仲間だから 10
ティーナが言い終わる前に相手の言葉で遮られる。
「シャハトのマルヴ返してもらいました。だから言ったのに。魔法少女は侮れないって。こんな姿になって情けない」
ジーア達にはまだ相手のことがちゃんと見えていない。今度は顔を魔法少女達に向ける。
「大したものです。シャハトを倒すなんて。わらわ達はまだ力を着ける必要があるようですね」
真正面から見る顔はとても穏やかで常に笑みを絶していない。いかにも優しそうな雰囲気を持つドリーチェだ。長い黒髪と引き眉が印象的である。その笑顔のまま
「初めまして魔法少女達。あなた達を褒めてあげませんと。シャハトに勝利したこと。あなた達は凄い存在なのですね。今回のことでよく分かりました」
「わ、分かったならもうこの世界に来るなよ」
ドリーチェはティーナの顔を見て穏やかに
「まだ話している最中ですよ。最後までお聞きなさい。わらわは戦いなど好みません。しかしシャハトをこんな姿に変えられてしまったからには黙っているわけにはいかなくなりました。けれど今はやめておきましょう。このカタはもう少し先。月蝕まで持ち越しです。月が完全に姿をなくす瞬間。その時があなた方の最後。そして世界は父上のもの。では何か意見があればお聞きします」
ドリーチェは魔法少女達の顔を一人ずつ見ていく。そしてジーアのところで止まる。
「あら?なるほど。シャハトは軽率なこと。こんなところにいたのに。ねえあなたお名前は?」
「な、なに?ど、どういうこと?」
「それはいずれ。言いましたよね。月蝕。そうそう無作法でしたね。わらわの名前はヘーンといいます。もう一度お聞きします。あなたお名前は?」
ジーアは持っているだけの気力を振り絞って相手のことを正面から揺らぐことのない視線で見る。
「私の名前はジーア。あなたはヘーン。そして月蝕。待ってるわ」
「ジーア。良い名前ね。それに良い目をしている。わたくしも楽しみにしています」
ヘーンはにっこりと微笑むと
「では束の間の幸せを楽しんでください。思い出をたくさん作ってね。でもそれを思い返すことなんてなくなっちゃうけど。それでは一旦失礼します」
ドリーチェは何もせず闇の隙間に消えていってしまった。
すでにこれ以上戦うことが出来ない魔法少女達は正直助かったと誰もが思っていた。
だが確実なのは月蝕にヘーンはやって来る。そのことだけが魔法少女の持つ唯一の情報だった。
「なあジーア。あいつが言ってたことって何のことだ?」
ティーナがジーアの顔を見て話す。
「そんなこと分かるわけないよ。私だって何のことか・・・・」
ミアンはこっそりグローに声を掛ける。
「ねえねえ、月蝕って何時なの?」
「さあ、わたくしに聞かれても」
今度はティーナが
「ブーアは?年の功でどうよ」
「年とか言うな。次の満月なら分かるんだけどな」
「満月なんて聞いてない。月蝕だって」
みんな静かになった時に小さな声で
「私知ってる」
ジーアが答えるとみんなは一斉に注目する。
「日本で皆既月蝕が起こるのは来年の七月十八日。今からもう一年もない」
「一年もない?実質え〜と十一ヶ月くらいか。それが長いのか短いのか分からねえ。けどやらなきゃいけないんだよな」
「そのようですね。実はわたくし来年は受験なので今年いっぱいで魔法少女はやめようと思っていたのですが事情を知ってしまったからにはそうも言ってられませんね」
「あたしは頑張るよ。もっともっと魔法が使えるようになってやるんだから」
「あたいも生きてればな。なんせ歳だからな」
あと一年。
ううん、もうそんなにない。これから自分自身の魔法をどれだけ引き出し、使いこなせるようになるのだろう。
今みんなの気持ちは一つになれたんだ。同じことを考えている。だって私達は仲間じゃないか。
