魔法少女の夏休み 8
「お、やっと追いついたか」
ティーナは振り返り様に二人に声を掛けた。
「もうみんな早いよ」
「だって、ほらあれ、分かる?」
今度は少し先を指差して
「え、何?どこ?」
「ほら、よっく見な」
ジーアとグローはティーナの指差す方に視線を合わせる。すると
「え?あれって、もしかしてイルカの群れ?」
「そうなんだ、凄いよな。私も初めて見たよ」
「行ってみようよ、みんな」
ミアンは言いながらカードを展開した。
「どうしてカードなんか用意するの?」
「だってジーア、イルカってとっても頭がいいんだよ。もしかしたらあたしの魔法でお話が出来るかもって思って」
「なるほど。ミアンは面白いこと考えるよね。私達だって心で会話が出来るから、うん、やってみようよ。どう、みんな?」
「いいなそれ。私もイルカと会話が出来るなんてこの先無いだろうから」
「あたいも長い人生一度も経験したことない」
「で、グローは?」
「わたくしもいいと思います。ミアン魔法力は節約するように」
「分かってるって。ようしいくよ。お願いカード達。イルカさん達と会話させて」
カードはミアンの願いに答えるように菊の札四枚がドローされる。
「聞くと菊をかけてるのかな?まあいいや魔法発動っと」
四枚のカードは光って消えた。
「これでいいの?」
「もちのろんだよ。早く行ってみようよ」
「待って!」
「どうしたのグロー?」
「わたくし達がいきなり行って驚かれたら可哀想です。まずわたくしが行って話してみます」
グローの提案にミアンがすぐに反応して
「え〜ずるい。だったらあたしが行く。だってこれってあたしの魔法だよ」
「まあミアン、ここはグローに任せてみようよ」
「ジーアそんな。あたしが一番乗りがいいのに」
ミアンの思考は大体理解している。ジーアは分かりやすく、そして納得できるように話す。
「ミアンの水着って白じゃない。目立つしイルカ達だってビックリすると思うの。けどグローの水着って紺色でもしかしたら仲間かもって思われて警戒されないと思うの。だから、さ」
「ふうん。だったら私はどう?色だって目立たない」
「ティーナは駄目。絶対。黒って鮫っぽいから余計警戒されるかも」
「鮫?そんな風に見えるのか?」
「それじゃ決を取ろう。グローがいいと思う人、手を挙げて」
ジーアが言うとみんな手を挙げた。仕方ないって感じで。
だんだんこの役目にも慣れてきたジーアだった。
「グロー頼んだよ。オッケーだったら呼んでね」
「ジーア・・・その・・・ありがとう。いってきます」
グローはイルカの群れに向かってゆっくり静かに泳いで行った。
「ちぇ、おいしいとこ持ってかれたな」
「そう言わないのティーナ。グローがね言ってたよ。ティーナのショック療法が効いたかもって。だからさ、今グローはすっごく楽しいんだと思うの。分かってあげて」
「グローがそんなことを?わ〜ったよ。分かった。私の方が大人だからな。まったく手のかかるお嬢様だな。ミアンももういいよな」
「うん。それより魔法上手くいくよね」
「魔法は信じないと駄目だろ。その結果は待とうじゃないか。それよりミアンはイルカ食べたことある?」
ブーアの言葉に驚くミアン。だけじゃないティーナも大きく一歩引いた。
「え〜何それ?イルカを食べる?信じられない」
「あたいは食べたことあるよ。イルカだってクジラだって。昔の日本人は結構食べてたんだ。今だって売ってるとこあるよ」
「そう言えば私も小学生の頃何回か給食に出たことある」
ジーアも昔を思い出して言った。
「ジーアも食べてたの?」
「あ、クジラだけね。さすがにイルカはないけど」
このことを聞いたミアンは二人の前に立ちはだかって
「二人共。野蛮人だよ。そんなことよくできるね」
「じゃあさ、ミアンは牛や豚や鳥はどうなの?野蛮じゃないわけ?」
今度はブーアがミアンの正面に立つ。
「え?そんなこと考えたことないよ」
