恋とコーヒーと
こうやって向かい合って、
暖かくゆったりとした時間を過ごすことも、
もしかしたらもうないのかもしれない。
一緒にいることが当たり前になりすぎて、
お互いがどれだけ必要なのかわからなくなっているよね。
あたしはあなたに必要ですか?
あなたの大好きな、
あたしの大嫌いな、
ブラックコーヒーの香りが、
部屋中に立ち込めている。
大嫌いで、絶対に見向きもしなかったコーヒーを、
美味しいって教えてくれたのはあなただった。
ちょっと強引に勧められたから、
最初は嫌いで仕方なかったけど、
今は欠かさず飲んでいる。
あれだけ嫌いだったのに、
好きになって・・・しまったから・・・。
少し大きめのマグカップに口をつけ、
湯気の向こうにあなたを見つめる。
『今夜も遅くなるから。』
『うん。』
何気ない会話も、何だか胸が詰まる。
あなたは気づいていないでしょ。
あたしの想いを。
あたしの覚悟を。
今ものんきに、コーヒー片手に新聞読んで、
いつもと変わらぬ優雅な朝。
こんなに胸が痛んでも、
いつもと変わらぬ穏やかな朝。
今夜、あなたがここに戻ったあと、
どんな顔をしてくれる?
あたしがいないことに気づいて、
少しは落ち込んでくれる?
必死で探してくれたりするのかな?
あたしから、あなたへの反撃。
ちょっとだけ、意地悪になってもいいよね。
コーヒーとあたしと、どっちが欠かせない?
なんてね。。
カップの底に、小さく溜まったコーヒーの輪。
苦くて香ばしい・・・
あたしの・・・恋の味だった。