仲間だから 1
最後にやってきたのは瑠璃さんだった。その時点で時間は19時を過ぎていた。それまで僕達は『くま屋』で適当に駄菓子を食べて過ごしていた。
魔法少女に変身していない時でも随分と会話が成立するまでになっていたが、昨夜のことを考えると何となく無言になってしまう。
一体どう切り出したものか。それぞれが考えているようにも見えるけど真っ白で何も思いつかないのかもしれない。
それでも時間を無駄にしまいと有栖は宿題をしているし鏡一郎はゲームをして遊んでいる。さっきまで有栖に宿題を手伝ってもらっていたからそれしかやることがないのだ。
くまさんは奥の台所で簡単な食事とお茶の準備をしている音が聞こえる。
最後に僕はもう一度昨夜のことについて思いを巡らせていた。けれどこれといった考えが浮かぶわけでもなかった。僕の左手には海の長『キト』から受け継がれたウラングラスのペンダントがあってぼんやりとあの時のことを思い出していた。そして今度はそれを蛍光灯の明かりに透かしてみた。けれど蛍光灯の光ではではあの時みたいな光を作り出すことはできなかった。
ガラっと静かにシャッターを開ける音をさせて瑠璃さんが入ってきた。その表情からやはり昨夜のことをまだ引きずっていることが分かる。有栖と目を合わせないようにしているのがこれ見よがしに分かったからだ。
「・・・ごめん遅くなった。・・・何か体調悪くて・・・仕事も休んじゃった」
「大丈夫ですか?言ってくれれば休んでて良かったのに」
僕の背後からくまさんの声がする。
「どうせ瑠璃のことだ、飲んでたんだろ。で、最悪な二日酔い。おめえのことはよ〜分かっとるでな。ほれ、これでも飲め。おれ特製の特効薬だ。これが一番効く。騙されたと思って黙って飲め」
くまさんは湯飲みを渡す。湯気がもうもうと立って熱さを誇張しているし臭いもかなり鼻を刺激する。瑠璃さんは図星と言わんばかりに黙って受け取ると、ふうふうしてゆっくりと飲み下す。
「・・・にが・・・何これ?」
「いいから。そのまま全部飲め」
瑠璃さんはそれ以上何も言わず黙って飲み続けた。その臭いは有栖と鏡一郎の鼻に届いたようで、つまんで顔をしかめてこっちを見ている。
「瑠璃ネエ、二日酔いってホント?」
「・・・だったら、何だってのよ、鏡一郎、私言ったよね。帰って飲むって」
「大人、大人言う割には瑠璃ネエって自分の加減知らないよね。僕、大人になってもお酒なんか必要ない人生を送りたいな」
瑠璃さんはあえて答えず『ふん』って素振りをしてまた飲み始めた。そのことについて有栖も何か言いたそうな素振りをするが黙ったままじっと見つめていた。有栖の視線に瑠璃さんも気付いていたが取り合おうとしない。そんな二人を見て僕はつい溜息を漏らしてしまう。さらに全体を俯瞰して見ていたくまさんが軽く僕の肩を叩いて
「おれに任せとけ。なんせ事態が事態だけにな。おれらはより一層まとまらんとならん」
くまさんは耳元で言ってから奥に入ってゆく。おかげでさっきより更に沈黙が深くなったような気がした。
僕達の間には沈黙という空気が流れている。誰も何の言うことが定まっていないのだろう。
「みんな。簡単だが話始める前に飯にするぞ。わりぃが鏡と有栖も手伝ってくれ」
再び奥から出てきたくまさんの手にしたお盆には茶碗と箸を乗せてある。それをテーブルに置いてから今度は二人を連れ奥に行こうとしている。僕も立ち上がろうとしたがくまさんに無言で止められた。
しばらくの間瑠璃さんと二人だけになる。けど瑠璃さんはそんなこと気にもせず飲み終わった湯飲みをテーブルに戻した。
「はあ・・・苦かった・・・」
「どうですか?効きそうですか?」
「飲み終わったばかりだからね・・・はあ・・・何だかなぁって思う」
「何がですか?」
「何がって、昨夜のことよ。私達って相当ヤバいことになってるよね。あいつ、シャハトだっけ。あいつみたいなのがこれからやって来るのかと思うとさ、何か生きてる心地がしないっていうか・・・私達、あいつらに勝てるって気がしない。あ〜あ、面白半分に魔法少女やるんじゃなかった・・・知らなきゃこんなこと考えずに済んだのに、って」
そう言って頭を掻いた。僕はどう返したらいいか分からず黙って瑠璃さんを見ているしかなかった。
「それで?何で昨日の今日で集まるわけ?仁さんに言われたから仕方なく来たけど」
「瑠璃さん、ちょっと冷静になろう。確かに僕も動揺している。シャハトは言った『これからが本当の戦い』って。瑠璃さんの心配は分かる。だからこそ対策が必要だと思ったんだ。本当は僕から発信するつもりだったけど一番最初に言ってきたのは有栖なんだ」
「だったら何で仁さんがみんなに一斉メールするのよ。有栖がすればいいことじゃない」
僕はまた溜息をつく
「正直に言おう。有栖が僕に頼んだんだ。だから僕がメールした」
「ふ〜ん、そう。仁さんってあのくらいの歳の女の子には弱いんだ。じゃなきゃ率先してジーアになんかならないよね」