私達には守らなきゃならないものだってある。
自分の家族はもちろんのこと。人間以外の生き物達。海の長とその仲間達。みんなこの世界で今を生きている。それをたった一年でなくすわけにはいかない。
もし。そんなことになったら今まで頑張ってきた歴代の魔法少女達に合わせる顔なんてない。
絶対に世界を守る。
これが私達の使命。選ばれた大役を完遂しなくちゃならない。
そして次の世代の見本にならなきゃならない。
これが先頭で生きる者の運命。
私達の前に道はない。私達の通った後に道は出来る。だから間違わないよう進んでいくんだ。
ジーアはひとしきり考えてからブーアに背負われると
「みんな頑張ろう。シャハトに勝てたんだ。私達が強い絆で結ばれている限り負けることなんて無い。だから勝つの。勝って世界を守るの」
その言葉にはすでにみんな決意していた。
「もちろんです。ジーアの言う通りです。でも今はこの世界を元通りにしましょう」
グローの言葉にみんな手を繋ぎ輪になる。
「破壊された世界を元に戻します。お願い、全てを元通りに」
みんな一斉に声を合わせる。優しい光が世界中を駆け巡ってゆく。
「スラーン!」
掛け声と共に壊れてしまった世界は元の世界の姿を取り戻していく。
何もかも元通りの世界。何もなかったことになっている世界。これも世界を守る魔法少女達のおかげ。
「今日は解散です。頑張りましょう。この世界はわたくし達のもの。それは間違いのない事実です。だから胸を張って世界を守りましょう。たとえ歴史に残らないとしても」
グローが言い終わると同時にそれぞれ帰路に着く。今はとても静かな時間が流れている。
ジーアはそのままブーアに家まで送ってもらった。
何時しか背中で寝ていたらしく再び目を醒ました時ジーアは自分のベッドで寝ていた。
真夜中で世界は物音一つしない。家族はすでに眠りの中にいる。
月明かりの差し込む部屋で何となく放心している。
あまりにも静か過ぎる世界。
ジーアは鏡に向かってそっと話しかけてみる。意外にもジーアも寝ていたらしく少々寝ぼけているようだ。きっと私も同じ顔をしている。
「・・・仁、大変だったね。お疲れさま」
「ジーアこそ寝てるなんて珍しい」
「・・・だって。魔法力ほとんど使ったから。寝ていたっていうより気を失っていた方が合ってるかな」
「だよね。私もこのままで寝てた。ねえジーア。実はいろいろ聞きたいんだけど」
「い、いきなり何よ。私の体はそのまま仁に投影されてるんだから聞くまでもないでしょ」
「え?いやいや、そういうことじゃなくて」
「分かってる。冗談よ。でも時間はある。明日にしたい。ほんとこんなに疲れたこと今まで無かったから。仁も疲れたでしょ。だから今は休みましょう」
私は少し考えてからジーアの意見に同意する。
「そうね。分かった。明日にする。じゃあ・・・変身解いて」
「了解。それじゃお休み、仁。お互いゆっくり休みましょう」
ジーアは欠伸しながら言う。
僕は元に戻った。
鏡の中には疲れた中年の顔が映っている。とてもくたびれて、とてもやつれている。
今日一日でもの凄く老けてしまったように感じた。
「寝よう」
僕は僕自身に言ってもう一度ベッドに潜り込んだ。
僕はあっという間に深い深い眠りの中にその身を投じてゆく。
夢は僕を楽しい思い出の中に連れ出してくれた。
海・・・それは魔法少女の思い出。楽しかった一夏の思い出・・・僕達の宝物。
今は夢に誘われるまま落ちてゆく・・・堕ちてゆく。
月食を月蝕と書くセンス。←中二病
読んでいただきありがとうございます。
昨日。29日は待ちに待った肉の日。
がっつり肉食べたから寒さになんか負けないぞ。
この調子でもう少し物語を紡ぎたいと思っています。
次回はどんな展開?それは火曜日に。豆まきの準備忘れずに。




