだから」


 それらの画策を面白く思わないのは、現在ミコトが在籍している前線班だ。

 武装鉄道隊に入隊した者は、全員が一旦前線班に在籍することになる。まず現場を知るためだ。現場を知らないまま、専門職は務まらない。ただし、前線班の任務は他の全班に比べて最も過酷だ。その名の通り現場の最前線である前線班は、いかなる時も真っ先に出動を命じられる。テロの沈静化、事故発生時の処理等、初心者にはあまりに荷が重いのも事実である。そのため、入隊後数日で逃げ出す者も少なくない。

 士官を志すでもなく、金儲けのためでもない、尚且つミコトのような逸材は次にいつ現れるだろう。彼を前線のエキスパートにしたいという気持ちが、ノゾミ達にないはずがなかった。

 人手不足が深刻なのはどの班も同様である。明日が約束されていない、常に死と隣り合わせの過酷な仕事。それもアルバイト。実力者が一人いることこそが、現状を打開する鍵になる。実力者の背中は、他の隊員の指標だ。道標となる素質のある者がチームリーダーとなり、その中でもずば抜けて信頼される人物だけが、伝説の選抜に推薦されてきた。

今ではあまり耳にすることもなくなった“希望の疾風隊”の肩書きに、かつては誰もが憧れた。当然、その肩書きだけで全てが決定されるわけではなかったが、分野ごとの実力者である“班長”の称号を手にするための、切符になっていたことは言うまでもない。ノゾミ、ハヤテ、カムイ、アサヒ……、この場にいる数人はかつてその肩書きを欲しいままにしていた逸材だ。ミコトは必ず自分たちを超えていくと、彼らは確信している。


「ミコトの邪魔するなら、誰であっても容赦はしないから」

「あいつのモチベーション下げたら、俺とノゾミが黙ってないよー?」


 笑顔なのに、二人の目の奥は笑っていなかった。本気だと、誰かが呟く。


「……いや、その時に一番黙ってないのはハヤテだろ?」


 一つも発言せずに様子を見守っていたカムイは、全てを見透かしたように言う。ハヤテは隊員を贔屓したりしない。それでも彼の熱の入った指導を見ていれば、彼がミコトを相当気に入っていることくらい誰だって分かる。

 ハヤテにその場の視線が全て集まる。彼は表情を少しも動かさず、言った。


「さあな」




***




「みこっちー!おはよー!!」


 やたらめった可愛い声が、俺のあだ名を呼んだ。ノゾミ班長の清潔感あふれる石鹸のようなシャンプーのような香りとは違う、甘い香りが近づいてくる。同期のギャル系女子、ホタルだ。ホタルはかつて、帝国鉄道の前身である鉄道で使われていた数少ない列車愛称だ。夕方時間帯の、準急か何かだったような気はする。使用期間も一瞬だったらしい。


「おはよう、ホタル。集合場所、間違えなかったんだ」

「うん!もう覚えたぁ。ノゾミ班長に怒られるの怖いし」

「それ、怒られて当たり前なんだけどな……」


 入隊から1週間が過ぎたが、その間ホタルが集合場所を間違えた回数はなんと5回。ノゾミ班長はいい加減呆れて、次まともに来られなければ減給にすると言っていた。それ以来ホタルは迷っても大丈夫なように、早く起きるようになった。いつの時代もお金の力は悲しくなるくらい素晴らしい。


