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僕は魔法少女に変身する  作者: マナマナ


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魔法少女の夏休み 2

 翌日早朝。

 やはり夏は日の入りが早い。僕が起きた時にはすでに青空が広がっていた。

 ふと机を見ると昨夜買った水着の袋が置いてある。


 僕の心とはウラハラに絶好の海水浴日和だ。正直この青空が憎らしい。今ならどんな土砂降りだって許せる。荒天だったら僕は両手を上げて大喜びだった。みんなには悪いけど。


 だがしかし。軽く溜息。


 天気のことはもういい。仕方ない。神様の知り合いなんていないんだ。

 ここからが現実で切実なのだ。僕にはやらなくてはならないことがある。ああ。頭がいたい。

 

 さてさて。

 対策として一応いろいろ考えてあるが・・・


 女性って・・・時として恐ろしく勘の鋭い時がある。

 なのに、本当にこっちが気付いて欲しい時には思いっきり鈍感な時もある。


 果たして今日の妻はどっちだ。

 僕は普段通りにすること。これが疑いの目を避ける僕の盾だ。平常心を忘れるな。神谷仁。


 空に向かって大きく深呼吸・・・・・・・


「いくか」

 誰よりも早く起きたのは自身の体勢を整える必要があったから。

 今一度精神統一をして静かにリビングに向かった。


 はずなのに・・・・・・なんで?起きている?

 ドアの向こう側から人の気配とお湯の湧く匂いがする。


 すでに異変を察知しての行動なのか?それとも必要があってのことなのか。

 今の僕には判断ができない。とにかく落ち着くんだ。まずは状況の把握だ。


「あら今日は早いのね」

 妻はいつものように笑顔とエプロン姿で迎えてくれた。本来ならあと30分はベッドの中なのに。朝食の支度にしたって早い。もしかして娘関連で早いとか?


 ・・・いつもの笑顔が今は違和感を感じるのは何故だ?

 

「ああ、おはよう。そっちも早いね。まだ五時前だよ」

 平常心を装いつつ頭の中をフル回転させて自分自身の心の状態をチェックする。


 心拍数正常。OK。呼吸乱れてない正常。OK。視線泳いでない正常。OK。オールクリア。大丈夫だ。


「ねえ、コーヒーでも飲む?」

「ああ、いいねぇ。ありがとう。頼むよ」

 妻は僕の顔をじっと見て、それからコーヒーを作り始める。

 

 今の視線。僕の何を確認した?やはり何かを感じ取っている。まずいな。


 僕は『顔を洗う』と告げてこの場から一旦退散することにした。

 朝一でカウンターを喰らった気分だ。体勢を立て直す必要がある。


 慌てないようにリビングを出て洗面台に向かおうとした時、背中に声が掛かる。


「ねえ」

「な、何?」

 い、いかん。急なことで、こ、声が裏返った。落ち着け。こっちには考えられるだけの策があるんだ。

 でも。今は振り返ってはならない・・・い、いかん・・目が泳いでいるのが自分でも分かる。


「仕事忙しいの?」

「ああ。忙しいのはいつものことだけど」

「ふ〜ん。今日は早く帰ってくるとか?」

「帰り。なんで?」

「そうよ。だって今日は早く行くんでしょ。だったら夕飯はみんなで食べるのかと思って」

「た・・多分。れ、連絡する。顔、洗ってくる」


 状況は未だ不明だ。ここは一旦退散して正解だ。

 洗面所の鏡を見ながらこれまでのやり取りを振り返る。

 特に不振な点はない、と思う。無事普段通りのはずだ。


 妻は今のところ何かに気付いている様子は見受けられない。しかし油断は禁物。

 ちょっとした変化が『女の勘』を発動させてしまう。気を引き締めてからの再出陣。


「コーヒー出来たわよ」

「いい匂いだ。ありがとう」

 一口飲む。正直味なんてよく分からないが話を切り出そうとした時、先に口火を切ったのは妻だった。

「ちょっと聞きたいんだけど」

 予想外の展開に心拍数が変動を始めた。

「・・・聞きたいことって?」

「最近あんまり話してないでしょ」

「う、うん。そう・・・だね」

「今朝だってこんなに早く起きるなんて知らなかったし」

 まずい。この展開は非常にまずい。一体どこでヘマをした?


