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僕は魔法少女に変身する  作者: マナマナ


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37/42

魔法少女の夏休み 3

 早朝だというのに海老名サービスエリアの駐車場は大型トラックで大混雑している。


 その混雑の中。水無月家の真っ黒なリムジンは無口な鯨のように静かに隙間を縫って進んで行く。


「うひゃ〜なんだこれ、トラックだらけじゃん。どっか空いてる?」

「九様。ご安心ください。裏手にVIP専用の駐車場があります。あまり知られていませんけど」

 運転手春日さんは上品な『じい』的微笑みを浮かべている。

「ほ〜。なるほど。そんなのあるんだ」

「このことは内緒にしておいてください」

「春日さん、こう言っちゃなんですけど。そんなの私が言ったところで都市伝説くらいにしか聞こえないでしょ」

「ははは。それもそうですな」

 瑠璃さんの言葉に春日さんは同意するように答えた。

「そこ笑うところ?どうせ庶民ですよ私は」

「元気だな瑠璃さんは。今からそんなテンションだと着いたころには疲れてるんじゃないか?」

 僕の心配を余所に瑠璃さんは右手の人差し指で、チッチとジェスチャーして

「仁さんと一緒にしないでよ。私は華の二十代前半なんだけど」

 瑠璃さんは『前半』を強調する・・・・・・僕にはただただ遠くに感じてしまう。


「そうだろうけど・・・・・・これが若さか。その若さ懐かしいよ。信じられないだろうけどさ、僕もかつては二十代前半だったことがあるんだ。もう遠いけど」

 僕も瑠璃さんを見習って『前半』を強調して言った。

「ねえ仁さん」

「何かな?」

「頭、オーバーヒート起こしてんじゃない?私のことより自分の心配したらどうなの。さ、着いたよ。ほら早く降りて」

 促されて車を降りると都内とは違う匂いがする。反射的に軽く身体を伸ばして大きく深呼吸すると朝の空気がいつも以上に清々しく感じた。


「ん〜、気持ちいい〜。どう、少しは頭冷えた?」

 隣りでは瑠璃さんが同じように深呼吸していた。

「そうだね。確かに。こんな気持ちいいの久し振りだよ」

 家族への後ろ暗さがあるけど思わず本音が出た。なかなか悪くないじゃないか。


「さ、みなさまこちらからどうぞ」


 僕たちは春日さんに案内された場所はとても落ち着いた個室だった。(個室とは思えない広さ)

 ここもVIP専用というやつなのだろうか。


 高い天井に天窓。そこから差し込む光達。耳をこらさないと分からないくらいの静かで優しい音楽。

 花瓶には夏の花が盛られ麗しい香が鼻をくすぐる。

 それに真っ白なクロスに覆われた大きなテーブル。座り心地のとても良い椅子に言われるまま座ると同時に今度は反対側のドアが開いて次々と料理が運ばれてくる。

 焼きたてのパンの匂いが食欲をかき立てる。目の前で絞るオレンジジュースは輝いて見える。


「水無月家専用ブレックファーストです」

 あまりのことにさすがの瑠璃さんも開いた口が塞がらない。僕も思わず息を飲む。

「さ、みなさん遠慮なく。エッグベネディクトはお勧めですよ」


「有栖。あのさ」

「どうしました神谷さん」

「高いんじゃないのか?・・・・その・・なんだ・・」

 僕が何を言おうとしているのか理解している。やっぱり感と頭が良い。

「お金のことなら心配しないでください。今回はわたくし。水無月に任せてください。最高のおもてなしをさせていただきます」

 有栖はまたまたお得意のお嬢様的上品な笑みをする。僕の脇の下には汗が滲む。

「おもてなしって・・・そんな・・・」

「私は初めっからそのつもり!このエッグベネディクト最高!おっいしい!」

「あのな瑠璃さん。そうもいかないだろ。有栖、後で言ってくれ。大人としてちゃんとしないと社会人として・・・・・あ?」


 言ってるそばから鏡一郎がいきなり変身した。


「ば、馬鹿!何やってんだよ。何で変身したんだ」

「だって、ミアンが変身しろって。だから」

 何の屈託もない笑顔で答える。おまけにいつもの銀色のエフェクトが眩しい。

「だからって・・・春日さんがいるんだぞ」

 僕は春日さんを見る。驚くどころかとても落ち着いてただ優しく微笑んでいる。

「ワタクシのことなら気にしないでください。お嬢様から全て聞いております。他言無用。それでよろしいでしょうか?」

「お。それいいな。私も変身。それ!」

 瑠璃さんは右手の人差し指の指輪に触れる。髪が炎のように燃え上がった次の瞬間、そこにはティーナの姿が現れる。

「瑠璃さん!一体何考えてんの。魔法力節約するんじゃなかったのか」

 ここにも屈託のない笑顔がある。みんな浮かれている。魔法少女をこんなお遊びに使っていいのか?