「ホタル、ちゃんと来てるじゃない」

「迷わずに来れましたぁー!班長が道順メモくれたおかげです!」

「いい加減覚えなさいよ……」


 ああ、メモを見ながら来たのか。いつもよりも随分早いと思ったら。

 髪を降ろしたままやって来たノゾミ班長は、いつもよりも少しだけ幼く見えた。そういえば、実年齢は一体いくつなのだろうか。さらりとして、それでいて艶のある黒髪は、女性としての大人らしさと少女の可愛らしさを持ち合わせていて、まるで年齢の検討はつかない。ハヤテ部長やアサヒ副班長が俺よりも年上なのは言うまでもないが。彼女は持っていたホームマイクやメモ帳などをホタルに押し付けると、左耳の上に髪を集め、いつものピンクのシュシュで綺麗にまとめる。彼女が髪に触れるその度に、青春の甘酸っぱい恋を彷彿とさせるシャンプーの香りが微かに漂った。落ちる、絶対落ちる。もしも高校や中学校で彼女とクラスメイトだったなら、間違いなく常に目で追ってしまっていたことだろう。


「おはよーみんな。ミコトはいつも早いな」

「アサヒ副班長、おはようございます。早起きだけは慣れてきました」

「うん、その調子でいこーな」


 どこか不機嫌そうに見えるノゾミ班長と、爽やかな笑顔を浮かべているアサヒ副班長。ノゾミ班長は不機嫌というわけではなく、単に眠気と戦っているだけだと教えられ、それからは少しだけ微笑ましく思うようになった。初日、2日目のような緊張感を失ったわけではないが、表情筋がガチガチになることはなくなった。たった数日であっても侮れない。心に余裕を持てるようになってきたのは大きいと思う。

 ちなみに、新人研修は朝7時開始と定められ、終了時間は研修担当に委ねられている。しかし一人前になるとそうはいかない。基本は朝9時出勤で、休憩や仮眠を挟みながらの24時間勤務となる。終電を見送ったあとに4時間あるかないかの仮眠を取り、また始発から監視業務に就く。始発時間から、朝ラッシュの監視作業を終えると、一日の業務が終了となる。ノゾミ班長が毎朝眠気と戦っているのはこのためだ。アサヒ副班長曰く、終電後作業は分担して行うが、彼女は責任者としていつも付き添っているらしい。責任感の塊だ、と。

 業務終了後は明けとなり、翌日9時の出勤までは緊急召集が掛からない限りは休むことができる。管区内に居さえすれば、何をするのも自由だ。週休はちゃんと2日あり、こちらも緊急召集が掛からない限りは休むことができる。週休の場合は管区外に出ることもできる。これだけ見ていると、自分達がアルバイトである意味はどこにもない気がする。


「明日は入学宣誓式よね」

「ミコトとホタルは休み扱いだね。ノゾミも例年通り乗り込むんでしょ?」


 そうだ、すっかり忘れていた。明日はいよいよ士官学校の入学式だ。今日の勤務が終わったら色々準備をしなければならない。何か特別に必要なものがあったようには思わないが。通常の大学とは異なり、制服だってある。つい先日まで黒い詰襟の学ランを、中学生の頃から6年間も着ていた身としてはたいへんありがたい。所謂おしゃれな私服なんて持っていない。


「当たり前よ。ちょっと大人しそうで国家に従順っぽいのを引きずってくるわ。アサヒも来てよね。多い方が助かるんだから」

「はいはい、休日返上で働かせていただきますよー」


 自信満々なノゾミ班長の隣で、アサヒ副班長は苦笑いだ。何となく物騒な予感がしたものの、訊ねずにはいられなかった。


「……どういう意味ですか?」

「ただの勧誘だよ、武鉄に入りませんかーって」

「いやいや、脅迫でもあるな」

「誘拐と言っても過言ではありません」


 聞き覚えのある明朗快活な声と、柔らかい穏やかな声。カムイ隊長と、スバル部長だ。朝から物騒な単語が並ぶのにも、慣れてきた気がする。今となっては、平和ボケしている狭い世界だけで生きてきたから、言葉一つにも驚いていたのだと思う。物騒な言葉を使ったり、言葉足らずだったり、たじろぐくらいの罵詈雑言が飛び交ったりするけれど、武鉄隊の人達はいい人が多かった。幸運なことに、出会ったその日から尊敬したくなるような、魅力的な先輩方に恵まれている。