「そう。あたいだってそう思ってた。でもさそれは日本の文化なんだ。昔からの風習。だからそれに対して文句を言ったり意見するのは正しくない。だったら牛を食べることだって非難の対象になる」
「ブーアの話は難しいよ」
「難しく考えるから難しく思えるんだ。簡単なことだ。そういうことはただ受け入れればいい。それだけだ。そのことが出来ない人間がああでもない、こうでもないってムリクリこねくり回してややこしくしてるだけなんだ。本当にそのことが正しくないことならとっくの昔になくなってる。あたい達だってそうさ。別になりたいって思ったわけじゃなく魔法少女になった。あれこれ考えるよりやってみた方がよかったって思うだろ?嫌ならやめればいいし」
「魔法少女と一緒なわけ?」
ほとんどフリーズしかけているミアンに代わってティーナが話に入ってきた。
「私も食べたことないけどやっぱり牛や豚とは違うと思う」
「ははは。そうか、ないか。だったら今度クジラを肴に飲むか。これが意外と珍味でいいぞ」
「ほ、ほんとか?」
「ああ。今じゃ貴重品だからな。やっぱりティーナみたいな考えがだんだん浸透してきているんだな。その内ホントになくなってしまうかもな。けど忘れちゃいけない。そういう食文化があったってこと。それに日本にあるクジラは調査捕鯨で捕まえたものだ。それを無駄にせず食べることで浄化してるんだ。決して命を粗末にしているわけじゃない。そう思うと少しは分かってもらえるかな」
みんなの心にグローからの声が聞こえる。どうやら上手くいったようだ。
「やったね。上手くいったみたい。よかったねミアン。ん?ミアンたら、ねえ、ねえ」
「ミアンの奴、フリーズしてるのか?」
「しょうがないな。話が難しすぎたか」
ブーアはミアンに視線を合わせると諭すようにゆっくりと話す。
「ミアン、時代が変わればいろいろなものが変わっていく。だからミアンの気持ちだって分かる。何時かはそういう時代になる。あたいの言ったことはいつかは風化してしまう。けど事実は事実であったこと。その内教科書に載るかもな。
さあ、イルカのとこに行こう。ミアンの魔法ホント凄いよな。イルカと会話が出来るなんて、あたい達魔法少女になって良かったって心から思うよ」
「あ〜あ。ミアンの奴、ブーアに気を使わせちゃって。おいミアン、早く行かないと一番最後になっちゃうぞ。それでもいいのかな」
ティーナの言葉にハッと我に返ったミアン。
「あたしの魔法成功?」
「だからさっきからそう言ってる。私達、二番目の権利はミアンにあげようって決めてんだよ」
「あ、当たり前。だってあたしの魔法だもん。あたしが一番いっぱいイルカと話すんだから」
ミアンは颯爽とイルカの方に泳ぎ出した。それを見て三人は顔を見合わせた。
「やっぱり子供だな」
「あたいはただ知って欲しかっただけなんだ。けどこんなにショックを受けるとは思わなかったな。ミアンの気持ちもきっと正しいんだろうな」
「誰も間違っていないよ。それぞれ生きてる時間が違うだけ。ねえ、私達も行こう」
ジーア達もミアンの後を追った。
ジーアは思う。
人の生きている時間が少しだけ違うだけで人の価値観は地球と月よりも遠い距離になってしまうんだなぁって。
でも何時だって人はそうやって生きてきた。理解は難しいかもしれないけど気付くことは出来るかもしれない。歴史は繰り返すっていうことが何となく分かる気がする。
私も随分生きてきたと思う。ブーア程じゃないけど今はちょうど人生の折り返し地点ってところ。
この先の人生。私には一体何が待っているのだろう?
世間から見ればアラフォーなんてきっと展示会レベルに違いない。だったらブーアは?きっと博物館レベル。けどそれってやっぱり偏見なんだろうな。
だって私の人生は私が何時だって主役じゃないか。他の人だってきっとその人が主人公になるように人生を歩んでいるに違いない。
ならジーアは?魔法少女達は?
私は今二人分の人生を生きているように思う。私の人生の一部がジーアの人生になって、それからジーアの人生が私の一部になる。一体どっちが私の人生の正解なのだろう?