「大丈夫だって。変身したって魔法を使わなければ減らないって」


 僕の目の前には既に二人の魔法少女が並んでエッグベネディクトを食べている。


「だってこれって魔法少女としての旅行だろ。こっちの方が自然じゃん。だからみんなも変身してこれからは魔法少女として行動しよう」

「それもまたこの旅の一興ですね。ならわたしくも。お食事中に無作法ですけど失礼」

 有栖は軽く口元を拭くと胸のブローチに触れる。

 グローの変身はあまりにも可憐だ。水のように透き通った青い光が花びらのように有栖の身体を包み込む。そして花弁が開くとグローの姿が現れる。つい見入ってしまった。

 

「今度は有栖か・・・・どわ!くまさん、いつの間に?」

「あとは仁さんだけだな。『郷に入れば郷に従え』って言うだろ」

「・・・・・・くまさん・・・いや、ブーアって意外とノリがいいんですね。・・・分かりました。変身します。それでいいんですね」


 今はこの流れに流されるしかない。

 仕方なく僕はポケットからステッキを出し軽く振る。縮まっていたステッキは元の大きさに戻る。

 僕はいつものように思いを込めて振りかざす。


 ピンクの光が僕を取り巻き弾ける。変身は瞬きする間もなく完了。眼鏡を軽く押さえて

「ふう。これでいいんでしょ。さ、ご飯食べよっと」

「やっと普段通りになったな。やっぱ私達ってこの姿でいる方が自然だな」

 ティーナは満足そうに食事を続けている。

「まったく。全部ミアンのせいだからね。(パク) ん。ホント美味しい。このソースに半熟たまご。それにベーコンの塩気が丁度いい。マフィンも表面カリカリなのに中はモッチリ。私初めて食べた」


「らにらに?なんれあたしのへいなの?」

「ミアン頬張り過ぎ。あんたが行こうって言い出さなきゃこんなことにならなかったんだから」

「まだ吹っ切れてないのか?案外執念深いんだな。それとジーアも人のこといえないな、ほら、ここ、味付いてる」

 ティーナはおしぼりでジーアのホッペに付いたソースを拭いてやった。

「あ、ありがとうティーナ。・・・だって一言くらいなんか言わなきゃ腹の虫が収まらないっていうか」

「それで?収まったのかしら?」

 グローは口元を拭いてジーアのことを見る。みんなの視線はジーアに向いていた。ジーアは順番に見て

「グロー・・・ティーナ・・・ミアン・・・ブーア・・・みんな・・・分かったわ。もうこうなったら楽しむ。楽しむことに全力出す。あっ、このオレンジジュース美味しい。てへ♡」

 ジーアはオレンジジュースを一口飲んでニッコリする。それを見てみんなも笑顔になる。


「そうそう。やればできるじゃん。あ〜お腹いっぱい!ごちそうさま」

「ティーナ早いな。そんなにお腹空いてた?」

「もうペコペコだったの。っていうかブーア、あんた朝食べたんじゃなかったっけ?」

「ブーアはたくさん食べるんだ。うんうん、こんなハイカラな朝食初めてだ、うまい!」

「皆さんに気に入っていただいたみたいでなによりです。今から食後の紅茶をお出ししますわ」

「それよりさ、散歩行ってもいい?」

 ミアンはオレンジジュースをイッキ飲みして立ち上がった。

「散歩って、その格好で?」

 ジーアは怪訝そうに言う。

「うん。何か変?」

「そうだな腹も満たされたことだし。よし私も行きたい。じゃあ一緒にいこうぜ」

「ティーナもなの?この格好。サービスエリアで浮きまくると思うけど」

「何言ってんのよジーア。さっきも言ったじゃん、これが私達にとって自然だって」

「そうだけど・・・・まあそういうものなのかな」

 ジーアは残りのエッグベネディクトを頬張った。

「あまり遠くには行かないなら許可します」

「分かってるってグロー。軽くその辺一回りしたら帰ってくる」

「そ、なら分かりました。けどあなた達面倒なことは起こさないでね。春日」

「ではティーナさま、ミアンさまこちらからどうぞ」

「いってきま〜す」

 ミアンとティーナは運転手春日の案内で行ってしまった。入れ替わりにジーア達の前には入れ立て熱々の紅茶が置かれる。フウフウして一口。アールグレイかな?とジーアは思う。


「やれやれ、うるさい二人が行ってしまいましたね」


 グローも紅茶を一口。その味に納得したように軽く頷く。ブーアは一息で飲み干しそれから今度は緑茶をリクエストした。

「それよりグローってこのこと春日さんに話してたんだ」

「最初の頃にね。グローも特に秘密にしろなんて言ってなかったし。それにわたくし自身の事を考えると家の中に一人くらい協力者がいてもいいと思ったから」

「なるほど。だから新宿で顔を合わせた時も自然に対応してくれたんだ。そのことがちょっと不思議に思ってたんだ」

「春日はわたくしが生まれる前から水無月家にいます。信用出来る一人です」

「それ聞いて安心した」

 ジーアは口元を拭き、グローの方を向きあらたまって

「ごちそうさま。ありがとうグロー。ねえ、私達も食べ終わったんだから少し歩かない?明るい時に変身したのって初めてだから」

 ブーアも立ち上がり体力が余っているように身体を伸ばす。

「確かに。いつも夜だったし、それにドリーチェがいないのに変身しようとは思わなかった。グロー。礼を言う。ほんと美味かった、ありがとう」

 グローは有栖の時とは違う上品な笑顔で

「構いませんことよ。そうですね・・・わたくしたちも行きましょう。あの二人何してるか分かったものじゃありませんし」

 グローは虫の知らせでも感じ取ったのか席から立ち上がる。ジーアもその意見に賛成の意味を込めて立ち上がった。

「ホント。調子に乗って魔法なんて使ってたら大変よ。けど何かワクワクするね」

「ワクワクは分かります。でも羽目を外すのは論外です。品がありませんから」

「なら急ごう。あの二人なら十分あり得ることだからな」

 

 グロー、ジーア、ブーアの三人が太陽の下並んで歩く姿は当然世間の視線を集めていた。

進化が止まらないサービスエリア。

読んでいただきありがとうございます。

これはもうテーマパークと言ってもいいのでは?

道の駅だって負けていませんよ。

日本はどこに行ってもワクワクがいっぱいです。

みんなで造って、みんなで育てた世界です。

明日も笑顔になるために生きている。そんな人生でありたいな。

次はもっと楽しくなるよう物語を紡ぎます。また金曜日にお会いしましょう。

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