僕は魔法少女になった 6
警官は手錠を持って僕に近づいてくる。
終わりだ僕の人生。厄年なのに厄払いをしなかった罰が当たったんだ。
お先真っ暗。心の中では家族の顔がチラつく。僕はなんて罪深いことをしてしまったんだ。
絶望に暮れている。あと少しで僕の手には冷たい手錠が・・・
『カチ・カチ・カチーン』
どこかで釣り鐘式の時計の音がする。子供の頃、祖母の家にあった時計と同じ音だ。その音は世界全体に響いているようにも聞こえる。
音が止むと周りの空気がなんとなく重く体にのしかかってくる。表現が難しいけどプールに全身が浸かっているみたいな、時間という流れが重さとなって体に纏わり付いている。
僕もそうだが有栖も同じような感覚で周りを見回している。一体なにが起こった?
どういうことか分からないが警官の動きがビデオを止めたみたいに動かなくなっている。それは今にも動き出しそうな位よくできた彫刻のようだ。なぜ僕と有栖は動くことができるのだろう?
「ど、どういうことだ?」
「さあ?わたくしにも分かりませんわ。それになんか体が重いです」
有栖はスマホを出す。
「・・・壊れたのかしら」
「どうした?」
「実はさっきから時間が進んでいないんです。最新機種のはずなのに」
僕もポケットを探ってみたがあいにくスマホはデスクの上だったことを思い出した。
「そうだ」
腕時計ならしていることを思い出す。
「・・・・・・僕の時計も止まっている。これは故障じゃない。もしかして新たなドリーチェとか?」
「そんなはず・・・わたくしが聞いているのはドリーチェは一日に一回。それ以上はないと」
ならこの現象はなんだ?時間が止まる?・・・もしこんなことが現実にできる存在って・・・
僕がその先を言おうとしたところで、頭上から声が聞こえた。
「お〜い。やっと見つけた」
僕と有栖は声の方を向くと宙に浮く魔法少女がいた。彼女はゆっくりと僕達の目の前に降りてきた。
銀髪が月に照らされて輝いていた。瞳の色も満月のように黄色く光っている。
「あたしミアン。よろしく」
ウインクをすると瞼から☆が散ったみたいに見えた。ミアンは周りを見回してから
「ねえ、ドリーチェは?どこにいるの?」
「わたくし達が倒しました」
「達っていうか正確には彼女一人でね」
「え〜折角来たのに」
ミアンはホッペを膨らます。この時も頬から☆が舞う。そういうエフェクトが掛かっているのだろうか。僕は・・・ジーアはそういうエフェクトはない。
「遅いからですわ。ところでこれってあなたがやったの?ミアン」
「これって?」
有栖は動かなくなった警官を指差して言った。
「そう。あたし。エッヘン。褒めていいよ」
ミアンは背後にカードを展開してた。このカードにも星屑みたいなキラキラとしたエフェクトが掛けられている。
「カードか。いろんな魔法があるんだな。って、これって・・・花札?」
「うん。最初はタロットカードを渡してくれたんだけど。花札ってあたしとお父さんとの思い出が多いんだ。だから変えてもらった」
「ふうん。随分融通が利くんだな」
「えへへ。いいでしょ」
ミアンはキラキラと笑った。いい加減このエフェクト・・・鬱陶しいな。でも本人は気にしていない?それとも気に入っている?どっちにしても慣れるしかないのか?
じっと見ているとミアンも僕達を観察するように見ていた。特に僕の方を多く見ている。
「ねえ、こっちの彼女は分かるけど、おじさんもなの?」
またしても僕の心はれちょっと傷ついた。もしこれからも魔法少女が増えるならその度に僕は人知れず傷付いて神経をすり減らしてゆくのだろうか?他に男がいないものか・・・今はまだ気持ちには余裕がある。だから正直に答える。
「そういうこと。ところで君の本体はやっぱり女の子なのかい?」
つい確認したくなって聞いてみるとミアンはちょっとだけ顔を振って
「ううん、違うよ。えっとあたしは、じゃなくて、僕は『四月一日 鏡一郎』って言います。今は小学四年生」
「小学四年生?」僕は驚いて言った。
「また男の人なの?一体魔法少女達は何考えているのかしら」
僕達のやり取りを見ていた有栖は溜息をついている。
「そんなこと言ってもな。ジーアが波長が合わないと駄目だって。男、女関係なく」
「まあ、そうでしょうけど。仕方のないことですわ」
有栖はもう一度溜息をついた。ついでに僕も溜息をついた。
「ねえ、あたしは自己紹介したよ。二人の名前も教えてよ」
「わたくしは水無月 有栖。魔法少女はグローよ」
「神谷 仁。僕の魔法少女はジーアって言うんだ」
「グローにジーアかぁ。えへへ、なんか楽しいよね。魔法少女。最初に声を聞いたときはビックリしたけど」
「楽しい?そうかしら」
「思わなかった?魔法は使えるし、空も飛べるんだよ」
ミアンのキラキラが増したように見える。子供は気楽でいい・・・ミアンのことをそんな感じで見ていたがよくよく思い出してみると大人の僕だって正直楽しい思っていた。けど、価値観や生きている時間が違い過ぎる。僕達は仲良くすることができるのだろうか?甚だ疑問しかない。
「ミアン。今のうちですわ。ドリーチェと戦えば分かります」
「そんなのあたしの魔法でやっつけてやるんだから」
「勇ましいことで」
まだ体は重い。これもミアンの魔法なのか?それに事前に話してもいないのにどうやってこの場所がわかったのだろう。
「ミアン、聞いてもいいか?」
「え?なになに?」
