もう一人。そして世界は動き出す 7
しばらくしてジーアは目を覚ました。
自分の身に何が起こったのか、どれ位こうしていたのか、それにみんなはどうなったのか。
耳の奥がまだワンワン鳴っている。よく死ななかったものだと思う。霞む視界の先にはまだ夜だと分かるくらいだし、ミアンの魔法だってとっくに解けて今頃世間は大騒ぎしているかもしれない。
「・・う・・体中痛い・・・みんな・・どこにいるの・・・」
ジーアは半分埋もれた体を起こして周囲を見てみる。
しかしジーアの目に映るのはぼんやりとした景色だけだった。
「みんな・・どこ・・・お願い、返事して」
ジーアは心の中でみんなを呼ぶ。やっとの思いで立ち上がると足に激痛が走る。折れてはいないがかなり無理に捻った感じがする。それでも引きずって歩き始めた。
「お願い、返事して・・・・ごめん、こんなことになるなんて・・・ごめん。だからお願い、みんな生きてて・・・お願い・・・・」
「おい、ジーア。おいったら」
「え?この声ってブーア?無事だった・・・・よかった・・・」
ジーアは声がする方を向く。しかし相変わらずの視界。でもそこには確かに大っきなブーアの姿が分かる。隣にも誰かいるのが分かる。
「私も無事だ。しっかし、さっきの半端ねえって。ほんと死んだかと思った。ブーアが隣にいたから擦り傷くらいで済んだけど。ジーアこそ大丈夫かよ、足、引きずってんじゃん」
「・・・ティーナ・・・ごめんね、擦り傷でもごめん」
「いいって、いいって。ブーアが咄嗟に金属の盾になってくれたから助かったんだ」
「ブーアが?」
「ああ、あたいは咄嗟に金属になれって祈ったんだ。そしたら『タングステン』っていう金属になった」
「・・・タングステン・・・確かに単体の金属元素では一番高い融点を持つ。ブーアって物知りだね」
「必死だった。とにかく神様、仏様、魔法少女様って祈った。多分本物のブーアが気を利かせてくれたんだと思う」
「そっか・・・私のせいでまた魔法力使わせちゃったね」
「平気平気。それにブーアの体力は想像以上に凄いって分かったからな」
ジーア達は思わず笑顔になる。遠く上空から声が聞こえる。グローの声。
「みなさん無事ですか」
グローはみんなの前に降り立ってから今度はジーアの前まで行くと、
「ジーア、あんなことになるなんて聞いてません。わたくし、あの爆風で成層圏まで飛ばされたんです。もう寒くて凍えてしまうとこでしたわ」
「グロー、怪我は?」
「見ての通り寒かっただけで怪我という怪我はしてません。しかしあんな危険なこともうしないでいただけます、命がいくつあっても足りません」
プリプリしているグローにブーアがなだめる。
「怪我がないなら良かったじゃないか。ジーアを見てみろ、一番近くにいたからボロボロじゃないか。許してやってくれ、ジーアだってこんなことになるなんて予想外だったんだよ。なあ」
「・・・ごめんグロー、そうね、これ封印する。造るのも大変だし、ここまで威力がなくったってドリーチェは十分倒せるはずだから」
「ほんとです。わたくしが攻撃するまでもなくドリーチェの大群達はマルヴごと消滅しました」
「ほんと?」
「ええ。飛ばされながらマルヴが弾けるのが見えましたから。それよりジーア、怪我の具合はどうなんです?」
「ちょっと足捻ったみたい。あと眼鏡が粉々になっちゃった。ははは・・・」
「なら魔法で治しましょう」
「魔法で?」
「ええ、ミアンの魔法を使えば簡単に・・・あら、そういうミアンはどこ?」
「そうだな。あいつどこに行ったんだ?お〜い、ミアン聞こえるか?」
ティーナは大声でミアンを呼ぶと声に反応したのか、青い玉が土の中から勢いよく飛び出してきた。
「うわ、何だこれ?」
「ティーナ、ミアンに決まってるじゃありませんか」
グローはそう言うと青い玉の前まで行ってノックする。
「ミアン、早く出てらっしゃい。もう終わりました」
すると青い玉はドンドン崩れて、カードへと姿を変えていく。そして中からミアンが現れる。
「エッヘン。どう?あたしの防御魔法。名付けて『青の城壁』。それにしても凄かったよね。みんな大丈夫だった?」
ミアンも怪我一つ負っていない。いつもの元気な姿だ。
「ミアンのその魔法、凄い防御ですね」
「でしょ。あたし自身もビックリ。やっぱ魔法少女の力って凄いね。魔法でどんなこと出来るんだろうって考えるとワクワクする」