私は今が楽しい。とても。
自分が魔法少女になるなんて考えたこともなかった。偶然ってこういうことなんだ。
私は宝くじなんか全然当たらないし当たらない人生だと思っていた。平凡で一般的で、それが普通に幸せで。でもこの偶然によって私の人生は少しだけ引き上げられたように思う。戦いは何時だって命懸けだし仕事との両立だってしなきゃならない。けど、けど・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「おおいジーアったら」
ティーナの声でジーアは我に返った。
私・・・ぼんやりと考え込んでいた。
「ちょっとジーアどうした?ボーっとして」
「え?ああ、何でもないよティーナ。ちょっと考え事」
「考え事?それより」
ティーナの指す方を見るとジーアの目の前にイルカがいた。
「きゃあ。ビックリした」
イルカはちょっと困惑したように
「ごめんなさい。驚かせちゃった?」
「ああ・・・その、こっちこそ・・・ごめんなさい。ビックリしちゃって。初めまして私ジーアって言うの。よろしくねイルカさん」
「私の名前はラグ。よろしくねジーア」
「ラグ。え〜と、イルカさん達にも名前があるんだ、意外」
「何で?あなた達だって名前持ってるのに?私達だってこうやって集団で生きてるから名前が無いと不便じゃない」
「そっか、そうだよね。私が勝手にそう思っていただけ。ごめんなさい。変な勘違いしてて」
「ところであなた達って何なの?私達と話ができる人間がいるなんて」
「うん。私達は人間よ。けど魔法少女なの」
「魔法少女?」
「そう。私達は私達であってそうじゃない。私達は魔法少女の力を与えられた人間なの」
「なんだかよく分からないけど。人間には違いない」
「うん。ねえ、私ね。イルカさん達と話すの初めてなの」
「私だって人間と話すなんて初めてよ」
「これも魔法なの。ミアン凄いね。ほんとに話せるなんて。私達の方こそいきなり話かけてごめんなさい。びっくりしたでしょ?」
「まあね。私達だって人間の姿は見慣れてるけどやっぱり急に目の前に現れるとね」
ラグと名乗るイルカはジーアの周りをクルクルを廻り始めた。その様子をジーアはじっと見ていた。
やがてラグはジーアを導くように泳ぎ出す。ジーアはその後について泳いでいった。他の魔法少女達も同じように一カ所に向け集まり始めていた。
「お〜いジーア見て見て、凄いだろ」
ティーナはひときわ大きいイルカに股がっている。イルカは迷惑そうじゃなくむしろ楽しんでいるようだ。
「何かこういうアニメ、子供の頃見たことある。何だっけ?たしか・・・」
ジーアが思い出す前にティーナは通り過ぎて行ってしまう。グローはイルカの尻尾に掴まっているしブーアは並んで泳いでいる。ミアンに至ってはまた何かの魔法を使ったのだろうか。キラキラと泳いだ軌跡が海の中に煌めいて色添えていた。
「みんな楽しそう。良かった。ねえラグ、あなた達はこれからどこかに行くの?」
「ジーア達も一緒に行かない?」
「行くってどこに?」
「長のとこ」
「長?ねえ、長って何のこと?」
ジーアの言葉にラグも含めそこにいたイルカみんなが驚く。
「長を知らないの?この海の長を」
ジーア達も驚きの表情が隠せなかった。
グローが代表として前に出る。
「わたくし達がこうして魔法少女になったのも何かの縁。そしてたまたまこの海に遊びに来て、それからみなさんに会ったのも何かの縁。わたくし達もご一緒してよろしいのでしょうか?」
するとイルカの群れの一番奥から少し年老いたような白いイルカが顔を覗かせる。
「ワシがこの群れを束ねるガイアーンだ。今其方が申したようにこれが運命だとしたらワシらに拒む理由はありません。行きましょう、長の元に」
グローはガイアーンに一礼する。そして振り返り
「どうですか、みなさん。わたくし達も行ってみませんこと」
「行きたい、行きたい。長に会いたい」
「ミアンは何でもゴーゴーなんだな。私は行ってもいいぜ」
「人のことが言えるのか、ティーナ」
「だったらブーアはどうなのさ」
「そりゃあ、あたいも海の長に会ってみたいさ」
「あんただって人のこと言えないじゃん。で、ジーアは?」
ジーアはキョトンとしていた。
『長』って?
