仲間だから 3
ティーナは夜空にポツンと浮かんで街を眺めていた。
「私って、ほんと、馬鹿」
今度は『くま屋』のある方を向いて
「あんなこと言いたいわけじゃなかった。お酒が入ってたからって・・・いいわけにならないよね。ついみんなの顔見たら、駄目、駄目、しっかりしないと。あんな大見得切ってきたんだ。私・・・何に対して腹立ててるんだろう・・・・」
ふと背中に視線を感じる。もしかしてジーアが追いかけてきてくれたの?
「こんばんは、魔法少女さん」
その声に振り向くとシャハトがいる。それもさかさまになって
「お、お前は・・・シャハト」
「私の名前を一回で覚えてくれるなんて嬉しいじゃない。お礼にあなたの名前聞いてあげる」
「お、お前こそ、何故ここに」
「おっしゃい、あなたの名前」
相手から受けるプレッシャーが凄まじい。
「私は・・・・・・ティーナだ」
「あらあら良く出来ました。じゃあお返しに。何故ですって?ご覧の通り私達の世界を見てましたのよ。こうやって見上げているとどっちが空なのか分からないくらい星が散りばめられたような地上です。これはこれできれいだと思っておりました」
「私達の世界だって?何を言っている!」
「ちょっとティーナさん。あんまり興奮しなくてもよろしくてよ。また昨夜のようになっちゃうわよ。無意味な戦いは好みませんのよ私。本当の戦いと言いましたがここは一つ平和な解決策を取りませんか?」
ティーナは気持ちをグッとこらえる。同時に脂汗が滲み出る。だっていつもはドリーチェが現れる時は必ず体が反応する。けどこいつの場合何の前兆もなかった。このことはみんなに教えないと。
「戦いたくないなら自分の世界に戻ればいいじゃないか」
「そんなこと聞いてません。答えになってない。あなたもしかして馬鹿なの」
「ば、馬鹿?お、お前にそんなこと・・・」
「そんなこと?」
シャハトはティーナの顔のすぐ傍までやって来て
「言われる覚えは無い。でしょ」
次の瞬間ティーナは触られてもいないのに身体が弾かれる。
「・・・・ぐ・・・ま、また・・」
「こうなるのよ。みんな。あなた達魔法少女はみんな私に破れるの」
ティーナは鼻血を拭う。シャハトはさかさまのまま笑い出す。可笑しくてしょうがない。
「あははは、ははは、ふふふ、あはは。ところで他の仲間は?あなた一人なの?」
ティーナは黙って静かに魔法力を高めていく。
「あら、あなた。もしかしてだけど今すぐ私と戦おうなんて思ってるのかしら」
「・・・私一人で十分だ」
「何だ、やっぱりお一人。チッチッチ、やっぱ馬鹿だ。魔法少女ってもっと凄いと思ってたけど駄目ね」
「言わせておけばいい加減なことばかり好き勝手言いやがって。私の力見せてやる」
ティーナは蓄積した魔法力を解放する。眩い光を放ち、体全体が炎に包まれていく。
「私をなめるな!」
シャハトに向かって猛スピードで体当たりしていくがシャハトはこれといった動きも見せずにかわしている。その様子はまるで実体のない幻影もしくは影に向かって攻撃をしているようなそんな感覚だった。手応えというものがなかった。
「ククク、威勢がいいのは分かってたけど」
「くそ、まだだ」
それでもティーナは攻撃を仕掛ける。しかしそれは体力を無駄に消耗していくだけだった。
「他に攻撃のやり方が無いの?ワンパターンでつまらない」
「な、何故・・・何故当たらない。スピードは誰にも負けない自信があるのに」
「・・・スピードね。なら私が見せてあげる。ホントのスピードってやつ」
シャハトはティーナの目の前にいるのに耳元から声がする。
「鬼さんこっち」
振り向くと今度は反対の耳から声が聞こえる。
「あら違った。魔法少女さん、こっちよ」
向き直っても姿は無い。しかし目の前には相変わらずシャハトの姿はある。
「な!・・・・幻影?それとも残像?・・・奴のスピードはそれだけ速いってことか?」
