ライフェン再訪 2
市をのぞいてみたかったが、かなりの荷物を持っているのでとりあえずは宿屋を探すことにする。けれど逸る気持ちを抑えきれず、私は傍らの道具屋のテントの前で立ち止まった。店先には蓋がついた木箱が置かれており、雨が降れば蓋を閉めればいいので合理的だ。中に何が入っているのだろうかと私は近づきそっと蓋をあけた。箱の中はガラクタがごちゃごちゃと放り込まれており、食指が動くものは皆無だった。まぁそんな簡単にはいかないだろう。傍に古新聞が積まれているのが目に入る。本や雑誌がないかとかがみ込んだ。雑誌は読み終わるとすぐ捨てられるので残っていることが少なく、私の収集範囲物だ。
「焚き付けにでも使うのかい? タダでもっていきな」
と言われたが特にこれというものはなかった。
しかし焦りながらすぐに飛びつき物色するとはこれでは駆け出しの買い出し屋ではないか。自分自身の無粋さを恥じ、ここは一旦冷静に落ち着くためこの場を離れることにする。
宿屋は広場の奥にあるようだ。木組みの家が多く立ち並んでいる。町の北側には広大な森が広がっているので林業が盛んなのだろうか木材には事欠かないのだろう。
宿屋の主人は最初、三白眼でじろりと品定めをするかのようにこちらを怪しんでいたが一週間滞在し前金で払うと言うと急に相好を崩して愛想が良くなった。上階の部屋ではなく隣の建物に案内される。鍵を三本渡され、それは部屋と外に面した入り口のドアと外の門の鍵らしい。古い大きな鍵だ。大家は別の場所に住んでいるらしい。収穫祭の時期に部屋は取れないらしいが今の時期は誰も借りていないのだろう、使っていない家を一棟まるごと貸しているらしい。家具なども一通り揃っているので快適に過ごせそうだ。まぁ寝るだけだし広い意味はないのだが。
荷物を置くと早速市に繰り出す。自分のことを棚に上げるが、他の買い出し人がいないかと辺りを見回した。同業者は目つきや風貌である程度わかるのだ。この町はほとんどが自給自足のようで、食料品や日用雑貨、金物屋や皮革屋、鍛冶屋など生活に根差したお店ばかりで、私が狙う古い珍しいものは見当たらない。物がある雰囲気は感じているのだけれど。期待できるのは異国の行商人のテントだろうか。その前に場長のテントに立ち寄ることにする。赤い幟が出ているのでおそらくここだろう。
「出店ですか?」
中に入るとメガネをかけた神経質そうな男が言った。ここに寄ったのは別に出店するわけではなく、情報を得るためだ。私は古物認可書を提示して買い出し人だと示した。
「異国の人ですか? 収穫祭はまだ先ですよ」
暗になぜこんな時期に来るのか? と言っているのだろう。収穫祭は小麦を収穫し、乾燥させ脱穀した後、粉にした頃だという。祭りの間は先ほど通った道の左右にまでびっしりと露店が並ぶそうだ。まあその頃には私は別の場所にいるだろうが。
「今日は客で来たんだ、珍しい物はないかと思ってね。あとは町のことが知りたい」
私はそう言った。
「買い出し人ですか、ここへはほとんど来ませんね。見てもらえればわかりますが、八百屋に金物屋、木工屋に乾物屋と日用品ばかりですよ。異国のキャラバンも以前は沢山来ていたんですが、今は一件だけですね、仕入れに関してはそこで聞くのがよいと思います。私には分かりかねますので。私は雇われた案内役なので町に関してはあまり詳しくないんです。町に詳しいのは場長なので、場長は商館にいらっしゃると思います、そちらでお願いします」
まあ予想できたことだが、この青年は場長ではないらしい。
「わかった、ありがとう」
私はそう言う。
「商館は町の外れにあります。もしまたいらっしゃるなら収穫祭の時期を強くおすすめします」
私は手を挙げて返事をするとテントをでた。
私はその足で広場を横切り商館を目指す。途中先程言っていた異国のキャラバンが出しているワゴンが視界に入ったので寄ってみることにする。ワゴンに隣接するようにテントが建てられている。私はテントの中へ入る。
地面に敷かれたシートの上には見慣れない草花や何か液体の入った瓶、乾燥させた木の実など見慣れない物ばかりだった。いつもはとりあえず何かを買って口火を切るのだが、欲しい物が見事に何もない。
だがすぐに立ち去るのは得策でない。同業者は皆得意分野があり、自分の範囲外のものも交換用に持っていることがあるし、なにより色々と造詣が深いので交流しておくとなにかと利があるものだ。
「こんなの売れるのかい?」
と思わず失礼なことを言ってしまった。ロックタイト島でもやってしまったのだがまた同じことを繰り返してしまった。
「医者がいないような町はまだまだ多いからね、こういう薬は重宝されるんだよ」
異国の肌が浅黒い男はまったく気にするそぶりも見せずに言った。少し訛りがある。男の足元では黒犬が丸くなって眠っている。私は同業者だと明かし名乗った。彼の名はスペンサー・ファノといい、出身はコールスカンプだそうだ。主に薬の材料を集めて薬剤師に卸す仕事をしているらしい。なので見慣れないものばかりだったのだろう。
ここまではシュラキエムから来たという。シュラキエムは学術都市で大学や教育機関が多く、学者や研究者が住む町だ。私が買い付ける類の物も多い。陸路で旧都から来る際の中継都市である。そこに大きな薬局と薬科大学があるのでそこに用があったそうだ。
数ヶ月間はこのライフェンに滞在するつもりらしく、ここへは一週間ほど前にやって来たらしい。買い付けはしたか聞くと首を振る。薬草は豊富に手に入るがその他の物はそうたいしたものはないんじゃないかな、と男は言う。もしここを離れるなら港から北廻りでコールスカンプに船がでているので仕入れに行くのならそこがいいんじゃないかと情報をくれた。私もこのライフェンに寄らないならコールスカンプへは行くつもりだったので次の目的地はそこにしようかと思う。
そこでワゴンの奥から籠を抱えた同じ顔をした人物が現れた。私は思わず見比べてしまう。顔も同じなので見分けがつかない。「兄のローガンだ」と弟と同じ声で言った。兄弟で旅をしてまわっているそうだ。よく似ていると言うと、言われすぎてうんざりしているのだろう、「全然別人だよ」と二人は声を揃えて言った。二人が仲良く草原で薬草を集めている姿を想像するとかなりおかしかった。
「救済院に薬を届けてくる」
兄の方はそう言うとさっさと行ってしまった。私もまた来ると言ってテントを出た。