海の世界がどこか遠い世界みたいな気持ちになって放心していた。
「おい、しっかりしろって。ジーアったら、おい、おい」
「は!ティーナ・・・う、うん。私も・・行く」
「どうやら決まったようですね。わたくし達もご一緒させていただきます」
「じゃ、ジーア、私と一緒に行きましょう」
ラグはジーアの隣にやって来てニコッと笑った。イルカの笑顔なんてジーアは初めて見てちょっとビックリした。
「ね、ねえラグ」
「なあに?」
「気を悪くしたら謝るけど、私どうしても聞きたいの」
「だから何を?」
「イルカさん達って笑うの?」
ジーアの質問にラグは正面を向いて
「私達を何だと思ってるの?私達だって感情くらいあるわ。笑うことだってあれば怒ることだって泣くことだってある。だから人間に仲間を連れて行かれた時は結構しんどいんだ。だってあなた達人間って魚もそうだけど私達イルカだって・・その・・・食べたりするんでしょ?それだけじゃなく生きたまま捕まえて水族館ってところで死ぬまで出れない」
そのことを聞いてジーアは言葉に詰まる。だってラグの言ってることって本当のことだから。
「でもさ、それって私やガイアーンが生まれる前から続いていることでしょ。そういう歴史には逆らえない。もちろん私達だって生きる為に魚を捕って食べてるんだし。だからさ私達は、ううん、この地球で生きてるものみんな生きることに関しては平等なの。ねえジーア、私は別にそのことに対して非難したいわけじゃないの。私の言いたいこと分かるかな」
「ラグ達って知ってるんだね、そういうこと」
「もちろん。だからと言って人間に仕返ししようなんてこれぽっちも思ってないから。私達は自然の摂理と運命によって生きてる。だからもし私が人間に掴まってもしょうがないことなの」
ジーアはまた考えてしまう。だったら魔法少女って一体なんなの?彼女達もこの地球が生んだっていうの?それが自然の摂理なの?ジーア、あなたは何の為に魔法少女として生まれたの?こんなこと考えるのって、私、何か間違ってるかな?
「ジーア?どうした?さっきから変だよ」
「・・・ティーナ・・・私さ、よく分からないんだ」
「何が?ジーアがそういうこと言うのって珍しいけど」
「生きることって何なの?幾ら長生きしたって結局は死んじゃうんだよ。私達は何時か死んじゃうの。ずっとは生きていることはできないの。でもでも生きてるからにはみんな一生懸命生きるの。私だって、もちろんラグ達だって、ティーナもグローもミアンもブーアも。ねえ、何で?何で生きてるの。生きる意味を教えてよ、ねえティーナ、ねえったら」
「お、おいジーアしっかりしろって。どうしたんだよ急に」
「私・・・私・・・何で魔法少女になんてなっちゃったの?本当なら今頃は会社にいて、それで家に帰ってご飯食べて、お風呂入ってそれから寝るの。そして朝が来たらまた同じことの繰り返し。それが当たり前で普通だった。けど、けど、だったらジーアは?魔法少女達はどうなの?彼女達は私達の身体を依り代にしてドリーチェと戦う。けどそれに一体何の意味があるの?私だって死んだらドリーチェになってしまうかもしれないのに」
ジーアは自分でも何を言ってるのか分からなくなってしまう程混乱していた。考えれば考える程答えはどんどん遠くにいってしまうような気がする。答えをなくさないうちに、見失わないうちにジーアはどうしてもその答えを欲しかった。
「ティーナ代わって」
ブーアはそのままジーアを抱きかかえた。
もうわけが分からなくなって勝手に涙が溢れ始めた。それは酸素の玉をすり抜け遥か海面に向かってにキラキラ光る玉になって飛んでいく。その涙の粒達はあまりにもきれいだった。まるでジーアの心のように。
「・・・・ブーア・・私・・・私・・・何で・・・何でこんな・・・」
「いいから喋るな。じっと目を閉じてるんだ。ジーアの言いたいこと何となく分かる。けどそれは答えがないことなんだ。きっとジーアはこの青い世界に少し酔ったんだ。だから目を閉じて落ち着くんだ。呼吸を整えて、それからゆっくり、そうだ。なんでもいい。数でも数えようか。分かったかいジーア。いい子だからさ言う通りにしてくれ」
ジーアは言われた通り目を閉じる。真っ暗な視界には何も映らない。
「・・・うん・・・私、長に会いたい」
ジーアは全てを預けて真っ暗な世界に自分を溶かし込んでいった。
なんかスピンオフ的な展開になっていますね。
読んでいただきありがとうございます。
思ったより長くなっていて申し訳ないです。
私の指は止まることなくキーボードを叩き続けます。
話はもっと深く海の中に潜っていきます。
これも妄想の結果でしょうか?
次も立ち寄っていただきたいです。
みんなで『長』に会いに行きましょう。