「よう、また会ったな。今日も元気か?ミコト」

「少しは慣れましたか?」

「おはようございます!まだまだ及びませんが、頑張ってます」

「そりゃ頼もしいな!!」


 豪快な笑顔と、控えめな微笑み。ちなみにアサヒ副部長は爽やかで、ノゾミ班長は天使のような笑みだ。集まる隊員の数だけ、ここには笑顔があふれている。正直、意外だった。もっと殺伐していて、いつも必死な顔をして、というのを想像していたし、覚悟だってしていた。しかし実際の武装鉄道隊の基盤はサービス業。駅の案内スタッフだ。笑顔なくして、何が成立するというのか。数日で学んだのは基本動作より何より、笑顔の大切さかもしれない。

 隣の同期は一体どんな笑顔をしているのだろうかと気になり、ふと視線を移す。


「やっぱ超イケメン……、王子様…」


 彼女の視線は、王子様ことスバル部長に釘付けだった。彼女の好みは、スバル部長のような王子様タイプらしい。


「入学式か……、お前ら、ノゾミちゃん達や俺らの近くに居る方がいいぞ」

「確かにね」

「え、なんでですかぁ?」

「目立つんですよ。学部生は定められた制服を着用していますが、武装鉄道隊は常に臨時召集を意識しているため、この黄色い制服のまま通うんです」


 それは、仰るとおりとんでもなく目立つだろう。武装鉄道隊の制服は上着がびっくりするほど目に刺激的な黄色で、下はグレーだが、サイドに黄色い太いラインが入っている。上着の胸囲はシルバーの反射テープがぐるりと囲っている。お客様が滅多に着ない上に、目に入りやすい注意色ということで、多少のデザインチェンジはあるものの、ずっと前からこの制服が採択されているらしい。駅ホーム上の例えば一番端に立っていたとして、軽く100メートルを超える反対側にいても区別はつくはずだ。とにかくそれくらい目立つ。


「俺達、制服採寸した意味って……」

「ないない。俺やカムイはもう長いけど、ほとんど着たことないよな」

「そういやねーわ。ハヤテはごく稀に着てる気がするが」


 結構いい生地でできていたのに、なんて勿体無い。そういえば母親から届いたメッセージに、制服を着た写真を送ってくださいと書かれていた気がする。まだ着てもいないが、どうやら誰の目にも触れないうちに御蔵入りになりそうだ。それよりも気になるのはハヤテ部長の学生服の使用用途だ。一体なんの目的で着たのだろう。少し見てみたい気がする。


「入学前に入隊したのは今回2人しかいないだろ?目立つぞー、黄色いのが会場にポツンと……」

「えー、寂しすぎますよぉー!」

「でしょ。ミコトもホタルも私達を手伝ってね」

「手伝い要員が欲しかっただけにも聞こえるけどね」

「明日は式のせいで政府要人も多いからって、昼勤組増やせって言われてるんだもの。勧誘だって大事よ?しばらくやるけど」


 しばらく、とは。ある程度の人数を確保できるまでは続けるのだろうかと身構える。勧誘を手伝うということは、きっと新人目線で同じ学年を確保しに行くことになる。入隊を悩む新入生の後押しをするために、俺も入学したばっかだし、武鉄隊にも入って1週間だよ、といった会話を繰り返すことになるだろう。当然目立つ。ものすごく目立つ。1学年の入学人数が確か100名程度だから、その中での知名度は恐ろしいことになる。今までの学校生活、できる限り目立たないように生きてきた自分にとって、これはなかなか一歩踏み出す決断ができない。


「ミコト、ホタル。お前ら自分の同期なんだから、頑張って捕まえてこい」

「がんばりまぁす!」

「……はい、頑張ります」


 とは言え、隊長に応援されてできませんとは言えない。こうなればヤケだ。23年度4月期入隊は3人ではなく、20名にしてやる。いや、やっぱり、23年度入隊を20名で。


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