「そうでしょう。しかし。一つ言わせてもらうなら、それでみんなを守って欲しかったです」
「え〜、そんなこと言ったって、急だったし、それに多分一人用だし・・・・」
ミアンはみんなのことを見てから何となくバツが悪そうに笑って誤魔化した。グローもそれ以上は何も言わなかった。みんなの顔を見てジーアはホッとする。みんな無事で良かった。
「ジーア以外はみんな無事みたいだな。ほらこれ、そこに刺さってた」
ティーナはジーアにステッキを渡した。小さな手には無数の傷があった。ジーアはステッキをしっかり握るとやっとホッとできた気がした。
「ありがとうティーナ、何か自業自得だよね、これって」
ジーアは笑おうとしたが
「イタタ・・・やっぱり、結構痛いかな」
「あんまり動くなって。なあ、あれって一体何だったんだ?見えないと思うけどさ、競馬場みんなすっ飛んじまったんだぜ」
「見えない・・・けど。とんでもない威力だってことが分かった。これってとにかく凄いエネルギーなの。私が調べた限りでは核を除いて一番凄い破壊力を持ってる。私の魔法力だと多分ウランとかは集められないから、だからうんと強い敵が現れたら使うつもりだった。今日はそのことも踏まえて一度使ってみたかった。でももう使わない。それに・・・もしこんなのが今の世界で実用化したら大変なことになる。人間が造ることがないことを心から願う。魔法少女の力って結構怖いかもね」
「核の次って、怖い怖い。でもこれってジーアと私じゃないと造れないんだよな」
ジーアは無言のまま頷く。それからグローが
「ミアン、あなたの魔法でジーアのこと治療してあげてください」
「あたしの魔法で?」
「そうよ。あなたの魔法ならできると思うからお願いしてるんです」
ミアンはジーアの傍まで行ってその姿をじっくりと見る。思っていた以上に怪我もしてるし、服だってかなり破れてる。そのから覗く白い肌には無数の切り傷や擦り傷があって真っ赤な血が滲んでいる。髪の毛だって泥だらけで本来の髪型とは程遠い。見ているだけで痛さが伝わってくる。
「ジーア、もう大丈夫。あたしに任せて。あたしの魔法で絶対治してあげるから」
「・・・ありがとうミアン。でも大丈夫?出来る?」
「ジーアは前に言ったよね。あたしの願いはこのカードが叶えてくれるって。だから信じてあたしのこと。ジーアに治って欲しい。あたしの魔法、凄いんだからね」
ミアンは全身銀色に光るとカードに祈りを込める。
「カード達、あたしの願いを叶えて・・・お願い」
カードは光を放って四枚のカードをドローする。
「ジーア来たよ。これって『雨四光』結構な大役じゃん。魔法力使いそう。でもこれでジーアが治るなら。いっけ〜魔法発動!」
ミアンが指を鳴らすとカードは光って粒子となって消えた。
やがて空から優しい光が雨のようにジーアに降り注ぐ。それだけじゃなく他の魔法少女にも降り注ぐ。
みんなの傷が癒えていくだけじゃない。服も、髪も、眼鏡さえ元に戻っていく。ジーアは閉じた瞼をゆっくりと開けて自分の身体をみる。
もう大丈夫。全ては元通りになっていた。
「ありがとうミアン。治った。私、治った。凄い、凄いね。魔法少女って凄い」
「エッヘン。またまたあたし凄いことやっちゃった?けどこれって疲れる〜、お風呂入りたい」
ミアンがその場にペタリと座ったのを見て他の魔法少女達は笑う。同時にカチっと音が響く。
ミアンの魔法が解けた合図だ。時が動き出す。
「まだ止まってたんだ。だったら早く元に戻さないと、こんなの誰かに見つかったら騒ぎになっちゃう。みんなの魔法力、かなり使わせたでしょ。あとのことは任せて。私はまだ魔法力残ってる。だからみんなは休んでて」
ジーアは一人空高く舞い上がる。上空からあらためて大きくえぐれてしまった府中競馬場を見つめる。
見える地表は例えるなら巨大な泡立て器によって撹拌されたみたいにメチャクチャになっていた。目も当てられないとはまさにこのことだ。
ジーアは大きく息を吸い込み意識を集中する。体はうっすらとピンク色に光り始める。
「何一人でやろうとしてるのさ」
ジーアが振り返るとそこには四人の魔法少女達がジーアの言葉を待たずにそれぞれが手を取り合う。
「みんな・・・」
「だってなぁ新人のブーアに教えないと、ってグローが」
「わたくしじゃなくティーナ、あなたが言ったんでしょ」
「あたしだってまだまだ頑張れるもん」
「フムフム、このあとはどうやるんだジーア?」