「そ、それは、もう寝てたから」

「で?今日はどこに行くの?」

「ど、どこって・・・仕事に決まってるじゃないか」

「だったらこれは何かしら」

 妻が僕の前に置いたのは・・・なんと!!!

 水着の入った袋だった。

 何故?いつの間に?いつ僕の部屋に?朝起きた時は確かに机の上にあったのに?


 なんだかキツネにつままれている気分がする。僕は今、確実に間違いなく起きているのに・・・


「随分、変わった物が入ってるけど。これって何なのかしら?」

「開けて・・・見たのか?」

 自分が何を喋っているのかさえよく分からないくらい混乱という津波が始まっている。

「ごめんね。そんなつもりじゃなかったの。つい、見えたのよ」

 いつ見られた?全然分からない。

 何で机の上に出しっぱなしにしたんだ。自分で自分を責めた。でも見つかったのが水着の方でよかった。ステッキだったらかなり困ったからな。・・・ってホントか?


「なんか言ったらどうなの?それともこれって私か綾のなの?どっちにしてもサイズがあってないけど。早く言って。もう少ししたら綾が起きてくるから」

「そ、それは・・・(心臓の加速が止まらない)」

 落ち着くんだ。大丈夫、まだ軌道修正を計れる。想定外パターン其の二だ。それを実行すればいいだけのこと。

 いっくぞ、其の二。GO。


「実は今日は仕事と言っても研修なんだ」

「これってその研修に必要な物なの?」

「違うよ。そうじゃなくて、今言うけど伊豆の方まで行くんだ。そしたら社員の若い子達が時間があったら泳ごうってなってな」

「じゃあ何。これはあなたが着るの?」

「そう。(首が千切れるほど振る)・・・じゃなくて、忘れ物なんだ。だから持っていってやろうとして・・・」

「なんであなたが忘れ物持ってるのよ」

「(頭から湯気が出そうだ)・・・だ、だから、昨夜・・・僕は最後だったんだ。そしたら電話がかかってきて、机に忘れたから持ってきて欲しいって頼まれたんだ」

「ふ〜ん。いつになく喋るのね。珍しい」

「ち、違うよ。状況を説明しているだけだろ」

「で、その研修とやらは何時終わるの?」

「何時って?今日には帰ってくる。変なこと考えるなよ」

「変なのはそっちでしょ。こそこそして」


 心の中を見透かされている。でもこっちにも意地がある。白旗なんて簡単に上げてなるものか。

 神谷仁。もっとドンと構えて堂々と話すんだ・・・しかし、話せば話すほど深みにハマってゆくのは気のせい・・・ではなさそう・・・


「こそこそなんてしてない。お、そろそろ出ないと。お土産、何がいい?」

「お土産?買ってくるの?」

「もちろんさ。折角伊豆まで行くんだ」

「そんな時間があるんだ」

「どういうことだよ。さっきから研修って言ってるだろ」

「もう出るんでしょ。帰ってきてからまた話しましょ。大体、あなた、最近変なのよ。帰ってきてもずっと部屋に籠りっきりだし。独り言が多いし、鏡だってよく見てるし」

「それは仕事で疲れてるからだよ」

「仕事に疲れると男の人って鏡をよく見るものかしら」

「そ、それは・・・」

 意外と見られていることを実感する。見守ってくれていると思った方がありがたいが、こんな時は結構な火種となる。

 罪悪感という重しが心の中で積み重なってゆく。だから嫌だったんだ。

 

 でもそれは僕であってジーアではない。

 それに決めたのは僕だ。家族には感謝しているしジーアにだって感謝している。そんな板挟み状態でも乗りかかった舟を途中で降りるわけにはいかない。白旗濃厚だがもう一度話せば分かってもらえる・・・いや分かってもらいたい。だから僕は引かない。