さらに溜息を重ねる。
「だから・・・今はそんなこと言ってる場合じゃないと思う。正直有栖まだまだ子供だ。でも魔法少女のリーダーなんだ。だから昨夜のことで気を使ってわざわざ僕に頼んだんだ。みんなに集まってもらうために。そりゃやってることは子供だ。でも本当に子供だから仕方ない。だから大人である僕たちがその辺の
気持ちを汲み取ってやる必要がある。そう思ったんだ」
瑠璃さんは少しずつ元気が出てきたみたいだ。顔色がさっきより良くなっている。くまさん特製の薬が効いてきたのだろう。
「大人・・・がね。海のときは散々子供扱いするなとか、大人になんかなりたくないなんて言ってたのに。やっぱり子供は子供で、大人は大人なんだ。同じ目線なんて無理だよ絶対」
「でもさ、そこはほら、魔法少女になってしまえば関係ないって僕は思っているよ。だからさここは一つ僕達が大人になってみんなで対策を考えようって思うんだ」
今度は瑠璃さんが溜息をつく。
「・・・それってどうだろ。私考えたんだけど魔法少女って五人もいるんだよ。いちいちみんなで動かなくたっていいじゃない。だからさ、こういうのどうかな。私と組まない?大人は大人同士、子供は子供同士で。それなら考え方の違いによる喧嘩もなくなるんじゃないかな」
正直その提案はまずいな。何としてもここで食い止めないと。僕達は団結するどころかバラバラになってしまうかもしれない。
「そんなこと言ってる場合じゃないよ。瑠璃さんだってほんとは分かってるはずです。僕達はもっと一致団結しないと・・・絶対にアイツには・・・」
僕の言葉は瑠璃さんには届いていないのだろうか・・・話が終わる前に遮るように瑠璃さんが口を挟む。
「仁さんの言いたいことだって分かる。けどね、リーダーにしちゃ頼りない。人生経験が少ない分どうしても重要なことが後手後手にまわってると思う。だから、仁さんがリーダーになるんだったら残ってもいい。けど、このままなら私は一人でやらせてもらう。そのことも言いたくて来たってのもある。私一人で絶対あの生意気なドリーチェ『シャハト』を倒してみせるから」
「無理だ。あいつに一人で立ち向かうのは危険だ。昨夜のことだって僕たちは何も出来なかった。それは相手のことを何も知らないせいもあるからだ。だから有栖はどんな奴かを見極めようとした。判断は間違っていないと思う。それに僕はリーダーなんて出来ない。僕が出来るのはあくまでリーダーである有栖に助言したり補佐することだけなんだ。リーダーは有栖なんだ、あの時、瑠璃さんだって認めたじゃないか」
「それは・・・それはそうだけど。でもああ言ったのは有栖だったからじゃない。グローだったらって思ったから。でもやっぱり子供よ。グローの影響だってあるかもしれないけど、私や仁さんやくまちゃんには敵わないの。これってどうやっても埋まらない事実なのよ」
瑠璃さんは完全に薬が効いて今ではすっかり顔色も良く、瞳にも光が戻ってきた。
「瑠璃さん一人では絶対勝てない。僕はそう断言する。もちろん僕一人だって無理だ。だからこうやって対策を考えようって・・・」
瑠璃さんはとても深く溜息をついて立ち上がると指輪に祈りを込めティーナに変身した。その姿はいつも以上に全身が赤く光っているし瞳には確固たる決意の色が炎のように燃えていた。
「・・・瑠璃さん、いや・・・ティーナ」
「仁さんが私と手を組まないのは分かった。だから私は一人でやるって決めた」
「決めたって・・・そんな勝手なこと有栖が許すはずがないだろ」
「私は誰の許しも、誰の指図も受けない。本来この世界には一人しか魔法少女はいない。だから普通に戻っただけ。私は一人でやってくの。仁さん達は仁さん達で仲良くやっていればいい。お互いの邪魔だけはしないようにしましょう」
ティーナが出て行こうと縁側に出た。同じタイミングでくまさん達が奥から戻ってきた。今の状況を見たくまさんが
「お、何じゃ何じゃ。何ごとじゃ。瑠璃、一体どういうことじゃ?」
くまさんの呼び掛けに振り向こうとしたティーナは振り向かずに後ろ姿のまま
「・・・くまちゃん。私ね、たった今みんなとは別行動するって決めたの。今までありがとう。くまちゃんにはティーナとしても瑠璃としても感謝してる。だからお互い頑張ってあの生意気なドリーチェを倒そう。その時また一緒にお酒を飲んでくれたら嬉しいけど。それじゃ、行くね」
僕達が声を掛ける前にティーナの姿はもうなかった。遠くには赤く光る流れ星のようなティーナの軌跡だけが夜空に輝いていた。
大晦日の前日にアップ。正月休みなんて気にしない。
読んでいただきありがとうございます。
いよいよ新しい年がやってきます。もう目の前です。
気持ちを新たに物語を紡いでいこうと決めています。
次お会いできるのは2026年ですね。
皆さまの幸せを願って今年最後のアップをします。
それでは皆さまよいお年を!




