僕は魔法少女になった 5
「終わったのでそろそろ元に戻ろうかと思うんだけど」
グローを覆っていた青い光は少しずつ消えていった。辺りの闇が少し濃くなったみたいだ。
「元に?それって変身を解くってこと?」
「そうよ。ドリーチェは倒した。だから家に帰ります。今迎えの・・・」
「そう、それ!どうやったら元に戻れるの?ジーアから聞いてなくて」
ジーアは食い気味にグローの言葉を遮る。
「あなた本当に何も聞かされてないのね・・・」
グローはスカートのポケットに手を入れて何かを取り出す。
「これは鏡です。先ずは自分の姿を映すの。それからグロー本人に話しかける」
折りたたみ式の手鏡を開いて映った自分自身に向かって話し始める。
「お疲れ様。今日もドリーチェは倒したわ」
すると一人で会話するように鏡の中のグローが話し始める。
「有栖、ご苦労様。今日はもうおしまいでいいかしら?」
「ええ。元に戻るわ」
「それじゃあ、有栖、またね」
ジーアが見ていたグローの姿は陽炎のようにユラユラと揺れていた。やがて揺らぎ収まるとそこには制服姿の女の子が立っていた。
「こういう風にやるんです。鏡でなくても自分の姿が映れば元に戻れます」
女の子は姿勢を正してにっこりと笑う。
「初めまして。わたくし、グローの依り代になっている『水無月 有栖』と申します。よろしくお願いします。ジーアさん」
と深々、ぺこり、とお辞儀をする。ジーアも反射的にお辞儀をして、相手のことをじっくりと見た。
グローの時とは随分言葉使いが違う。穏やかでゆったりと。どこをどう見ても育ちの良いお嬢様にしか見えない。今時珍しい乙女カットが古風な感じを伝えてくる。
「よろしく、ってその制服は金持ちしか通わないっていう・・・」
「双葉学園中等部の二年生です」
「中学二年?」
「はい。ところでジーアさんも元に戻られるなら鏡をお貸ししますよ」
ジーアの目の前に差し出される手鏡。思わず動揺して反射的に後ずさりまでしてしまう。
「え?私?今?ここで?」
「何か問題でも?」
「いや、問題っていうか・・・」
ジーアは困り果てた。元に戻ったら実は・・・おじさん・・・どうしよう。いや、悩んでいてもいつかはバレる。
なら大人として冷静になるんだ。よく考えるんだ。
別に隠す必要なんてないじゃないか。僕だってちゃんと魔法少女に選ばれたんだ。神谷 仁。男として胸を張るんだ。大丈夫だ。きっと分かってくれる・・・さ。
「決めた。私も元に戻る。でもさ、あの、一言だけ言わせて」
有栖は首を傾げて不思議そうな表情を浮かべる。
「あのね。驚かないって約束して、私の姿に」
「?どういうことです?別に驚きなんてしません。お互い本来の姿は知っておいた方がいいと思うんですが・・・何か秘密でもあるのですか?」
「別に秘密って・・・ううん、そうだよね。あなたの言う通りだよね。でももうちょっと待って」
「わたくしのことは有栖って呼んでいただいて構いませんわ」
「わかった。じゃあ有栖、いくわね」
ジーアは何回か大きく深呼吸をした。吸ー吐ー、スーハー。
いよいよだ。やるぞ。腹を括れ。バンジージャンプをした時だって思い切って飛んでみたらなんてことなかったじゃないか。何も問題はない。
「有栖、鏡を借りるね」
「もちろんです。プライベートでも仲良くなりたいですね」
「あはは・・・(困)」
有栖から鏡を受け取ってゆっくりと開く。映った顔は泥だらけだった。
「あ〜こんなに汚れちゃって。ごめんねジーア。可愛い顔こんなにしちゃって」
同じように話し掛けてみると鏡の中の本物のジーアは答えてくれる。
「気にしないで。それよりどうだった?魔法少女になってみて」
まだなったばかりだけど、驚くことばかりだけど
「正直びっくりすることばかりだし分からないことだらけ。でも素敵。こんな気持ちいつ以来かな」
「何にも言ってなくてごめんね」
「ううん。今は仲間がいるから。それよりこの近眼は治らないの?」
「だって元々はあなた自身の身体だもん。そこまでは無理よ」
「・・・そっか、そうなんだ。残念」
あ〜眼鏡の修理代・・・どうやって捻出しよう・・・
「こうしているってことは変身解くでいいの?」
「あ・・・うん。グローも変身解いたから・・・だからお願い」
言った瞬間思わず固唾を飲んだ。さあ、元に戻るんだ。頼むから驚かないでくれ。
「了解。お休み、仁。ゆっくり休んでね」
ジーアの身体は揺らめく・・・姿は徐々に元に戻ってゆく。これで仲良くなれるのだろうか?
「きゃあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」
水無月 有栖はとても大きな声で叫んだ。
やはりこうなるのか・・・驚き過ぎだろ。予想を遥かに越えている。
「コホン。驚くなって言ったと思うけど」
「え?え?どういうこと?何で?何で?」
驚き過ぎでお嬢様的冷静さを失っている。僕は溜息を深く、とても深くついた。何から話そうか・・・
「僕がジーアの依り代、神谷 仁。よろしくって言ってもいいかな?」
「なんで?どういうこと?なんで?」
「少し落ち着いて欲しいんだけど。って無理かな。僕だってそれくらい驚いたっていいくらいなんだ」
「なんで、おじさんが魔法少女なの?だって少女って言ったら女の子じゃないの」
おじさん・・・正直傷付く言葉だよな。僕だってなりたくてなったわけじゃないんだ。これはとても自然の摂理なんだ。どんなイケメンでもおじさんになるんだ・・・。
水無月 有栖は落ち着きを取り戻そうと一生懸命呼吸と整えている。
「あ、あの少し質問させてください」
「質問?いいけど」
「歳は幾つなんですか?」
「今年で42。ついでに言うと結婚もしていて中学一年になる娘がいる」
「42?わたくしのお父様と二つしか違わないわ・・・頭が理解を拒んでいるわ」
「なんか複雑な気分だな。でも現実なんだ。そうだ、君のお父さんは僕より年上なのかな?」
「ええ、そうです。でもそんなことより・・・えっと・・・」
「神谷仁。神谷さんでも、仁さんでも、おじさんでも君の呼びたいように好きに呼んでいいよ」
「・・・では・・・神谷さん・・・あの、ちなみにご職業って何を?」
「僕は新薬の開発をしているんだ」
「新薬?」
「新しい薬を開発している研究者、薬剤師って言えば分かり易いかな」
「そうなんですね。それで製薬会社はどちらに?」
「分かるかな。市ヶ谷にある極東製薬ってとこ。・・・何だか面接されてるみたいだな」
「ご、ごめんなさい。こんなにびっくりしたの初めてなんです」
「まあ、そうだろうな。まさかこんなおじさんが魔法少女やってるなんて誰も想像しないだろうからな」
「ええ、まさに、まさかですわ。こんなこともあるんですね」
「やっと納得してもらえそうかな。じゃあとりあえず、あらためて。神谷 仁です。魔法少女は君の方が先だから、先輩よろしくお願いします」
「そんな、先輩だなんて。わたくしの方こそ・・・ずいぶん失礼しました」
やっと握手して無事終わった・・・と思った時だった。
「君たちこんなとこで何やってる?」
僕たちは懐中電灯の灯りに照らし出された。
「大きな声がしたから来てみれば。君達、こんなとこで何をやってる?」
目の前に現れたのは巡回中の警察官だった。なんとなく面倒なことになりそうな予感がする。
「とっくに閉園しているんだ。どうやって入った」
もっともな質問だ。まさか飛んで来たなんて言っても信じてもらえる確率は、まあ、0パーセントだ。
「え?ああ、すみません。閉園時間に気がつかなくて」
僕はとぼけて言ってみた。いくらなんでも無理過ぎる。見え透いた嘘は当然印象が悪い。
「君、眼鏡が割れているけどどうした?」
「これは転んで・・・」
正直に答える。これは本当のこと。警察官は隣りを見て
「君達は親子かなにかなのか?それとも何かされていた?正直に答えてごらん」
「親子ではありません。わたくし達は先程知り合ったばかりです」
本当のことだが、その言い方だと僕の立場が悪くなる。警察官の目の色が鋭くなったのがこの暗闇でも分かる。正直に答えれば答える程立場が危うくなっていく。困った・・・僕の人生、詰むのか?