「・・・みんな・・・うん、分かった。ブーアこうやるの」
ジーアが光り出すと連動するように他の魔法少女も光り出す。
「いくわよ。お願い、全てを元通りにして、スラーン!」
ジーアの掛け声で魔法少女達は淡い光に包まれる。
魔法少女達が次に目を開けると府中競馬場は次のレースを夢見て待っているみたいに静かに佇んでいた。
「なるほど。ほんと何もかもが元通りだな」
「ええ、ドリーチェがいない世界です」
ブーアにグローが答える。そこにジーアが付け加える
「それと私達魔法少女もいない世界」
「なんだそれ?どういうことだジーア」
「ティーナ、私達も私達しか私達のことが分からないの。だからこの世界にはいないも一緒。魔法少女達はずっとこうやって世界を守ってきたと思うの」
「でもあたし達のおかげで世界は守られてるんだよね」
「そうよミアン。けどね私達は自分達の運命に従ってるだけ。時が来たらこの役割も終わるってジーアが言ってた。そうなったら私達の今の記憶はなくなってしまう。力はまた別の誰かが引き継ぐ。だから私達が忘れてしまったらいないも一緒なの」
「それでもあたいも含めみんな魔法少女やろうって決めたんだろ?」
「ええ、ブーア、私はそう思った。きっとみんなも同じ」
ジーアの言葉にみんな黙って頷く。今の私達の心は一つ。
魔法少女達
みんなの心の中で何かが動き出すように感じる。世界を守る。それだけが私達の運命。運命は従わないとならない。だったらその先に一体どんな答えがあるの?もしあるなら私は知りたい。
ジーアはそう思いながら遥上空に瞬く星を見つめる。きっとどこかにアルガトネオルに繋がっているブリオングロードがあると信じて見つけようと目を凝らす。しかしどんなに見てもそれを見つけることは出来なかった。誰かがジーアの肩を抱く。振り返ると
「ブーア・・・」
「どうしたジーア。何か見えるのか?」
「ううん。私に見えるのはいつもの星空だけ」
「あたいにも見えるのはいつもの空だ。それと今からあたいの新人歓迎会をやるってティーナが言ってるんだけどどうする?」
「か、歓迎会?なによそれ」
「それと一緒に『チーム魔法少女』の決起集会もしようって」
思わず笑ってしまう。私が感慨深くなってる時に何を話していることやら、と思うと何だか考え過ぎている自分が可笑しくもなった。
「一体何を考えてるの。決起集会って。それに何、私だってやってもらってないのに歓迎会ってさ。まったくいろいろ理由つけて結局はお酒を飲みたいだけでしょ、あんた達二人は。けどさ、いいよ、少しなら。お酒は飲めないけど。さっきも途中だったからね。ちゃんと終わらそう。グローもミアンもいいよね?」
「ジーアがそう言うなら仕方ありません。わたくしも少しならお付き合いしましょう」
「ショワっとしたの飲みたいからあたしも行く」
みんなの答えを聞いて『よし』とブーアが言う。
「今からあたいの店に行こう」
「店?」
「くまは近所で駄菓子屋もやってるんだ。今は閉めてて誰もいない。どうだ?」
「おいおいブーア、駄菓子屋だったらお酒置いて無いじゃん」
「当たり前だろ。ティーナ、その格好で酒を飲むのか?」
「変か?」
「変だろ。どう見ても。それで、みんなどうかな?」
ティーナ以外はみんなオッケーするとブーたれているティーナを横目にみんな移動を始める。
しかし少し飛んだだけでティーナはあっと言う間に追いかけてきてあっという間にみんなを追い抜いていく。自分のスピードを自慢しているみたいだ。
そんな光景を見てジーアは笑顔になる。もう一度星空を見る。
何度見てもやっぱり同じ空が広がっている。何も変わらない。
でも。
もしかしたらジーアの知らないところで変わっているのかもしれない。
これからも魔法少女達は変わらず世界を守っていく。でもホントはそう思ってるだけで本当は何かが少しだけ変わっていく、そんな気がしてならなかった。
年末だ!年末が近づいておるぞ〜
読んでいただきありがとうございます。
泣いても笑ってもあと一週間で2025年は終わってしまう。
過去が増えてゆく。けれど目の前の未来には果てがない。生きている限り。
後ろを振り返りながら前に進んでゆくのが人生なのでしょう。
来年よこんにちは。未来は希望しかないと思って歩んでいく次第です。
こんな気持ちで進んでいこうと思っています。
これからもよろしくお願いします。




