もう一人。そして世界は動き出す 3
「お待たせ。さあ行こうか」
言ったのは赤い顔をして足元がおぼつかないティーナだった。
「もちろんです。あなたに言われなくても。無理なさらずとも帰っていただいても結構ですよ」
グローはあくまでもクールだ。それでもいつ感情が変わるか分からないのでジーアはハラハラして見ていた。もしもの時はまた自分が間に入ればいい、と身構えもしていた。
「だから、大丈夫だから、お、おっと」
ティーナはグローの方によろけかける。すかざず避ける。
「・・・あまり近づかないで頂けるかしら。品を求めるのは無理そうですね」
「品、品ってそんなに大事かよ。その言い方。相変わらず気に入らないねぇ。ま、私は大人。子供の戯言なんて社会に出ればいかに幻想だったか、今に思い知ることになるから。う〜・・・あ〜・・・酔いが醒めてきてる。今日はよく燃えそうだ。頑張るからさ、お願いだからそんな目で見ないでよ」
酔うと愚痴っぽくもなるんだな、とジーアは思った。
「分かったから。頑張ろうね。でも良かったね。酔いが醒めてきて」
ジーアの言葉にティーナは瞳を輝かせて
「優しいなジーアは。抱きついてキスしたい」
「え!ちょっと、何言ってんの!冗談でも・・・やめてよね。酔いなんて・・・醒めてないじゃん」
ジーアはくちびるを尖らせているティーナの顔を押しやる。
「どれ」
ブーアは軽々とティーナを肩越しに担いだ。
「お、おい、何すんだよ。離せよ」
「いいから。しばらく掴まっていろ。あたいが担いでいってやる。それまで休んで少しでも正気に戻るんだ」
しばらくジタバタしていたがやがて大人しくなって
「・・・わかりました・・・お願いします」
「意外と物分かりがいいじゃないか。みんな待たせたな。さあ行こうか」
ジーア達は中庭の見える大きな窓から一斉に飛びだした。
すっかり夜が深まっている。見上げると星が今にも降ってくるくらいたくさん瞬いていた。
「うっわ〜、星、すご」
「ほんとですわね。同じ東京なのに。全然違いますね」
「都心と違って空気が澄んでるし街灯も少ないからな」
「今度天体望遠鏡持ってこようかな。星を見ながらお風呂に入るのありだね」
「ミアンはお風呂のことばっかり考えてるの?」
「そんなことないよジーア。ミアンはゲームだって大好きだから」
「ゲーム・・・ねえ。それって鏡一郎じゃなくて?」
「うん。ミアンって格闘系が好きなんだ。端末送ってあげられたらいいのにね。そしたらアルガトネオルとネットで繋げて対戦だってできるかも」
「そこまで?でもアルガトネオルとネットは無理じゃないかな。でもゲームで対戦している魔法少女って笑えるかもね」
ジーアもミアンも想像して笑っている。二人の間をグローが割って入って
「お話は終わりでいいでしょうか。行きますよ、あなた達」
肩に触れる手が少しピリっとして二人は背筋を伸ばして
「は、はい。もちろん。で、どっちに行けばいいの、グロー」
「あっちです」
グローは街灯りが溢れている都心を指した。
みんなは飛び始める。
街灯りが強くなればなるほど星はその輝きを失っていった。
ジーア達がほどなく目的の場所に到着するとドリーチェは既にその姿を現していた。
「あれがドリーチェか?」
「そうよブーア。しかし今回のはそんなに大きくないね」
「ほんと、なんか馬が走ってるみたいだね」
「ここが府中競馬場だからってわざわざ姿を合わせてこなくても・・・そう思いませんこと」
ドリーチェは楽しそうにコースを走っている。本物の馬の走りよりは全然速い。あんなのがレースに出たらぶっちぎりで優勝だろう、ジーアは見て思っていた。
「よっしゃ。早速あたいが行ってくる」
ブーアはティーナをジーアに託して降下し始める。
「ちょっと、待ってブーア」
「何だジーア?」
「ミアン」
「分かってるよグロー。今やろうと思ってた。それ、カードドローっと」
ミアンはカードを使う。カチっと音がして時間が止まる。その光景をブーアは不思議そうに見ていた。ジーアは寝ているティーナを起こそうと身体を揺すっているが小さなイビキが消えることはなかった。
「これが言っていたやつか。時間が止まった。なるほど。これで思いっきり暴れても大丈夫だな」
