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転生したら桶でした  作者: 玉葱将軍


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第二十一話 桶、値踏みされる


 薄暗い部屋。


 酒瓶。


 雑多な荷物。


 どう見てもまともな場所ではない。


(完全に盗賊団のアジトだよなぁ……)


 桶さんは部屋の隅に置かれながら、そんなことを思っていた。


 周囲では。


 獣人族の女達が好き勝手に話している。


「しかし本当にすごかったね」


「傷塞がったもんねぇ」


「“なんでも治る桶”って噂、本当だったんだ」


(いやいやいや)


(なんでもは治らん)


 桶さんは即座にツッコむ。


 確かに。


 擦り傷や切り傷くらいなら治る。


 軽い状態異常の回復補助もできる。


 だが。


 万能ではない。


(そんな聖杯みたいな扱いされても困るんだが)


 しかし。


 世間の噂はどんどん尾鰭がついていた。


「死にかけの冒険者が全快したとか聞いたよ?」


「呪いも解けるんでしょ?」


「病気も全部治るって話じゃん」


(誰だそんな話盛った奴!!)


 桶さんは心の中で叫ぶ。


 だが。


 女達は完全に信じていた。


「そりゃ500万ゼン出す貴族もいるわ」


「むしろ安いまである」


「貴族って金持ちだねぇ」


 そこで。


 狐獣人の女が少し真面目な顔になった。


「まぁ、今回はちょっと事情あるらしいけどね」


「事情?」


「依頼主の娘」


「かなり悪いんだって」


 桶さんはぴたりと黙った。


「病気?」


「原因不明らしいよ」


「高級ポーションも駄目」


「治癒術師も駄目」


「教会もお手上げ」


 盗賊達の空気が少しだけ静かになる。


「それで“なんでも治す桶”の噂聞いたらしい」


「あー……」


「藁にもすがるってやつか」


 桶さんは少し複雑な気持ちになった。


(いやまぁ……気持ちは分かるけど)


 だが。


 次の言葉で空気が変わる。


「本当は湯けむり亭に行く予定だったらしいよ」


「へぇ?」


「でも貴族様が大衆温泉に入るとか無理だったみたい」


「プライド高っ」


「で、金積んだけど断られて」


「盗む方向になったと」


(いや、そこは諦めろよ!!)


 桶さんは全力でツッコんだ。


(なんで盗む方へ舵切るんだ!!)


 女達はケラケラ笑う。


「まぁ気持ちは分かるけどねぇ」


「娘助けたいんでしょ?」


「親って大変だ」


「でも盗みは盗みだよね」


「そこはまぁ仕事だし?」


(お前ら倫理観ふわふわしてんな!?)


 すると。


 部屋の奥で寝転がっていた猫耳の女が、桶さんを見る。


「でもさ」


「この桶、本当に病気治せるのかな」


 一瞬。


 部屋が静かになった。


 桶さんも黙る。


(……無理だと思う)


 少なくとも。


 今の自分には。


 重い病を治せるほどの力はない。


 期待されても困る。


 だが。


 盗賊達はそこまで深く考えていないようだった。


「まぁ依頼主が納得すればいいんじゃない?」


「それで治ったら儲けもんだし」


「治らなかったら?」


「知らなーい」


(軽いなぁお前ら!!)


 そんな会話を聞きながら。


 桶さんは小さくため息をついた。


(……ミリナ達、心配してるだろうな)


 念話も届かない。


 自力で逃げることもできない。


 できることといえば。


 ここで転がっていることくらいだ。


(頼むから無茶だけはしないでくれよ……)


 その頃。


 夜の街では。


 シャルネを中心に、桶を追う者達が動き始めていた。

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