「ご名答。これくらいやらなきゃ自慢にはならないわ。あなたに出来るかしら、ティーナ」
さらに汗・・・脂汗が止まらない。正直マズイと思う。私一人では無理かもしれない。そう思うと足が勝手に震えてきた。
「降参する?諦める?所詮アルガトネオルから魔法少女が何人来ようと私達の敵ではないわね」
「私達?だって」
「言っていませんでたね。私には五人兄弟がいるんですよ。絶望してもらえた?」
「・・・・・・」
私達魔法少女も五人・・・一対一なんて無理だ。ティーナの心の中には絶望という言葉が現実として感じていた。
「私一人いれば事足りるみたい。魔法少女達はこのことを見込んでこの世界に複数の魔法少女を送り込んだのよね。それも選りすぐりの魔法少女達をね。でも残念」
「・・・・・・」
「あら分からないの?ほんと馬鹿ね。いいか、その耳かっ穿じってよく聞け。このお馬鹿さん」
シャハトの声が急に低く太い声になり、顔は中性的な穏やかな顔ではなく、赤と黒のスジが顔中まるで歌舞伎の隈取りのように現れて穏やかとは程遠くなってゆく。
「お前だよお前。この世界で体を貸しているお前自身が大馬鹿だと言ってんだよ。魔法少女の本来の力も引き出せずにむしろその力に振り回されてロクな魔法しか使えないお前に残念だって言ってんだよ。このウスラボケのロクデナシが!」
ティーナは相手の変わり様に驚いたのと言われたことが事実そうだと思うと言い返えす言葉をさらに失ってしまっていた。
「図星だろ。言い返すこともできないお前じゃ役立たずなんだよ。もっと的確な依り代がいるはずだ。さっさとそいつと代われ。でないと折角の俺様の楽しみがあっと言う間に終わっちまうじゃねえか」
「・・・楽しみ?」
やっとのことでティーナは言葉を出す。
「そうだ。俺達はずっとこの世界に来ることを望んでいた。しかし、この世界には魔法少女という厄介な存在がいてドリーチェは全て排除されてきた。だから考えたんだよ。俺達が強大な力を着けて魔法少女達を散々いたぶって葬り去って世界をこの手に入れるってな。けどこんな弱っちいのを倒した所で積年の恨みは晴らせない。期待外れだ。まあ・・・どの道今からお前をいたぶって殺す。少々手応えが無いが他のに期待するとしようじゃないか」
「積年?恨み?・・・何言ってやがる。お前等に恨みを買われるような覚えは無い」
「お前達に無くてもこっちにはそれ相応の理由がある。でも今から死ぬお前には関係のないこと。いいか、これからお前を殺す俺を恨むな。恨むなら中途半端なお前のことを依り代に選んだ魔法少女のことを恨むんだな」
ティーナは今から死ぬことに何ら疑問を持たなかった。殺される。確実に。そう思うとさっきまでの慌てぶりが収まり、気持ちが落ち着いてゆくのを感じる。
こんなに冷静に物事を考えるのは何時以来だろう。
ティーナは魔法を収める。静かだな・・・そんなことすら思った。
ティーナの力を引き出せてないのは私のせい・・・・・・あいつの言う通りかもしれないな。
私が依り代に選ばれたのは波長が合ったから。それだけの理由で魔法少女になれた。私は誰にでもできることじゃないことを出来るようになった。自分のことを特別な人間だと思っていた。
けど蓋を開けてみれば大した人間じゃなかったのかもしれない。多少は努力はした。でもまだまだ足りていない。
仲間といつも一緒だった。自分が一生懸命にならなくても他が頑張ってくれていた。みんなに甘えていた。
そういえば・・・たった一人で戦ったことなんてなかったな。
できることならもう一度みんなと会いたい。二度と会うことができなくなる前に・・・ティーナはとても強く思っていた。
1月2日。都内には雪が舞いました。寒いというよりは冷たい。
読んでいただきありがとうございます。
明日は七草粥ですね。皆さま正月はたくさん食べましたか?
私も欲望のままに食べてしまいました。
まあ・・・頑張れば取り戻せるよね。
次回もよろしくお願いします。




