魔法少女として本格始動 1
いろいろあった昨夜から一夜明けた。振り返ることがあり過ぎる。
あれから一人ぼっちになった僕は会社まで歩いて戻った。夜も遅かったが他の人とのすれ違うのを避けたため裏通りを進んだ。おかげで着いた頃には会社の灯りはほとんど消えていた。
渋る守衛に何とか無茶苦茶な言い訳をつけ敷地内に入って、やっと研究室に戻ることが出来た。それから改めて着替えてタイムカードをチェックして帰路に着いた。終電間近だったため家に着いた頃には家族はみな眠っていた。
静まり返った家。静かにドアを開錠して静かに廊下を歩く。キッチンには用意されていた夕食あった。それを見て僕はようやく自分が空腹だったことに気がついた。
ラップを剥がしてレンジで温めて、静かに自分の部屋に戻って静かに食べ、それから静かにお風呂に入って、本当の意味でやっと一息つくことができた。今日は終わった・・・ホッ。
割れた眼鏡は引き出しに入れ、度の合わない古い眼鏡を出してベッドに腰掛けてから電気を消してカーテンを開けて外の景色を眺める僕の手にはジーアから受け取ったステッキが握られていた。
走馬灯のように記憶が流れてゆく。僕はジーアと出会い、魔法少女に変身して、空を飛んで、仲間と出会って、ドリーチェを初めて見て、とにかくいろいろあって今ここにいる。
誰も知らないもう一つの世界の理とでも言った方がしっくりくるのだろうか。
いつの間にか眠っていた。
僕は妻に起こされて遅刻ギリギリ会社に到着して、まだ整理のつかない混乱した頭で1日仕事をした。本当は今日も残業予定だったが適当な理由をつけて定時で退社。
そして
今は自室の机にてステッキを目の前において眺めていてる。
一晩経っても消えることはなかった。やっぱり現実だとあらためて実感する。
今夜はドリーチェはやってこないのだろうか。夜とはこんなに静かなものだとあらためて実感する。折角だからコーヒーを一口飲んでから今夜はジーアとじっくり話しをしようじゃないか。
意識を集中する。すぐにジーアの声が聞こえてくる。
「こんばんは、仁。呼び出すなんて何か用なの?」
「今夜は静かだからいろいろと話しできたらって思って」
「静かな夜だから仁は私とお話しがしたいと」
「そうだね。昨日の今日だけど、いろいろ聞きたいことがあって。それに毎晩ドリーチェに出てこられたら仕事との両立も大変だろうしね」
「で、仁は一体何が聞きたいのかしら?言っとくけど私のプライバシーはNGだからね」
「何って、そりゃ思いつくこと全部かな。突然すぎたし、当然だけど知らないことが多すぎる。もちろんジーアのプライバシーは尊重する。それに他の魔法少女達だって知らない事のほうが多いみたいだし」
「突然っていうのは確かね。でもいっぺんには無理よ。私にも答えられないことあるから」
「構わないよ、それで。必要な情報は共有していた方がいいと思うんだ」
「分かったわ。なら質問して」
「まずドリーチェだ。あれは一体何だ?」
「最初の質問らしいわね。どこまで仁が理解できるか分からないけど、ドリーチェって私達魔法少女の対極の存在かな。彼らと言っていいのか分からないけど、私達は彼らのマルヴを浄化するのが本来の役目なの」
「浄化?それってどういう意味で?浄化されたドリーチェはどうなる?」
「浄化されたマルヴは新たなる転生の始まり。つまり生まれ変わる。命とはそうやって絶えず死と生を繰り返している。私達の浄化するマルヴは転生の循環の環からハジかれた魂」
「・・・輪廻転生ってほんとにあるんだ。で、そもそもドリーチェってどういう存在なんだ?」
「ドリーチェとは生前、命を粗末に扱ったり、私利私欲に駆られて悪いことをした魂。そういう者には罪が科せられる。闇に落ちてしまう。彼らが彷徨い辿り着くのがアルガトネオル。ここまで辿り着いたドリーチェは私達魔法少女によって浄化された後、転生の環に戻ることができる。言わば罪を償った代償なの」
「もしアルガトネオルに辿り着くことができなかったら?」
「残念だけど闇に飲まれて消滅してしまう」
「消滅・・・随分なことだな。で、そのドリーチェがどうしてこっちの世界に?」
「ドリーチェの中には現世で強く遺恨、えっと思念とでも言えばいいのかな。とにかく強い執着をもったドリーチェはアルガトネオルではなく、ブリオングロードを通り抜けてしまうことがある。それは仁達の世界では幽霊とか亡霊っていわれる霊的存在になる。その中で特に歪んでしまったマルヴがドリーチェとして実体化を持って姿を現わす」
ジーアの説明は僕の理解の範疇を越えている。でも霊的な何かという存在があるという事実だけは受け入れるしかなさそうだ。
「何となくだが納得するしかないようだな。あと気になることをグローが言っていた。何時の時代も魔法少女は一人しかいなかった、と。それがどうして複数いる?グローだけじゃない、ミアンにも会った。他にも来る予定があるのか?」
ジーアはすぐには答えてはくれない。返事に少し時間がかかった。
「今までは本当にたまにしかそっちの世界に現れなかった。実は最近ドリーチェの中で不穏な動きがあることは確かなの。彼らは何かしらの方法を見つけて容易にブリオングロードを通る術を見つけたんじゃないかって。本来ブリオングロードは私達でも通行不可能なのよ、普通なら」
「それを可能にした?グローは破壊しかしないって言っていた。けど本当は何かしらの意図があるとしたらそれは一体何だ?」
「分からないの。アルガトネオルにも異常な位ドリーチェがやって来ている。魔法少女達は休む暇もないくらい働いているわ。こんなこと今までなかった。循環の環に異変が起こっているとも言われてる」
今、ジーア達の世界では大変な事態になっている。その余波はいずれこの世界にも波及するってことなのだろうか。だからたくさんの魔法少女が必要になったってことなのか?
