初めまして魔法少女です 4
マルヴを片手に私達の方を見ている。なんとなくだけど笑みが浮かんでいるみたい。
「誰だあれ?・・・仲間じゃないよな」
ティーナがそう呟く。他の魔法少女だって分かっている。絶対に違う、と。
「初めまして魔法少女達。我が名はシャハト。私はドリーチェです。間違っても魔法少女ではありません。以後お見知りおきお願いします」
とても静かに穏やかな声で話す。
「何と言ったら、そうそう、むやみやたらと我々の仲間を殺さないでください。可哀想に、ほら粉々」
左手にあったマルヴは粉々になって消えてゆく。
「うそ・・・言葉を喋るドリーチェがいるなんて・・・そんなの聞いてない」
ジーアは全身から冷や汗が出るのを感じる。こいつはいつもとは違う。確実に違う。そう感じないわけにはいかなかった。多分みんなも同じことを感じているだろう。
魔法少女達は何時しか一カ所に集結していた。ブーアに抱えられたミアンは今も気を失ったままだ。グローもティーナも相手のことを瞬きもせずにじっと見ている。二人共緊張で顔が強ばっている。ジーアは眼鏡の位置を直し改めてドリーチェを見る。
静けさがこんなに怖いと感じたことは今までなかった。
シャハトと名乗るドリーチェは男なのか女なのかははっきり分からない位中性的な雰囲気を持っている。そもそもドリーチェ自体に性別があるかどうかさえ不明なのだ。ただ、薄らと笑っている顔には気品さえ漂っている。大きな二重まぶたで瞳は緑色に光を放っている。髪は紫で身長くらいあって体全体を覆う黒いマントのせいで中にどんな服を着ているか分からなかった。おまけに声はとても透き通っている。
私達は誰も言葉を発することができない。頭の中がいろんな思惑が渦巻いている。それを察したかのようにドリーチェは言葉を口にする。
「ふふふ。知らなかったでしょ。私達のようなドリーチェがいること。本当の戦いはこれから。今までは前哨戦にすぎない」
言っていることの意味を理解しようとしても理解の域を超えている。それでもグローはリーダーという立場から
「前哨戦ですって?一体どういうことです?」
少しだけ震えている声でグローが聞き返した。
「ふふふ、ふふふ、あはは、ははは」
私達と会話したいのかしたくないのか、そんなことすら関係ないみたいに笑い出す。
「急にどうしたんだ?」
突然の大笑いにティーナがジーアに聞いた。そんなことジーアにも分かるはずもなかった。
笑い声しか音がない。それはこの世界全体に響き渡っているみたいに聞こえる。
「あはは、あ〜可笑しい。やっとこの現実世界に来ることができたわ。素敵よ。素敵過ぎる。いい世界ね。あはははははは・・・あ〜気持ちいい」
攻撃もない。ただ笑っているだけのドリーチェにティーナの緊張が緩くなる。
「さっきから何言ってんだあいつ?」
言いながらみんなより一歩前に出る。
「油断しちゃ駄目だって」
「だけどなぁジーア、あいつ戦う気あるのか?話せるんなら・・・・」
言い終わるのを待つことなくティーナの体は思いっきり飛ばされた。誰にもその瞬間は分からなかった。
みんなよりずっと後方まで弾かれているティーナ自身も何が起こったかなんて分からなかった。
「ティーナ!平気なの?」
ジーアはドリーチェを見る。けれどシャハトはそこから少しも動いていない。
「どうやって?」
「・・・・いつつ・・・やってくれるじゃん。油断したわ。こいつの攻撃、見えなかった」
口元には薄ら血が滲んでいた。その血を拭うとティーナは全身を炎に包む。青い炎が眩しい。
「駄目だよ!落ち着いて!」
ジーアの言葉が届く前にティーナは突っ込んでゆく。
「お返しだ!こいつでくたばっちまいなよ!」
攻撃は相手には届かない。寸でのところで弾かれてしまいティーナは再び弾き飛ばされた。
「・・うそ・・だろ・・・・」
そのまま海に落ちていってしまった。
「ティーナ!」
「ジーア、あたいに任せな」
ミアンをジーアに預けて救出に向かう。残された魔法少女達はその場から動くこともできずにいる。
「あなた達が驚いていることは分かったわ。でも少し落ち着きましょうね。今日は挨拶に来ただけよ。まだ完全じゃないの。そろそろタイムリミットです。またお会いしましょう魔法少女さん達。じゃあね、バイバイ」
シャハトの頭上に黒く渦巻く空間が口を開けると、吸い込まれるよう消えていってしまった。