「どうやって僕達を見つけた?変身してないのによく分かったな」
「あ、それはね、カード使ったんだ。時間を止めて、魔法少女には掛からないようにって」
「そういうこともできるのか。僕達は変身してないけど・・・動ける」
変身していない代償みたいなモノなのか?この纏わり付くような重さは時間の重さとでも理解した方がいいのか?見たところミアンは平気みたいだ。なら変身したらこの違和感はなくなるのだろうか。
そんなことを考えてみる。とても科学的な説明はできない。物理法則を全く無視しているのだから。
「二人とももう変身しないの?」
「今日はもう終わったの」
有栖は説明する。僕も同じ気持ちだ。
「ふ〜ん。だったらこんなとこで変身解かなくてもよかったんじゃない?」
「そんなこと言われても、大丈夫だと思ったのです」
「危なかったじゃん。あたしが来なかったら社会的に抹殺されてたよね。特にジーアの方は」
確かにその通りではある。だが事態が良くなったとはまだ言えない。
「それは・・・ジーアの姿にびっくりして・・・」
「僕のせいだって言うのかい?」
「だって本当のことです。ホントにびっくりしたんです・・・」
「驚くなって、宣言しておいたのに」
なんで僕は中学生相手に本気になっている?落ち着け。僕は大人。相手は娘より一つしか違わないじゃないか・・・
「まあまあ、あたしの魔法ならなんとかできるかも」
「時間以外もを操れるの?」
「時間っていうか、カードの出目?。まだ他に何が出来るかはわからないけど。叶えたいことを強く願うことが大事だって。だから時間だって止めることができたんだけどさ」
「だからって何でもってわけにはいかないだろ。僕達自身の魔法力に限界だってある」
「あ〜そうかも。時間止めるのだって結構疲れたかな」
「そろそろタイムリミットみたい」
「そうなんだ。ミアン、助かったよありがとう。でもな・・・」
僕はこの場を逃れたとしても後から問題にならないか心配になった。なんといっても顔を見られているし有栖に至っては学校の特定もされている。
「どうしました?早く行きましょう。これを」
有栖が警官からステッキを取り上げて僕に渡してくれた。でもまだここを離れるわけにはいかない。
「ちょっと待ってくれ」
これまでも同じように魔法少女が世界を影から守っていたとしたら、なんで今までニュースになっていない?すぐにネットで広まってしまう世界だというのに。そういう記事は見たことがない。
僕は意識を集中して心の中で強く願った。『ジーア、返事を』
すぐに返事が返ってきた。僕は無事繋がったことにホッとした。
「なにかしら?」
「ああ、うん、実は少々面倒なことになって」
僕はこれまでの経緯を話した。警官に追われたこと、ミアンと会ったこと。その他諸々。
「大体分かったわ。ならミアン一人でも出来るから。私の言うことをミアンに伝えて。大丈夫、きっと上手くいくから」
僕はジーアの言葉に安堵してそのままミアンに伝えた。
「へぇ〜、そんなことも出来るんだ。わかった、あたしに任せて。じゃあいくよ」
ミアンは少しだけ宙に浮いて両手を広げて軽く深呼吸をして意識を集中する。体全体が銀色に光る。
「全てを元通りに。スラーン!」
ミアンが唱えると銀色の光が世界全体に広がってゆく。
僕たちは少し離れたところに身を隠して様子を窺った。しばらくするとカチッと音が鳴る。再び時間が動き始めた合図だ。
「どうだ?」
警官は自分が今まで何をしていたのか思い出すように周りを懐中電灯で照らして、そのうち踵を返して戻って行ってしまった。
「・・・・助かった。ジーアの言った通りだ。今度からは戦いが終わったらこうした方が良さそうだな。みんなの記憶も消えるし、破壊されたものも元に戻るってことみたいだから」
「そんなこと出来るなんて、わたくしグローから聞いていませんでしたわ」
有栖はそう言うと歩き出す。
「それでは失礼します」
有栖の目の前には一台の黒塗りの車が控えていた。一体いつの間に?後方のドアには白髪頭の品の良さそうな老人が立っている。有栖が乗車したのを確認すると静かにドアを閉め、軽く会釈をすると運転席に移ってそのまま走り出した。
「お迎えか。さすがお金持ちのお嬢様ってとこか・・・っていうかあの人は魔法少女のこと知っているのか?人に話すなとは言われてはいないが普通は秘密っていうのが定石じゃないのか」
僕はテールランプを見送りながら言ってみる。隣りではミアンは背伸びをして
「じゃああたしも帰ろ。お風呂入りたいし」
「風呂?」
「じゃあね。ジーア」
答えることなく飛んでゆく。僕はその姿も何となく見送って
「さて」独り言。
さて、僕はどうしよう。とりあえず会社に戻らないと。白い作業服を脱いでステッキをそれに包んで隠した。長靴は仕方ないとして、僕もタクシーか電車で・・・
「・・・財布ない。仕方ない・・・歩くか」
僕は市ヶ谷の会社に向けて歩み始めた。空を見上げると大きな月がある。平和な世界の喧噪が聞こえる。でもそこはすでに僕が知っている世界ではないように感じる。
これはやっぱり夢なのか?
こうして僕は魔法少女と呼ばれる存在になった。
11月11日。1がたくさん並ぶ日。
こういう日がアップ日だと縁起良さそうですね。
読んでいただきありがとうございます。
ポッキーでも添えて次回のアップに向け孤軍奮闘です。
次回も立ち寄っていただけると嬉しいです。