「それは・・・最近白髪が増えたなって。気になって見てるだけだよ」

「そ。もう時間でしょ。引き止めちゃってごめんなさい。いってらっしゃい」

 妻は洗面所に消えて行った。僕は深く後悔と安堵の溜息をついて急いで着替えをして家を出た。


 まったく。あらぬ誤解をさせてしまったこと。妻に嘘をついたことで罪悪感が一杯だった。

 駅までの道が重く長く感じるのに微かに解放的な気分がしているのはなぜだろう。  


         *************


「あはは、そんなことあったんだ。大変だな家庭持ちは」

 大笑いしているのは瑠璃さんだ。笑い声が車内に響く。車は東京インターから高速に乗ったばかりだった。

「・・・朝から疲れたよ。女の人って頭の中で何考えてんのかな」

「昔から『女の心は海よりも深い』って言われての。男には理解出来んもんと決まっておる。だかな、大丈夫。帰ってちゃんと話せば分かってもらえるって」

「そんなもんですかね。まあ、くまさんが言うなら信じてみます。・・・・・・・はあ〜」

 僕は窓からどんどん流れていく景色を見て今日が夏であることをあらためて恨んだ。

「なあ。これから楽しくしようよ。暗い顔するなって」

「・・・あのな瑠璃さん。僕はこれからもう一つ嘘をつかないとならないんだ」

「何それ?誰に?」

「会社だよ、会社。だから嫌だって言ったんだ」

「そんなの電話一本で済むんでしょ?」

「そうだけど・・・気が重いんだよ」

「もうここまで来たんだからさ、いい加減、気持ち切り替えなって。見てみなよこの車。こんなリムジンこれからだって乗れるかどうか分からないんだよ」

「・・・まあ・・・しっかし凄いよな。新宿駅にこれが到着して、みんなの視線が・・・・」

「なあ。私達何者だって目で見てて。それがおかしかった」

「ワシはビックリして腰が抜けそうだった」

「あはは、くまちゃん、分かるそれ。それにしてもホント凄いよ。ねえ、お嬢様」

 前席にいた有栖が少しだけ振り返ってお嬢様的上品な笑顔をする。

「気に入ってもらえてよかったです。ところでみなさんお腹空きませんか?」

「そういや早かったから朝食べてない」

「僕もコーヒーしか飲んでない」

「くまおばあさまはどうですか?」

「ワシは畑やってから食べたよ。気にせんでええよ」

「畑?くまさんは元気ですね」

「ほっほっほっ。これも健康を保つ秘訣だ。仁さんも気を抜くとあっという間だ。なんせいい歳した中年だからな」

 車内に笑い声が響く。僕は中年に違わないけど少し傷付く。有栖もくすくすと上品に笑って、

「鏡一郎君は?」

「・・・・・・」

「鏡一郎、って寝てんのか。どうりで静かだと思った。おい、起きろ」

「・・・ん・・なに・・・・朝ご飯?」

「どうやら腹は減ってるみたいだな。そうだ、朝ご飯だ」

 僕は鏡一郎を起こした。が、まだうとうとしている。

 有栖は上品ににっこり笑顔で

「次のサービスエリアで朝ご飯と休憩にしましょう。春日。お願いね」

 運転手は春日と言う。

「かしこまりました」

 ゆったりと運転を続けている。

 年齢はくまさんよりは若いのだろうけど『じい』と呼ばれるにはとても相応しそうに見える年齢だ。

 春日さんの手には真っ白な手袋。ウインカーを出すと車線をスムーズに変えてゆく。


 僕はもう一度窓からの景色を見てみる。

 夏。

 でも不思議だ。さっきよりは憎らしく思えない自分がいることに気がついた。

今年の夏は伊豆下田に行くぞ。

読んでいただきありがとうございます。

実は下田にはよく行きます。オススメのビーチは・・・秘密です。

とても澄んでいてシュノーケリングなんかも楽しめます。

ちょっとシーズンをずらせばバーベキューもありです。

そんな伊豆計画はすでに仲間内で始まっています。←気が早過ぎ。

今回は私の実体験もかなり組み込んでいます。

さあ。春もまだだけど夏を楽しみましょう。

次回も立ち寄ってもらえたら嬉しいです。よろしくお願いします。

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