「君の制服、双葉学園のものだね。おい君、署まで来てもらおうか。お嬢さんはすぐ家に連絡を入れよう。大丈夫、もう怖くない。それと怪我はないかな?」
こうなる展開・・・ちょっと待て。僕は完全に誤解されている。ここはちゃんと正直に言おう。
「今しがた知り合ったのは本当です。それに彼女に対し僕はやましいことは何もしていません」
「言い訳なら署で聞いてやる」
「誤解です。僕たちはこれから帰るところだったんです」
「君の言ってることはよく分からんなあ。割れた眼鏡、真っ白な服、さらに手に持った・・何だそれは?」
僕は右手を見るとそこには当然ジーアから託されたステッキが握られていた。
「君はそんなおもちゃを持って何をしようとしていた?ん?世間ではそう言うのが流行ってるのか?」
「あ、あの・・・これは・・」
魔法少女のステッキです。なんて正直に言ったら頭のネジが緩んでいると思われるのは必須。
「まあいい。とにかく一緒に来るんだ。立ち話もなんだから朝までゆっくり聞いてやる。応援を呼ぶからそのまま静かにしていなさい」
「ま、参ったな・・・あの・・・」
その瞬間だった。有栖が僕の手を思いっきり引っ張って
「早く!逃げるのよ」
「え?・・逃げる?」
僕達は走り出した。あまりのことに警官は一瞬間が空いたが、すぐに園内に響くように警笛を吹いた。
「に、逃げるってどこに?・・・ハア、ハア」
「もう息切れしているんですか?」
「そ、そんなこと・・・言ったって・・・ハア、ハア、ハア」
後から警官が追ってくるのが分かる。けど振り返ってなんかいられない。
僕たちは一生懸命走った。有栖は慣れているのだろうか。暗い茂みの中を何の迷いもなく入っていく。
「こっちに抜け道があります。もう少しです」
「ハア、ハア・・・ぬ・・・抜け道?んげ???」
ゴーン☆★☆!!!☆★☆
片方の割れた眼鏡のせいでよく見えてなかった。突き出た枝に額をぶつけてしまった。
「あがが・・・」
その場に踞ってしまう。痛い。だが捕まるのはもっとマズい。でも痛い。
「だ、大丈夫ですか?」
「あたた・・・だ、大丈夫だ・・・それより・・・」
警官が近づいてくる足音がする。『捕まって人生を詰む』ことは人生設計にない。もちろん魔法少女になることだってないけど。
「い、急ごう。平気だ」
僕はおでこを撫で撫でしながら立ち上がった。そして気がついた。
「あ、あれ?ちょっと待ってくれ。あれ?あれ?どこだ?」
「どうしたんですか?」
「さっきのでステッキを落とした。どこだ?暗くて分からない」
「急いで探さないと・・・・」
僕は暗い中、視界も半分な中、必死に探した。有栖も一緒に辺りを探した。
「おい、君達が探している物はこれかな?手間掛けさせるなんていけないなあ」
追いつかれた。しかも警官の手には僕のステッキが握られている。ゆっくりと僕たちに近づいて
「君達逃げるなんて良くないなあ。これがどういうことか分かるよな。応援も呼んだ。観念しろ」
人生初の絶体絶命。僕がおじさんじゃなかったらこんなことにはならなかったのかもしれない。
せめて有栖だけでも逃がすことはできないだろうか。僕の人生はその後があれば考えればいい。
「あの・・・もう逃げません。だから・・・」
「最初から素直にしていれば良かったんだ。言い訳はあとで聞こう」
警官が取り出す手錠がとても冷たく不気味に光っていた。
夜の新宿御苑。一回だけイベントで入ったことあります。
その時もホントビックリするくらい真っ暗で高層ビルの灯りしかなかったです。
読んでいただきありがとうございます。
魔法少女って誰が最初に考えたのか、そんなことをたまに思ったり。
私の文章はどうものんびり(それが自分のペースかな)なので
次回も読んでいただけたらと思っています。
よろしくお願いします。




