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1.どうしてこうなった

迷走してます。

 オレの名は阿部ルイ。通称アベル。

 元々はいたって普通の男子高校生だったが、一年ほど前に地球からこの世界に召喚され、伝説の聖剣を抜いて勇者と呼ばれ王様の依頼で魔王退治に向かった。

 召還と同時に得たチート能力でついさきほど、サクッと魔王を倒し、この世に平和をもたらしたところだ。

 しかし、オレは空虚だった。

 勝利の余韻など味わうことなく、夜空に浮かぶ満月を見上げる。こんなはずじゃ、なかったのに――。


「勇者様ってば何、辛気臭い顔してるの~!? 早くお城に凱旋しようよ~」


 キャハハハハッと響き渡った明るい笑い声に振り返ると、右方向1メートルほどの距離に金髪ツインテールのあどけない顔立ちの美少女の姿。旅の仲間で武道家のエリリンだ。


「すぐ自分の世界に入り込んじゃうナルシストさんなんだからぁ。でもそこも好きー!」

「エリリン……いつの間に!」

「えへへ~そこの大岩の後ろで勇者様が来るのを今か今かと全裸待機してました!」


 エッヘン、と童顔のくせにやたらと豊満な胸をそらしたエリリンは、文字通り全裸。ここは温泉なのだからおかしなことではない……いや、おかしいだろ。男湯だぞここは。


「エリリン、のぞきは犯罪だぞ」

「そうですわ。いますぐここから立ち退かなければ、撃ちます」


 すぐそばの林の影からザッと登場したのは、清楚な白のドレスを纏ったシスター・リサ。女神のような柔和な笑顔を浮かべながら、その肩にはごついバズーカを背負っていた。


「勇者様の前からさっさと失せるのです、この変態」

「いや、おまえも同類だろ!」

「誤解ですわ。勇者様をお守りするのがわたくしの使命。けしてのぞきが目的というわけではぐふうっ」


 台詞の途中で鼻から赤い液体を噴いて顔をそらすリサ。


「純情なシスターにはたとえ上半身だけでも刺激が強すぎますわ……!」

「魔王が思ったより弱かったから拍子抜けしちゃったのかしら……」


 ザバアッと水中から現れたのは、エルフのミストローゼ。(服は着用。)


「魔法で潜水してたのか!?」


 オレのツッコミは華麗にスルーし、通称『氷の魔女』は静かな瞳で、至近距離からのぞき込んでくる。


「ヒトを凌駕した戦闘能力、伝説の武器防具、群がる美少女達、謎のカリスマ……そして最大のミッションを終えていまや富も名声も思いのままの貴方が、そこまで喪失感に襲われているのはなぜ? いったい、何が不服だと言うの?」

「……オレの求めるもの? それは――」


 オレは渇望と共に雄叫びを吐き出した。


「――筋肉だー!!」


 筋肉だー。筋肉だー。マッスルだー……。

 露天風呂に響くエコーが消えるのを待たずして、溢れるリビドーそのままにオレは言葉を継ぐ。


「ビバ僧帽筋! セクシー外腹斜筋! テッパン大胸筋! ミーハー上腕二頭筋! 美少女なんぞとうに見飽きたわ! 唯一の希望だった魔王までぶよぶよキマイラ系……オレのこの落胆がわかるか!? 兄貴! オレは兄貴が好きなんだああああああ!」

「――女の子たちがみんな引いちゃってるよ、アベル」


 ハア……とため息が漏れた方を仰ぎ見れば、木の枝に腰かけたシオンの姿。地球からオレと一緒に召喚された幼馴染で、少女のような整った顔立ちに細身の体躯……悪い奴ではないが、残念ながらこいつも筋肉要員には力不足だった。


「まあ、遭遇するのはなぜか基本美少女ばかりという偏ったこの世界で、魔王くらいは鍛え抜かれた鋼のマッスル美中年ダンディーじゃあないか――そんな期待だけで君がこの旅を続けていたことは気づいていたけどね」


 しゅたっと地面に飛び降りたシオンは、「でもね」といたずらっぽい笑みを浮かべた。


「この世界にも、希少ではあるけどマッチョも存在するらしいよ。

 西のプロテイン王国にあるという秘密の薔薇園……そこでは夜な夜な筋肉妖精たちが月明かりの下でポージングとともに舞い踊る『うほっ! ガチムチだらけのボディービル大会』が開催されている――なんて噂を小耳にはさんだことがある」


 な、んだ、と……?


byみなと@少年体型礼賛者

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