「まあ、大丈夫かどうかはあれだけど。無駄な騒ぎを心配しなくてもいいから、ある意味正解かな。私達も行こうか?ブーア初めてだし」
ジーアは起こすのを諦めた。時折『んが』と聞こえる。ホント置いてきた方が良かったのかな。
「ジーア心配無用。あたいがやばくなったら助けてくれ。それまではあたい一人にやらせてくれないか?いいよなグロー」
「そこまで言うなら。分かりました。わたくし達はここで見ささせて頂きます」
「おっし。そうこなくっちゃ」
ブーアは自信満々で地上に降りていく。ジーア達は上空に留まって見ていることになる。
「ねえねえジーア。あたし達ここで見てるだけなの?」
「今のところはね。でもブーアがピンチになったら私達も行くから準備だけはしておこう」
「それよりまだ起きないのですか?」
グローの声に反応したのか
「あ〜何だって?起きてるっつうの」
やっとティーナが目を醒ます。でもまだ微睡んでいる。
「あらそう。なら、このまま帰っても差し支えなくってよ」
「あはは。まあ、その、ね、見ようよ。ブーアの闘いを、ね」
「ジーア、分かっています。言われなくても」
「起きたぜ。私はいつでも行けるぜ」
「あら残念」
「なんだよ残念って」
ジーアはそんな二人を見て溜息をつく。それからブーアのことを見る。
ブーアはドリーチェの真っ正面に降り立った。
ドリーチェはお決まりで魔法少女を見ると金切り声を上げた。馬にも似た姿は本当の馬のように『ブルルン』と鼻息を上げ前足で地面を蹴り始める。ブーアの方も四股を踏むような格好で踏ん張る。
「さあ、来い!」
声が合図になってドリーチェはブーアに向け一気に突っ込んで行く。
ブーアは全身に力を込め受け止めている。しばらくその姿勢のまま両者は動くことはなかった。
「へえ、凄い。あたしだったら一発で飛ばされちゃうよ。そしたら泥だらけでしょ、最悪」
「私も無理かも」
「やるじゃねえかブーアの奴」
「ここからですわ。さあブーアあなたの魔法見せて頂戴」
ブーアはしばらくそのままの姿勢を保ちつつドリーチェを押し始めた。他の魔法少女達は『おお』なんて声が出ていた。
それからブーアは相撲の上手投げの体勢になってドリーチェを地面に叩き付けると、地響きと共に砂煙が豪快に上がった。
倒れたドリーチェは直ぐに立ち上がると、ブーアと少し間合いを取って頭から角のようなモノを突き出し再びブーアに向かって走り出す。
「おいおい、あんなの突き刺さったら怪我しちまうんじゃないか?」
ティーナ以外は誰も喋らずその行く末を見ている。
ブーアは避けることなく今度は身体が薄らと鈍く光り始めた。そこにドリーチェが突っ込んでゆく。
「ブーア!」
ティーナが行こうとするのをグローが止めた。
「何で止めるんだ。ブーアのピンチじゃないか」
「よくご覧なさい」
グローの言葉に視線をブーアに戻す。ドリーチェの角に貫かれたブーアがいると思った次の瞬間、ドリーチェの角は根本から折れて宙に舞った。
「折れた?どうなってんだ?」
ドリーチェは苦しそうにその場で悶えている。ブーアはピクリとも動いていない。
「行きましょう」
グローの合図でみんな地上に降りブーアの元に向かう。
ジーア達が見たブーアは金属のような鈍い色に光っていた。
「これがブーアの魔法なの?」
ジーアが言うと閉じていた目を開けて
「ああ、あたいは身体を金属に変えることが出来る。どんな金属にだってなれるって言ってたな」
「でもそれって魔法力も関係しているんでしょ」
「ああ。それと他にもできることがあるそうだ」
ドリーチェは魔法少女達が喋っている間に立ち上がるとさっきよりも声を大きく上げた。
身体が次々分裂していく。その数は圧倒に多く、魔法少女達をすっかり周りを取り囲んでいた。
クリスマスの足音がすぐ傍まで迫っている今日この頃です。
読んでいただきありがとうございます。
やっぱりケーキとチキンは外せないアイテムなのでしょうか。
そしてプレゼント。何歳になっても嬉しいですね。
皆さまはどんなプレゼントを用意したり貰ったりするのでしょう。
世界がどこまでも平和でありますように。今の私の願い事です。
次回も読んでいただくこと、私にとって最高のプレゼントです。
ベツレヘムの星に祈っています。