「ま、待ちなさい!」
グローの言葉がその場に空しく響く。それでもいなくなったことで少し安心したのだろう。彼女の周りにあった氷の矢は元の海水に戻って雨のように海面に降り注いだ。その音がいやに大きく聞こえる。やがてブーアがティーナも抱えて戻ってきた。
「ジーア、あいつは?」
「・・・消えた。本当の戦い?何のこと?・・・二人は大丈夫?」
「ああ、どっちも怪我はしていない。気を失っているだけ。ほら目を覚ますんだ。帰るぞ」
ブーアが体を揺すると二人とも意識が戻ってきた。
ティーナは意識が戻るなり目の前にいるブーアに
「あいつはどこだ?」
「元気ならそれでいい。もういない」
「なんだと・・・今度会ったら・・・くそ、悔しい過ぎる・・あ〜イライラするぜ」
毛先からは小さな炎がチラチラと揺れている。
まだ好戦的なティーナの前にグローは立ちはだかって
「大体相手のことよく知りもしないで。無謀なこと」
その言葉にはどこか八つ当たりのように聞こえる。毛先の炎が大きくなって
「何だって?何も出来なかった奴に言われたくないんだよ」
「わたくしはあなたと違うの。何も出来なかったのではなく相手を見極めていたのよ」
また二人の間には火花がバリバリと散る。どっちも相手に八つ当たりをし始めている。
「へえぇ、だったら見極められたの?え?どうなのリーダーさん!」
ティーナの言葉にすぐに返せない。グローはただ相手の顔を見るしかない。ジーアはブーアに助け舟をお願いする前にブーアの方が動く。
「また。ほらやめないか。みんな混乱しているんだ。ここで二人が喧嘩して何になる。八つ当たりしたい気持ちは分かるがそんなことしても何の解決にもならないんだ。だから落ち着くんだ。お互いの魔法を鞘に納めるんだ」
ブーアに促されてグローもティーナも黙った。黙るしかなかった。解決ができるならこんなことになっていない。分かっているのにお互い視線を離さなかった。
ジーアは胸を撫で下ろして今度は
「大丈夫ミアン、起きて」
軽く揺するとやっと目を開けた。
「・・・あれ・・あたし・・ジーア?・・・」
「どう?自分で飛べそう?」
ミアンはジーアから離れて空に体を馴染ませて
「うん平気。・・・あ〜海水で髪がゴワゴワ・・・お風呂入りたいなぁ」
「それだけ喋れれば大丈夫ね。みんな、そろそろ時間が動き出すわ。いい?」
「・・・・そう。・・・・じゃあやりましょうか」グローが言う。
いつものように輪になって手を繋ぐ。しかしいつもと違ってみんな少しぎこちなかった。特にグローとティーナはお互いソッポを向いたままだった。
「全てを元通りに!」
ジーアが声を発すると魔法少女達の体は連動しているみたいそれぞれがそれぞれの色に光を帯びてくる。
「スラーン!!!」
みんな一斉に同じ呪文を唱える。体に帯びていた光は世界を包み込むかのように外に向かって放たれる。
戦いの後はいつもこうやって全てを元通りにする。
ドリーチェによって壊された建物や土地や木々はもちろんのこと、ドリーチェによって怪我したり死んでしまった人だってドリーチェが現れる前の世界になっている。
しかも人々からはその時の記憶すらなくなってしまう。とても都合がいいといえばいい。知らない方がいいことだってある。
けど私達魔法少女は違う。記憶は残るし、体力だって消耗している。怪我は治せるけど、疲れは取れない。おまけに死んだら終わり。魔法で生き返るなんてこと出来ない。なんか他の人より倍生きているみたいに感じる。
『カチ』っと音がして再び時が動き出す。全ては元通り。
人々は相変わらず自分達の生活に追われている。誰もこんなところで訳の分からないものとの戦いがあったなんて知りもしない。私達が世界を守ってるって知らないし別に感謝されたいわけじゃない。
けど今日はなんか違う。この胸のモヤモヤ感は何だろう。
『私だって何も出来なかった』ジーアはそう思うと握るステッキに力が入る。きっとみんなも同じだと思う。
私達本当に戦う事に意味があるの?
私・・・いや、僕はどうして魔法少女なんかになってしまったのだろう。
読んでいただきありがとうございます。
一応一週間経って自分のペースが見えてきたように思います。
これからは火曜と金曜にアップすることにしました。『かーかきんきん』って年齢がバレますね。
次もまたよろしくお願いします。