「ジーアって僕が変身していない時はそっちでも闘っているのかい?」
「私のように依り代を持ってしまうとこっちでは戦わない。魔法力を蓄えておかないといけないから。だから私以外の魔法少女達が頑張ってる。心配してくれてありがとう」
「そうなんだ・・・だとしたら、この世界で魔法少女の数が増えれば増える程、戦いが激しくなるってこと?」
「否定しないわ。けど心で負けないで。魔法を信じて魔法を使うの」
「その魔法もまだまだこれからだよ」
僕はコーヒーを一口飲んだ。頭の中が現実として捉えてくれない。でも・・・。
「仁、私はあなたに大変なことを押し付けようとしているのかも・・・だから耐えられないようなら言って」
「言ったらどうなる?」
「もちろん依り代としての関係は終わって元に戻るだけ。記憶は消させてもらうけど」
「記憶を?」
「全部なかったことになる。仁は何も心配せずに日常に戻るの」
「そうすると・・・僕の歴史は詐称されるのか。なんか釈然としないな」
「そうかもしれない。でもいずれ時が来たら仁の記憶から私達魔法少女のことは忘れ去られてしまうの」
「これが今までの魔法少女と依り代となった人間の歴史ってことか」
「時代が変われば依り代も変わる。仕方のないことなの。だってそんな記憶・・・欲しいの?」
「これは僕の人生なんだ。どうして操作されなきゃならない。今ジーアは記憶が欲しいって言ったよな。もし僕が望めばその記憶は残せるのか?」
「条件があるわ。とても・・・ううん、今はその話は・・・」
「条件?それは何だ?」
「今は言わない。仁がこれから魔法少女を続けて、最終的に同じ判断した時教えるわ。ねえ分かって。今はドリーチェを倒すことだけ考えて欲しいの」
「・・・分かったような分からないような。まあ、いい。僕はジーアに選ばれたんだ。やれる限りはやってみようと思う」
今の話を聞いて引き下がれるワケないじゃないか。これは僕の知らない世界の話じゃない。現実の話なんだ。僕にはそれができる。だから選ばれたんだ。仕事では会社や社会に、魔法少女では世界に貢献できる。普通ならこんな人生を歩むことなんて出来ないんだ。自分が選ばれたこと。十分誇りに思えるじゃないか。
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ」
ジーアが笑っている顔が想像できる。それはきっと僕にはできない笑顔だろう。
「次・・・いいかな・・・・・・(急に?なんだこれ?)」
「どうぞ。と、言いたいところだけど・・・」
「僕にはこれが何なのか分かる。今、尋常じゃないくらい肌がヒリヒリするんだ」
「そう。ドリーチェよ。仁、変身して。後は頼んだわよ」
「ちょっとだけカッコ付けさせてもらう」
「また変な呪文でも唱えるの?」
「違う。こういこうとだ」
ジーアは黙って答えを待っている。こんなこというなんてテンションがおかしいのかもしれない。だがこれは僕の決意の表れでもあるんだ。
「任せておけ」
机の上のステッキを握り僕は変身する。二回目。初めての時より早くなる。
呪文なんてただの飾りだ。そんなものいらない。願いが本物なら叶う。
さあ行こう。私は窓を開け放ち勢いよくベランダに立つ。一応近所の目を気にしてみたが、気にするまでもなかった。誰も他人のことなんて気にしていない。
頭の中にグローの声に響く。
「ジーア、ミアン。ドリーチェです」
「分かってる。グロー、どこに行けばいいの?」
「ジーアですね。わたくしの感じだと昭和記念公園の辺りが濃厚ですわ」
「すごい。グローは相手の場所が分かるの?」
「慣れれば大体の位置が分かるようになりますわ」
「そうなんだ。さすが先輩。頼りになる」
「二週間ですが。ところでミアン、聞こえてます?」
「返事ないね。聞こえてないのかな?」
「そんなはずありません。仕方ありませんね。二人で行きましょう」
「オッケー。じゃ現地で」
私は夜空に向かって身体を浮かせ立川昭和記念公園に向け飛んだ。街は帰宅する車や電車の灯りが都心から郊外に向けて放射線状に動いているのが分かる。空から眺める景色って素敵。
「みんなの平和。私が守るから」
ジーアは自分に起こった偶然を必然として受け入れ始めていた。
誰も知らない。誰にも感謝されない。でも今はそれが不思議と心地良かった。
魔法少女。本格始動です☆
イルミネーションの季節です。空から眺めたらどんな風に見えるのかな?
読んでいただきありがとうございます。
修正している内に文字数が増えてしまいました。毎度のことでスミマセン。
これから年末まで街中にはイベントが多くて楽しみですね。
次回も楽しみって思ってもらえるよう頑張ります。
次もよろしくお願いします。




